表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/225

127:ギャルと屋台を巡った

 やきそば、たこ焼き、フランクフルト。匂いだけで空腹が刺激される。僕がキョロキョロと出店を見比べていると、隣からクスクスと笑い声が聞こえた。


「もう……可愛いなあ」


「え?」


 なぜ。僕は夕飯を探してるだけなのに。


「雛乃みたい」


「ええ!?」


 それはちょっと。


「何も食べてこなかったんだ?」


「はい。やっぱ祭りに行くなら、出店の粉物とか食べたいじゃないですか」


「まあ確かに。アタシは軽くサンドウィッチつまんで来たけどね」


 食べ過ぎないようにという節制かな。お金の面(お祭り価格だから高いし)から言っても、モデルとしての体型維持の観点から言っても、確かに屋台でドカ食いは好ましくないだろうし。


「あ、でも。たこやきは食べたいな。半分こしてくんない?」


「いいですよ」


 星架さんが財布を出そうとするから、


「あ、僕が出します」


 と断った。


「え? いいよ。アタシも半分食うんだから、お金も半分。明朗会計そのものじゃん」


 星架さんが口を尖らせる。


「きょ、今日は僕から誘ったデートですから、その」


 特別な日なんだ。甲斐性が男の価値っていうのも前時代的かも知れないけど、やっぱり見栄くらい張りたい。好きな女の子相手なら尚更。


「……わかった。ありがとう、ご馳走様だね」


 星架さんも僕の心情を汲んでくれたみたいで、素直に引き下がってくれる。


「ありがとうございます」


「なんでアンタが礼言ってんの?」


 笑われてしまう。けどやっぱり「ありがとう」なんだよね。甲斐性を見せたいってのも本当だけど、4日前のお礼も多分に含んでるから。心を救ってくれた返礼が粉物だけじゃ全然足りないけど。


 12個入りを買って、近くの駐車場の縁石を椅子にさせてもらう。使い古しのタオルをカバンから取り出して、星架さんの座ろうとする縁石に敷いてあげると、「気が利くね」と微笑んでくれた。


 たこやきに続いてやきそば、フランクフルトもペロリと平らげ(何だかんだ星架さんも割と食べていた)、お腹をさする。星架さんがすぐ近くの自販機でお茶を買って来てくれた。これくらいは出させて、と言ってくれるので素直にお礼を言って受け取る。カッコつけるにも、申し訳なさを感じさせちゃ本末転倒か。


「ふう。食った食った」


 少しだけ足を伸ばした星架さん。軽い食休みかな。


「なんか、やっと普通になってきたよね」


「普通?」


「さっきまでのアタシら、ちょっと硬かったっしょ」


「あ、ああ。それは、まあ」


 僕としてはこの後、人生の一大イベントが控えてるし。そう考えると、今こうして星架さんの言う「普通」に戻れてるのは不思議な感覚だ。


「やっぱアタシらは、こっちの方が良いよなあ」


「それは、はい。僕もそう思います」


「じゃあさ。取り敢えず今は、お祭り楽しもっか」


「そうですね」


 本当に不思議だ。告白に対する緊張も、もちろん消えたワケではないのに。それとは別に、彼女と今を楽しまなきゃ損、みたいなポジティブな感覚も生まれている。

 僕も少しずつ成長してるってこと……なのかなあ。それともやっぱり星架さんが相手だからかな。


「ほら、いこ? 輪投げあるよ、輪投げ」


 星架さんが立ち上がって手を差し伸べてくる。見上げると、屋台のオレンジ電球の光に反射して、銀の髪がキラキラと光っていた。僕は少しだけ見惚れた。














 <星架サイド>



 不思議な気分だった。

 アタシは4日前に「好き」すら飛び越えた想いを康生に告白した。今日もアイビーの花言葉を教えて、遠回しな告白をした。そしてきっとデートの終わりに、康生からも返事が返ってくる。


 そんな大事な日。もっと余裕がなくて然るべきだし、以前のアタシなら日和って逃げてるか(肝心な所でチキンっていう千佳の評は割と正しい)、テンパって康生にグイグイ返事を迫ってたと思う。


 アタシも少しずつ成長してる……んかねえ。それともやっぱ康生が相手だから?


 こんなにアタシを大事にしてきてくれた康生が、今更アタシが一番傷つくことするワケないっていう絶大な信頼。康生の心に寄り添えたという自負もある。つまり……フラれるワケない。そう信じられる。


 だから今を楽しめるんだと思う。


「あ~、惜しい。10投中6本だから、こっちのお菓子ね。好きなの選んで」


 屋台のおじさんが康生に慰めの言葉をかけながら、脇の駄菓子コーナーを指さす。

 背中を丸めて、ちっこいドーナツを選んでる康生を見てると、なんか胸が締め付けられる。


「おじさん。アタシもやるよ!」


「お、まいど。300万円ね」


 300兆円払って、輪を受け取る。集中、集中。体育祭のバスケで無双したアタシなら、こんくらい余裕だ。

 ちっこいドーナツを齧りながら不安げにアタシを見る康生。負けらんねえな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 300兆円...流石に誤字ではなかったか... [一言] いつも楽しませてもらっています。 今特に楽しみにしてる作品です。
[良い点] 花火が打ちあがる前の屋台通りでの二人が普段通りになっていき、 普段の二人へ戻り屋台を楽しみお互いを意識してた緊張感をなくしていってるんでしょうか このあとの花火打ち上げではお互いに変に意識…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ