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118:陰キャが叱られた

 <星架サイド>



 あの後、事後処理にてんやわんやとなり、アタシの告白とキス未遂は、一旦脇に置かれる形になってしまった。


 まず、駆けつけた春さんとメグル君に抱き締められ、それからすかさず説教を受けた康生。そして次に家に帰ると、また明菜さんにハグされて、同じような内容の説教を受けていた。まあこれに関しては自業自得。アタシも一切の擁護をするつもりはなかった。


 どんだけ心配したと思ってんだ。アンタがボケっと空眺めてる間、アタシら三人、体が溶けるような暑さの中、探し回ってたんだぞ、と。


「心配かけたくないって言ってたけど、もうとっくに心配かけてんの。体調不良の連絡から三時間で、この騒ぎ。アンタ、みんなに愛されてんだよ。自覚しろよ」


 アタシも、こんな事を言った。


 康生はまた少しだけ泣いた。それを春さんと明菜さんが代わる代わる頭を撫でて慰めていた。アタシもさっきやったばっかのに、もう一度撫でてあげたくなったのは自分でも中々に重症だなと思う。


 遅れて戻ってきた芳樹さんは、半ベソで謝る康生の頭をポンポンと撫で、そしてその様子を見ていたアタシと目が合うと、深々と頭を下げた。アタシが見つけた、という報も受けていたんだろう。けど流石に恐縮してしまう。そもそもアタシにとっても、もう康生は他人じゃないんだから。


 て言うか、アタシも見つけた後、すぐに連絡すべきだったんよね。明菜さんに漏らした「公園」というキーワードから辿ってくれたみたいだけど、ホウレンソウのホの字も出来ちゃいない。


「……消防行ってくる」


 横中まで行って見つからず、地元を捜索してる家族からも吉報が届かないということで、独断気味ではあるけど、芳樹さんは警察と消防に救援を要請していたみたいだ。既に電話で「見つかった」とは一報入れたらしいけど、ケジメとして直接謝りに行くというのだ。


「私も行くよ」


 明菜さんがそれについて行って、家には子供たちだけが残された。


「春。カード使って良いから、美味しいもの、出前取りなさい」


 芳樹さんが言い残したその言葉。言われて、全員がまだ昼ご飯をとってないことに気付いた。リビングの壁、掛け時計を見ると、午後4時を回ろうとしていた。


 それを認識した途端、強烈な空腹感を覚える。きゅるるる、と小さくお腹も鳴ってしまった。恥ずかしがる前に、他の誰かのお腹の音も聞こえる。みんな似たり寄ったりって感じか。人間の体ってすげえな。


「お寿司か……ピザくらいかな」


 春さんがお腹をさすりながら言う。さっきアタシに続いて鳴ったのは、彼女だったか。そこで「くぅん」と子犬の鳴き声みたいな可愛らしい、お腹の音も聞こえた。モジモジと内股を擦り合わせるようにして恥ずかしがっているのはメグル君。誰よりも女子力高いのやめろ。












 結局、春さんとメグル君の要望もあって、お寿司を頼んでもらえることになったんだけど……


「……」


「……」


 アタシと康生は、目すらロクに合わせられなくなっていた。アタシがチラと目を向けると、向こうもこっちを見てて、慌ててお互いに視線を逸らしてしまう。或いは視線を感じて、そっちを見ると目が合って、気まずく俯く。そんなことを何度か繰り返していた。


「あー。お二人さん? あたしらが来るまでに……なんかあった?」


 春さんがおずおずと聞いてくる。


「えっと」

「あ、それは」


 アタシと康生の声が重なって、つい見つめ合ってしまう。そしてすぐ、彼の唇に目が行ってしまって……心臓がドクンと跳ねた。ドッドッドとウーハーでも効かせてるんじゃないかってくらい、体中に鼓動が響いてる。


 キス。たった二文字が頭ん中グルグルまわってる。


「あはは、ダメだこりゃ」


 春さんに匙を投げられる。出来れば、何か面白い話でもして、空気を変えて欲しいんだけど。って無茶振りにも程があるか。


「あ! お父さんから!」


 と思ったら、まさかのメグル君が場の注目をさらう。なんか知らんけど、助かる。


「テカリンピック……予選で落ちちゃったみたいです」


 出た! 鼻の頭テカリンピック。気になってたけど、絶対しょうもないし、それどころでもなかったから後回しにしてたヤツ。


「ねえ、そのテカ」

「僕のせいだよね。応援に行けなかったから」


 アタシが発しかけた質問は、康生の沈んだ声に搔き消された。


「そ、そんなことないよ。お父さんの実力不足って言うか。そもそも僕としては、もう出ないで欲しいくらいだし。恥ずかしいから」


「えっと、そのテカリン」

「だよね! なんで康生と言い、叔父さんと言い、頭のおかしいモンにハマるのやら……製作所まで変な目で見られるから止めて欲しいんだけど」


 また質問失敗。


「そんな……僕は神経を疑われるようなモノは作ってないよ」


「……」


 いや、それは。


 と、そこで玄関のインターホンが鳴った。


「あ、お寿司きた!」


「やっとかあ。お腹空いたぁ」


 ……結局、鼻の頭テカリンピックの謎は解けんかった。まあ、気は紛れたから良いか。あのままだったら、ガチで心臓逝きそうだったし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者 テカリンピック。 タイトルは思いついたけど内容までは思いつかなかったでござる。しょうがねいや!適当にごまかそう。 手な感じだったら笑う
[良い点] お互い見れずモジモジしてる二人がかわいい 今後の学校での二人の活動が楽しみです 洞口さんには即雰囲気変わったのバレそう [気になる点] 星架さんメグルくんに女子力負けちゃだめだよw (だ…
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