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106:陰キャが豹変した

 <星架サイド>



 横中東はアタシも千佳もほとんど降りたことがないから、あまり何があるか知らない。けど、


「あっちに行くと、濃厚たまごプリンの有名なお店がありますね」


 意外にも康生が詳しい。


「へえ、クッツーここら辺、庭なん?」


「あ、いや、その……」


 言い淀む雰囲気に、また彼の陰を感じる。これは助け船を出した方が良いかな。と思いきや。


「中学がここら辺だったんです」


 え!? 今までも一度か二度、中学の話になったことはある。けどその時は決まって、


「……あまり良い思い出はないですけど」


 こう言って追及をかわされてたんだ。なのに自分から話題にするなんて。


「ん? なんで? 嫌なヤツでも居たん?」


 千佳つええ! でもまあ、そっか。アタシと違って、康生の好感度をビクビク窺う必要がないもんな。いや、それにしたって、踏み込むか。流石に今度こそヘルプ入らんと。


 そう思って口を開きかけたアタシを、けど康生が切なげに見てくる。え? なに?


「……似たような感じですね。だから、あんまり長居したくなくて」


 驚いた。まさかもう一歩踏み出してくれるとは。

 

 ……康生も変わろうとしてるのかな。


 だけどそこで彼の口は止まってしまう。何かもう少しだけ話そうとしてるみたいだけど……


 アタシは千佳に目配せして、立ち止まる。そして康生の前に回って、そっとハグしてあげた。背中をポンポンと優しく叩く。


「ゆっくり。ゆっくりで良いからね。話したい所までで」


 子供に話すようにして、背中をポンポンし続ける。すると、康生の体から徐々に強ばりがなくなってきた。信頼を勝ち得ている確かな実感……は今は置いといて。


「星架さん……」


 通行人たちが怪訝そうな顔で抜き去っていく。だけど恥ずかしさよりも、彼を慈しみたいという想いの方が遥かに強い。距離を取って他人のフリをする千佳は後で説教だが。


「星架さん、僕は」


 康生が更に口を開きかけた時、


「あ、あれ? く、沓澤クンか!?」


「ホントだ! え? メッチャ可愛い子と! え! マジで!?」


 通行人の中から足を止めて、康生を指さす二人組が現れた。


「え?」


 康生がスッとアタシから離れて、そっちを見る。


白石(しろいし)クンと……持田(もちだ)クン」


 メガネをかけた真面目そうな男子と、色黒でスポーツマン風の爽やかイケメン。

 康生も知ってるってなると……


「わあ、久しぶりだね。学校いきなり来なくなったから、何があったんだろうって心配してたんだよ」


「どっか外部の高校受けたって、先生から聞いてたけど」


 この口ぶり……やっぱり中学の同級生か。康生が極力、話題にもしなかった中学時代。良い思い出はなく、嫌なヤツがいたとさえ言った、その期間に交流があった人間。噂をすれば影とは言うけど、なんという偶然だろう。


 と、イケメンの方が、アタシに視線を向けた。


「けど、まさか……そんなタイプの人と遊んでるなんて」


 あまりに予想外な光景で、つい口に出してしまったという感じだろうが、アタシは頭にカッと血が上るのを自覚した。


「てめえらより何倍もマシだろうが。詳しくは知らんが、康生を傷つけたんだろ。そんなてめえらに」


「星架さん、落ち着いて! 持田クンじゃないですから! 白石クンも違うと思う!」


 今度は康生が逆にアタシの前に回り込んで、両手を抑え込むように握ってくる。

 けど、まだ怒りが収まりきらない。この二人じゃないけど、確かに康生を傷つけやがった同級生は居るってことじゃねえか。


「持田クンも……彼女は見た目こそ遊んでるように見えるかもだけど、凄く誠実で仲間思いなんだ。今、僕のために怒ってくれたみたいに」


「う、うん。ゴメン。そっちのギャルの方も、すいませんでした」


 スポーツマン(こっちか持田クンか)が謝ってくる。


 アタシはそこで、スッと頭が冷えた。これは……勇み足だったな、多分。宮坂の時とは違って、悪気があったパターンじゃない。やらかした。


 てか、半分くらい私怨だわ、これ。アタシの見た目で、康生を堕落させてる輩と思われた。つまり彼の隣に相応しくないって言われた気がしてカチンときたんだと思う。


 けどすぐに康生が、あの他人にあまり強く言えない康生が、アタシの名誉のために抗議してくれた。そのことが余裕を生んで、こんなにすぐに冷静になれてる。単純にも程がある。


「アタシこそ、勘違いでキレて悪かった」


 同級生ふたりに謝る。メガネで色白の方(白石クンか)が少し驚いた顔をする。なんだよ。冷静にさえなれれば、謝れる人だよ、アタシは。


「でも驚いた。そんな可愛いカノジョさん作ってたなんて」


 あ、良いヤツかも。


「そうだ。今度さ、またご飯でも行こうよ。灰塚たちも呼んでさ」


 その言葉にピクッと康生が肩を震わせ、次の瞬間にはアタシの手を握って歩き出した。


「ちょ、ちょっと?」


「ゴメンだけど、行かない。もう僕には星架さんが居るから」


 普段だったら飛び上がって喜ぶところだけど、今は完全に依存ないし逃げ道として名前が挙げられたのが分かる。いや、アタシとしては全然それでも良いけど。


 なおも二人は何か言いたそうだったけど、足早に去るアタシたちを追いかけてまでは来なかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] この二人、康生が反応した灰塚という名前を平気で出したってことは、康生が灰塚となにかあったことを知らないか、知ってても「全然大したことじゃなかった」と思っているのか。 前者だったらごく一部か…
[気になる点] >「ゴメンだけど、行かない。もう僕には星架さんが居るから」 当然真意は違うのだろうけど、何となくスペアの様に聞こえてしまうのは言葉足らず故か?
[良い点] たとえその場の逃げとはいえ星架さんがいますからってのは言われた星架さんにはかなりうれしい発言でしょうね [気になる点] 今回遭遇した二人はどっちかというと旧友に近い関係だったのか康生くん…
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