104:ギャルと会場に行った
ご案内
8月5日の13時頃に行った改稿以前に前話103話をお読みいただいた方は、お手数ですが今話をお読みいただく前に、103話の後半部(星架サイド以降)の再読をお願いいたします。内容に変更がございます。詳しくは103話まえがき部にて記述しておりますが、私の不手際が原因の変更になります。申し訳ありません。
車で揺られること15分ほど。急ブレーキも急ハンドルもなく、無事に横中東の駅前に着いた。
沢見川より栄えているのは一目瞭然で、人の多さも比じゃない。駅ビルの壁面看板、入ってるテナントの顔ぶれを見て、僕は少しだけ感傷的になった。
……変わらないな、ここは。
ロータリーから発進する父さんの車を、星架さんと二人で手を振って見送ってると、
「あ、お~い! 星架、クッツー」
少し離れた所から、洞口さんが僕らの名前を呼びながら駆け寄ってくる。長袖シャツにベージュのキャミソール。その生地をグッと押し上げる豊かなお胸がポヨンポヨン揺れて、僕は慌てて視線を斜め前にズラした。
「あっち~わ! 早く来すぎた!」
僕らの前まで来てスピードダウンした洞口さんは、かなり汗をかいていた。今で待ち合わせの7分前だけど、聞けば彼女は15分前に来ていたそうな。
そんな彼女に更に立ち話を強いるのも酷なので、僕たちは早速コンクール会場に向かった。まあ会場って言っても大したハコじゃないんだけどね。
実際、少し歩いてその会場までやって来ると、
「ただの雑居ビルじゃねえか」
と二人のハモリツッコミが入ったくらいだ。
そんなワケで、駅の東側、少し道が汚いエリアに林立する雑多なビル群の内の1棟に、ガラス戸を開けて入っていく。廊下を突きあたるとエレベーター。ノブエルを入れたケースを両手で抱えている僕の代わりに、星架さんがボタンを押してくれた。やがて降りてきたカゴに乗り込むと、かすかにタバコの残り香がして、ギャル二人が顔をしかめた。
4階で降りると、すぐに受付のカウンターが見えた。普段はホビーショップのレジカウンターなんだけど、今は展示案内や、出展の受付などに使われている。
「ああ、康生クンじゃないか。いらっしゃい」
あくびを噛み殺しながら伸びをしてた店長さんが、腕を下ろして挨拶してくる。
「お久しぶりです」
「いやぁ、そろそろ来る頃だとは思ってたけど……まさか両手に華だなんて」
「え!?」
言われてみれば、第三者からはそう見える状況だよね。
「康生、お知り合い?」
「はい。店長さんです。ここ普段はホビーショップなんですけど、コンクールがある時は、商品とか棚とかどけて、会場にするんですよ。売場は超縮小で」
「うえ!? それ期間中、大赤字なんじゃねえの?」
洞口さんも会話に混じってくる。
「ウチはね、オーナーの道楽だから。あはは」
店長さんが、あっけらかんと内情を暴露してしまう。
実際、オーナー(このビルのオーナーでもある)の肝いりで開いた店だし、コンクールも然り。なので開くも閉じるも彼次第。10日間ほどの赤字など屁でもないみたい。つまり、
「神々の遊びかあ」
という星架さんの総括が正鵠だ。
「こういう趣味のコンクールなんて、大概が金持ちの道楽だけどねぇ」
雇われ店長、悟りの境地。
「……それじゃあ、そろそろ」
「あ、ああ、そうだね。エントリー手続きだね?」
「はい」
ウェブで事前登録はしてるけど、会場に品を持ち込み、参加費を払って、正式に完了となる。
まず僕はケースをそっとカウンターの上に置き、作品をよく見せた。
店長さんは興味深そうに見つめ、顔を傾けたり、ルーペを出して細かい部分を見たり。
「これは……信長公と、そっちのカノジョさんかい?」
「カノジョなんてそんな!」
星架さんが食いつく。ちょっと嬉しそうに見えるのは……流石に気のせいじゃないよね?
「なるほど、カノジョさんが出来て、その影響で」
「あ、それはちょっと、濡れ衣って言うか」
と思ったら、あっさり裏切られた。カノジョではないけど、実際、星架さんに再会してからの記憶が混ざり合った感じの夢だったから、影響受けてるのは間違いないんだけどなあ。
「ま、まあ兎に角、確かにエントリー承ったよ。ありがとうございます」
最後にエントリー代を支払って、無事に受付を済ませた。微々たる額だけど、イタズラ出展防止には参加費を取るのが一番効果的なんだよね。
「見ていっても良いですか?」
「ああ、どうぞどうぞ」
店長さんの許可を得て、三人で店内へ続く通路を進む。
両隣の女子の顔をチラリと窺った。ワクワクした様子で、期待に目が輝いてる。無理もない。未知の作品に出会うのって、本当に心が躍るもんね。
僕も彼女たちの背を追いかけ、そのワンダーランドに足を踏み入れるのだった。




