表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/225

123:ギャルに真心をこめて

 あれから2日経った。


 今日は従業員さんたちが全員、配達に行って、そのまま終業という形になるという事で、午後の4時くらいに工場こうばが空いた。渡りに船だ。僕の部屋はもう、物で一杯になってるから。

 フィギュア造形セットを抱えて、一階に降りて行く。金属の工具もあるから、落とさないように慎重に。それだけで額に汗が滲んでしまう。この様子だと工場内も蒸してるんだろうなあ。


 牛歩みたいなノロさだったけど、無事に工場内の作業机に到着。胸に抱えていた造形セットを広げた。「よし」と気合を入れる。

 

 アルミ線の先っちょに粘土でペタペタと顔を作っていく。丸くまとめて、少し粘土を継ぎ足して。この時点だとペロペロキャンディーみたいだけど、そこから頭蓋骨の形に成形していく。全体を均した後、形が違うスパチュラを幾つも持ち替えながら、目、鼻、口、耳まで作っていく。


「……そうだった、画像」


 スマホを片手間で操作して、ネットで拾ったジュニアアイドルの写真を画面に出す。どこかのイベントで記念撮影され、普通に公開されている物だ。もちろん完コピしたらアレだけど、参考にするくらいなら、といったところ。


「うん。似てるね、やっぱ」


 子供の頃の星架さんに一番似てる子を選んだ。と言っても幼少期の星架さんの記憶は曖昧で、ほぼ今の星架さんを小さくした感じのイメージに一番近い子というのが正確だけど。あとは子供の骨格や肉付きを参考にする上でも重宝しそうだ。


 画像を拡大して、体をじっくりと観察する。この子は早熟なのか、少しだけ胸が膨らみ始めているけど、恐らく星架さんの当時は、まっ平らだったと思われる。今でもそこまで大きくはないし。


 胴と手足用の針金を追加して結合させ……


「うわ。手足ちっちゃい」


 大幅にカットする。子供の体って本当に小さいんだなあ。


「こんな小さな体で、長い闘病生活を乗り切ったんだよね」


 もちろん、このジュニアアイドルと全く同じ体格じゃないだろうけど、それでも似たり寄ったりな体躯だったろう。それであれだけ頑張ってたんだ。


「星架さん……」


 急に涙がこみ上げそうになる。愛おしい、と思った。星架さんが僕に「愛してる」と言ってくれたけど、その気持ちがよく分かる。相手の苦しみや痛みが、自分の物のように感じられ、それを乗り越えて、楽しく笑ってくれている今の日常に感謝すら覚えてしまう。僕のトラウマに寄り添ってくれた時、彼女もきっと同じような気持ちになったんだろう、と。


 粘土を小刻みに盛っていく。おおまかな体の造形が出来たら、一旦離れて、工場の奥へ。隅に置かせてもらっているオーブンを持って来てセットする。星架さん関連の依頼を受けるようになって、フィギュア作りを再開することになったんだけど、その際にメヌカリでゲットした物だ。


 服はジュニアアイドルが着ているヒラヒラの物ではなく、パジャマに変換する。難易度は下がるけど、皺や陰影もキチンと作り、手間は惜しまない。

 完成。オーブンで加熱して固める。


「ふう」


 最後の工程。塗りだ。まずはエナメル塗料で、すみ入れをしていく。二次元キャラとかだと入れないのもアリだと思うけど、今回は三次元の人間だし、入れた方が立体感が出る。


 とにかく丁寧に。本物の彼女を扱うように。

 生命を吹き込むんだ。


 やがて塗装も終え、小学生時の星架さん、セイちゃんのフィギュアは完成した。


「やっ……たあぁ!」


 このフィギュアの完成は即ち、快気祝いの完成を意味している。

 

 魂が抜けたかのように、その場にしゃがみこんでしまう。

 何とか花火大会当日までに完成まで漕ぎ着けた。


「星架さん……」


 その間、彼女のことを考えなかった時間なんて殆どなかった。会いたい、という気持ちも勿論あった。


 けど、星架さんは星架さんで、デートの準備をしてくれているハズだ。前回のワンピースと同じように。


「もう一息」


 だから僕も全力を尽くさないと。

 完成したフィギュアを鳥の雛のように大事に支え持ち、家屋に戻って階段をあがった。


 自室に安置していたジオラマの上に、セイちゃんフィギュアをそっと置く。細長い土色の台座に、慎重に慎重に、嵌め込むように。


 配置を終えると、全体を鳥瞰ちょうかんする。


 銀水晶が幾つも群生した森。当初はもっと鬱蒼とした雰囲気にしようと思ったけど、木々の主張は最低限かつ、葉も明るい色をチョイスした。イメージとしては、陽の差す森の広場。


 そしてその広場で、少女の手を引く女性、という構図。少女は今さっき作った病弱だった頃のセイちゃん。困惑気味の表情だけど、足は止まってない。


 セイちゃんを少し強引に引っ張るのは、現在の星架さん。クルルちゃんと同じ、黒のワンピースを着せている。


 かつて憧れるだけだった可愛くて強いヒーローに、未来でなれたんだよ、という僕なりのメッセージと祝福。


「作りたいモノが作れた」


 幻想風景にこだわらず、彼女の快気祝い、彼女の為だけを思ってデザインした。


「これを持って」


 僕、沓澤康生は溝口星架さんに告白する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] >今でもそこまで大きくはないし。 時折ナチュラルに地雷を踏み抜くあたりがやはり陰キャとしか… まあ、本人には言わんと思いますが
[良い点] 銀水晶の森でセイちゃんの手を引く星架さんのジオラマをリアルで見たい [気になる点] 康生くんフィギュア作るの早すぎでプロ以上かも
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ