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126:ギャルのお尻を触った

 沢見湖さわみこの花火大会。

 毎年、8月の第1週あたりに開催されることが多く、平日開催でもかなりの人出で賑わう。全国的に見ても、中々に人気の花火大会だ。その人気の理由は、なんと言っても、湖面に反転して映る花火の美しさ。これ見たさに県外からも見物客が来るそうだ。


 僕たちが現着したのが午後の7時前。

 乗っていた電車が割と空いてたから、今年はそうでもないのか、とか油断してたら、駅を出て会場まで歩く人混みに圧倒された。


「ジェイワールも乗り入れてるかんね、この駅。そっちがメインだったんでしょ」


 星架さんの分析。確かに、沢見川内をせせこましく走るローカル線とは比べ物にならない人数を運んだようだ。それに、こういうのって地元民の方が行かないっていう謎の法則もあるよね。


「でもツイスタ見てると、今年は全然マシな方らしい。ひどい時は駅降りて身動き取れないとか」


「うへえ」


 人混みへの苦手意識も緩和されてきた僕だけど、流石にそれは。


「たぶん暑いからだよねえ……あと最近、近くに高層のホテルが建ったとかで、そっちに泊まって観る人も多いらしい」


「ああ、なるほど。湖面の花火が目当てなら、そっちの方がより観やすいですもんね」


「うん……」


「……」


 どうしよう、会話が途切れた。チラと横を見ると、彼女も僕を見てたみたいで、少しはにかむように下を向いた。やっぱり、さっきの花言葉の件が尾を引いてるのかな。それでも離れるどころか、手は繋いだまま。僕の無骨な指の間に、彼女の細くて白い指が隙間なく入り込んでいる。恋人繋ぎ。モールデートの日から、僕らの間で手を繋ぐと言ったら、この形式が定着した。


「……まだサクサク進めるね」


「はい」


 会話ヘタクソすぎる。星架さんも星架さんで、だいぶ緊張してるっぽいし。それは、まあそうだよね。告白とキス未遂から4日。更に今日も既に間接的に想いを伝えてくれてる。そしてそれを受けての、僕からの大事な話。その内容に見当もついてるだろうし。


「ひゃっ!?」


 と、突然、星架さんが小さな悲鳴を上げた。そしてすぐさま烈火のような怒りを瞳に宿して振り返った。え? え? 僕も何事かと彼女の視線を追う。


 小さな手が星架さんの浴衣を摘まんでいた。更に視線を下げると、3~4歳くらいの女の子。

 それを見て、星架さんも一気に毒気を抜かれたみたいで、怒り笑いのような変な顔になった。


「す、すいません!」


 パパさんとママさんだろうか、子供の手を引っ張って、星架さんから剥がす。


「おはな~」


 残念そうな子供の声。星架さんの浴衣の模様、白い花に惹かれて手を伸ばしてしまったみたいだ。

 子供を抱き上げたパパさんは気まずそうに会釈して、列を少し外れた。ママさんも頭を下げて、それを追った。


「あ、あはは。痴漢かと思った」


 凄い目で睨んだもんね。


「やっぱ居るんですかね?」


 こういったイベント事の会場では、時折そういう人が出ると噂程度には聞く。

 星架さんがもし触られたりしたら……想像しただけで気分がどんよりとして、次いで怒りが湧き上がる。ダメだ。嫌だ。


 僕は気が付けば、彼女のお尻を守るように斜め後ろに下がっていた。けどちょっと体勢に無理があって、繋いでいた手が離れてしまう。


「康生……」


 ふふ、と笑う星架さん。


「嫉妬?」


 僕はそっと頷く。恥ずかしくて顔が見られない。そんな僕の顔に彼女の指が伸びてきて、優しく頬を撫でられた。


「じゃあ腰、抱いてて?」


 そう言って星架さんが僕の脇腹の辺りに体を密着させた。後ろ手がフリーになって……僕はぎこちない手つきで彼女の腰に手を回す。


 すぐに彼女にその手を取られ、位置調整。腰と言うより、もうお尻の横側に手を置いてるようなレベルだ。僕の腕が斜めにお尻のお肉の上に乗っている。腕の内側、ぷりんと柔らかい感触。それに触れ続けたまま、ゆっくりゆっくりと列を進んでいく。漫画の古典表現じゃないけど、鼻血が出そうだ。


「康生はさ……子供、好き?」


 さっきのチビッ子の話か。


「どう接して良いか分からない所はありますけど……少なくとも見てる分には可愛いなって思います。赤ちゃんとか」


「赤ちゃん」


 オウム返しされて……僕は星架さんとの未来を、つい意識してしまった。

 な、なにを考えてるんだよ。まだ告白も成功したワケじゃないのに。というか、告白が成功したって、そんなのまだまだ先の話で……


「あ」


 列が止まる。そして前の人たちが横に広がっていく。大きな道路を車両通行止めにしてあるらしく、その道沿いに人が沢山。


「まだちょっと時間あるから、屋台覗こうよ」


 近くの誰かが連れ合いに言った言葉。その情報に僕のお腹が「くう~」と鳴った。星架さんが笑って、また僕の頬を撫でる。良かった。変な空気にならずに済んだ。


「アタシらも行ってみよっか」


 道中に居並ぶ出店たち。魅惑の香りを放つそれらを見て、もう一度僕のお腹が鳴った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 花火会場に向かう二人の甘い手つなぎから始まる甘い雰囲気 そして一瞬の緊張・緩和から子供、赤ちゃんの話題になり 最後は腰に手を回しての抱擁で移動って、もう読んでいるこっちが転げまわってしまい…
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