105:ギャルと展示作品を見た
入っていきなり超力作とエンカウントした。非常に精巧に細部まで作り込まれた鳳凰像。本物の鷹くらいの大きさはあるだろうか。今にも動き出しそうだ。
「すっげえ。何時間かかってんだろ」
洞口さんが感嘆の溜め息混じりに言う。
「どんぐらいでしょう。社会人の方が働きながら、コツコツ年単位かけて作ってたりするんで……その情熱に触れるだけでも、僕にとっては来る価値があるんですよね」
技巧だけじゃなく、そういう面からの刺激も、こういった催しの魅力だ。
「このフロアは写実的な作品、技巧で勝負するタイプの作品をまとめて置いてあります」
僕がジオラマを出す時はこっちだ。
「へえ。何か、単体の像とか、ジオラマとか、ごちゃ混ぜだけど?」
「部門で切っちゃうと、参加数が減っちゃうんで。個人が主催する、ホントに小さなコンクールですからね」
たまに絵を出す人もいるからな。オーナーは面白ければ良しの姿勢なので寛大に受け入れている。
「シュール系だろうが、写実的だろうが、ジオラマだろうが、フィギュアだろうが、絵だろうが。心の琴線に触れるものに貴賤なしって感じで全部受け入れてて。僕もすごく共感する理念です」
二人が少しポカンとした顔で僕を見てる。ハッ! いわゆるオタク特有の早口で一般の人を置き去りにした図じゃないのか、これ。
「す、すいません。つい語り入っちゃって」
「……いや、良いと思う」
「だな。なんか羨ましいまであるわ」
二人とも笑ってくれる。良かった。引かれたりしてなかった。
その後、4階を突き当りまで進みながら、展示物を見て回った。城の木彫り、金の懐中時計なんかも面白かった。こういう場は初体験の二人も、時間を忘れて一つ一つ食い入るように見ていた。
その背を見守りながら、僕まで嬉しくなる。自分の好きな物に友達が興味を持ってくれるってのは良いものだ。久しく忘れてた感覚。
「5階も行ってみるか」
と、気付いたら全部周り終わってたみたいで、洞口さんが階移動を提案してきた。
「そうですね。でも5階はそれこそカオスですよ。なんて言うか」
まあ口で説明するより、見せた方が早いか。
僕は行き止まりの鉄扉を開けて、階段を先導して昇る。高い階だし、空気がムワッとしていた。
そして5階。個性豊かな展示品の数々が僕らを出迎えた。ロボットのプラモから、巨大ぬいぐるみ、さっき言ったような絵(かなり前衛的)も飾られてる。
「うわ、マジだな。統一感が全くない」
「あ! もうノブエル飾ってもらってるじゃん」
僕らが4階を見てる間に、店長さんがエレベーターで上がって、飾っててくれたみたいだ。
「結構いい位置」
通路の真ん中あたり。左隣は抽象画。右隣も額縁に入って飾られてる。それをよく見てみると、
「お! マジクルのキャラだ。これは塗り絵?」
星架さんの言う通り、見覚えがあるキャラクターだった。確か主人公の親友みたいな位置づけの子だったような。
「いえ、ちぎり絵ですね。色のついた和紙なんかを、千切って台紙に貼り付けていくんです。パズルみたいで面白いんですよね」
「へえ……なんか独特の味があんな」
洞口さんも、その魔法少女の絵を覗き込む。中々の完成度だ。マジクル、今なお愛されてるんだなあ。
「こういうの見てるとウチも何か作ってみたくなるな」
「あ、やってみますか? ちぎり絵は簡単ですよ」
「む。アタシも!」
仲間外れにされるとでも思ったのか、星架さんが僕の腕を取る。可愛いなあ。そんなことするワケないのに。
「しかし……確かに無秩序ではあるけど、一つ一つは割と普通だよな」
「まあ今年は僕の叔父さんが参加を見送りましたからね」
「へえ。クッツーの叔父さんも参加者だったんだ」
「はい。でも今年は忙しいみたいで」
去年は叔父さんのエントリー作品がカオスデザイン賞を受賞してた。けど今年は、鼻の頭テカリンピックの方に集中したいってことで、参加を見送ったんだよね。
その後も、色々と面白い作品を見つけては笑い合ったり、作り方を教えたりしてるうち、時間が流れていった。
4階に降りて、店長に挨拶。
「楽しかったです。観覧料もオマケしてもらって、ありがとうございました」
エントリーしてる僕は無料なんだけど、その連れ合いということで星架さんと洞口さんの分もマケてくれたんだ。つくづく商売っけがない。
「うん。また来てよ。ピタッと来なくなったから、康生クンどうしたんだろうって心配してたんだから」
店長の言葉に、ドクンと一つ心臓が跳ねた。去年まではコンクール期間以外の、つまりホビーショップのお客さんでもあった僕。でも……
「はい。またお邪魔します」
僕は作り笑いを浮かべて、社交辞令を返した。
エレベーターのカゴを待つ間、僕はそっと星架さんの顔を窺った。何かに気付いた様子はない。胸を撫でおろしかけて……でも、ずっとこのままじゃダメだと思った。星架さんがメイク教室で一歩進んで、モヤモヤに立ち向かったのと同じように、僕も……