103:陰キャの父親と会った
訂正とお詫び。
当103話後半部分にて。軽トラック荷台への人の搭乗について、ご指摘を頂き、作者の方でも確認を致しましたところ、ご指摘通り、道交法への重大な抵触により現実的には不可能であると判断いたしました。
つきましては改稿ならびに軽トラックイベント自体の削除を行います。
私の知識不足、確認不足が招いた結果で、言い訳の余地もありません。
読者の皆様に再読のお手間を取らせてしまうこととなり、誠に申し訳ございません。
また、現状のストック分がそのまま投稿できないという事態に陥ったため、現在大急ぎで改稿と別イベントの挿し込みを行っております。
それに際し、読者の皆様には更なるご不便をおかけすることかと思われます。具体的には突貫工事による推敲不足。それに伴う誤字脱字、読みづらい文章の増加などが考えられます。
重ねて、お詫び申し上げます。
「あ、康生。またその頭おかしいヤツで遊んでんの? 下でやるなってお母さんに怒られたっしょ?」
姉さんはノブエルを見るや、少し眉をひそめた。和室でやらなければ、障子を突き破ることはないんだけど。って言うか、あれから角度調整は綿密にやったし、キノコごときに再度うっちゃられる可能性はゼロだけどね。
「試運転しただけ。明日もう出しに行くんだよ。横中……東まで」
「マジで行くんだ……」
姉さんが一瞬、泣きそうな顔で僕を見た。だけどすぐ、
「ウチの名前出さないでよ~? 製作所まで変な目で見られたら売り上げに関わるから!」
わざとらしいほど明るい調子で、そんな風にからかってくる。その気遣いがありがたかった。
「へえ。横中で、そのコンクール? みたいなのやってんだ?」
洞口さんもケロッと話に加わる。プレゼント案を蹴られたことなんて、もう忘れたみたいに振舞ってくれて……この人も優しいな。
そして最後に僕は星架さんを見る。少し寂しそうに、だけど優しく笑ってくれていた。
ごめんなさい、ありがとう。けど、そう遠くない未来に、あらいざらい話してしまうような気がする。それくらい、もう彼女は僕にとって……
そんなことを僕が考えてる間に、洞口さんと姉さんが互いに自己紹介の挨拶を済ませていた。どっちも明るい性格だから、放っておくとすぐに打ち解けるよね。
「しかしコンクールかあ。ウチも見に行ってみようかな?」
「アタシも興味あるな」
「じゃあ明日、みんなで行きましょうか。もう展示品もあるハズですから」
エントリー済みの作品は、既に会場に飾られてたりする。締め切り前後の10日間(つまり7月27日~8月5日まで)を、一般展示期間にあててるんだよね。
当然コンクールごとに評価基準ってマチマチなんだけど、鑑賞した人たちからの票を参考材料にする所も多い。まあ審査員だけで決めてると、肝心のお客さんにそっぽ向かれちゃうかもだからね。今回の会も確かその方式を採用してるハズ。
そんな事情を話すと、星架さんも洞口さんも、「じゃあ展示期間が短いから不利じゃん!」と口を尖らせた。
「ん、まあ。僕の作品はいっつも固定客さんがついてくれてると言うか。賞をもらう目的より、そういう人たちに喜んでもらって、あわよくば高く買ってもらったり、みたいな」
とはいえ、いつも出展している戦国武将関連の物や、幻想風景のジオラマとは毛色の違う作品を今回出すことになる。一体どんな反応が返ってくるか、僕にも想像がつかない。
結局、その日は待ち合わせ時間と場所を決めて、解散となった。最後に僕が洞口さんを駅まで乗っけてって、無事タクシー業務も終わりを告げたのだった。
<星架サイド>
翌日、土曜日。康生のお父さんが仕事の話で会場の近くのお宅まで伺うというので、自家用車の後ろに乗せてもらうことになった。どうしても先方の都合で土日しか時間が取れないって場合もあるらしくて、こうして休日出勤することも少なくないのだそう。社会人は大変だよな。
スターブリッジ号で沓澤製作所にやって来ると、もう既に康生とお父さんらしき中年男性が、待っていてくれた。
「あ、おはようございます」
康生が微笑んで挨拶してくれる。お、今日はアタシが以前のモールデートで選んであげたシャツ着てる。
「おはよ。やっぱそれ似合ってるね」
改めて褒めてあげると、康生ははにかみながらシャツの袖口を摘まんだ。目で「ホント?」と聞いてくる。可愛いなあ……っとと。お父さんにご挨拶がまだだった。
「おはようございます。えっと……康生クンの友達の溝口星架です」
「……父の芳樹です。息子がいつもお世話になっているそうで」
「あ、いえいえ。アタシの方こそ、康生クンには色々お仕事頼んだりしてて……」
「……」
「今日はよろしくお願いします」
「……はい」
芳樹さんはそれだけ答えて、運転席へ行ってしまう。
春さんいわく、「笑わせてこない康生」という評だけど、言い得て妙な感じ。「実直で勤勉な人柄だけど面白味はない」と明菜さんも言ってたっけ。ひどい言われようだよ。こうして土曜日まで家族の為に働いてるってのに。
康生が後部座席のドアを開けて、掌を上に向けて中を指す。
「さ、乗って下さい」
なんか、どこぞのVIPみたいな厚遇だ。アタシは少し得意になって、お尻を座席に滑り込ませた。そのまま二度、三度バウンドして奥まで進み、康生の入るスペースを空ける。
だけど康生は助手席に乗ってしまった。え? あれ?
困惑するアタシを余所に、
「トランク、気を付けてね。急ブレーキとか急カーブとか」
「ああ」
親子はそんな会話をする。トランクにはノブエルが積んであるから、その荷崩れの心配だろう。
「……お前こそ、無理はするなよ」
「……うん」
えっと? 今のやり取りは分かんなかったけど、鷲鼻がソックリな顔を見合わせて、お互いに優しく微笑んでるのを後ろから見てると……なんか良いな。父親と息子の、言葉少なくとも信頼を感じる空気感。女子には入り込めない領域だから、少しだけ寂しさも感じるけど。
やがて車は発進し、横中東へと向かった。