表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/225

101:陰キャの失敗映像を見た

 <星架サイド>



「しっかし、すげえよなあ。作りかけの時に見たきりだったけど、こんな完成形になるとはなあ」


 千佳が感心したように頷き、改めてセットを眺める。

 うん、まあ良く出来てるよね。まさか動かす仕掛けも用意するとは。


「良いよなあ、こんだけ手先が器用だと失敗とかしねえんじゃねえの?」


「いやいや、そんなハズないですから。完成品しか出さないから、そう見えるだけで、基本、裏では失敗ばっかですよ」


「ほ~ん、白鳥のバタ足みたいなもんか」


「そうですよ。今回のノブエルにしても、大チョンボやらかしてますからね」


 なんだ、その妙に惹かれる響きは。

 アタシも千佳も、思わず身を乗り出す。


「映像ありますよ。見ますか?」


「映像つきのコントか!? 見る見る」


「コントではなく、チョンボです」


 そう言いながらも康生はスマホを渡してくる。指示されるまま、ギャラリーを開いて最新のムービーを再生させた。


 ムービーの最初、康生がノブエルの乗った自転車を手で抑えている場面を映し出す。現在のものより、もっとスロープが鋭角に持ち上げられていた。このまま放したら、かなりのスピードで下まで駆け抜けそうだ。


『3、2、1、0』


 カウントダウンの後、ゼロでムービー内の康生が手を離す。


 案の定、シャーッと凄まじい速さで車輪が回り、自転車が進む。

 と、そこで。


『あっ!』


 自転車はキノコにぶつかり、半端に潰れたそれに乗り上げた。この勢いで溝から外れて乗り上げれば、当然……


『ああっ!』


 自転車が宙を舞う。そしてそのまま、和室の障子紙に頭から突っ込んだ。

 信長のケツと、自転車の後輪部分だけが見えてる状態で、物の見事にズボッとハマって静止してる。


「え……これ、ぷふっ、あは、はは、はははは!」


 ムービーに遅れてアタシたちの理解が追い付き、アタシも千佳も爆笑してしまう。いや、これ! こんなん狙っても出来んて!


『康生! 何やってんの!?』


 ムービーの中で、明菜さんに見つかった康生が怒鳴られ始める。それもまたオチがついたみたいな完璧なタイミングで、アタシの腹筋に更に燃料を足す。


「ははは! あは、あははははは」


 千佳が康生の背中をバシバシ叩いてる。目の端には涙が浮かんでいた。多分アタシも同じ顔してるだろうけど。


「織田・チャリエル連合軍がキノコのたった1株に負けたんですよ? 母さんは激怒するし、笑い事じゃないですよ……」


「あはははは、連合軍!」


「だはははは、ひとかぶ!」


 それから多分、3分くらい。ヒーヒー言いながら、ようやく呼吸が整い始める。


 多分、アタシも千佳も今年一年分くらい笑った。あ、でも康生と居ると、まだまだこんなモンじゃ終わんなそうだよな。来年分まで今年中、いや夏休み中で笑わされるかも。


 千佳が立ち上がって和室との扉を開ける。アタシもついて行って覗き込んで見ると、障子にはスポッと大きな穴が開いていた。


「ぎゃははははは。まだ! 穴残って! あは、はははははは」


 アタシも千佳も、もう打ち止めだと思っていた笑い泣きの涙を、もう一度流すことになった。

 結論。チョンボのコントだった。













 千佳が涙を拭いながら、


「いやさ。やっぱクッツーが真剣に失敗を悔いてるのが、面白さに拍車を掛けるよな」


 なおも感想を言ってる。まあ確かに二度目の『ああっ』は悲しみが篭ってて、それが面白過ぎたんだよな。いや、何時間、何十時間とかけて作ったモノが飛んで行ったんだから、そうなるのは当然なんだろうけど。第三者視点で見てるとクッソおもろいんだよね。


 てか、千佳がここまで笑ったのって、ちょっと記憶にないかも。すげえな、康生。ママも最初に会った時、メッチャ笑かしてたし。アタシの周りまで笑顔にしてくれる。


「これ、動画サイトとかに上げね?」


「え? でも特定されたりとか、色々怖い話聞きますから」


「特定ったって、有名人でもあるまいし。それに、こんな少しの部屋の状況だけで……」


 あ、いや。こんなん作ってんの、日本中で康生だけだから、コンクールに出したら、バレるっちゃバレるか。


「いっそモノづくりチャンネルとか作ってさ。上手くすれば広告収入もらえるぜ?」


 千佳ナイス。てか、あ、そっか!


「アタシのチャンネルとコラボして、ガンガン推してあげるからさ! そうだよ! モノ作ってる途中とか、あのジオラマ系とか絶対ウケるし! それ動画にして上げて、アタシがツイスタとかで呟いて」


 今までなんで気付かなかったんだ。アタシが康生にしてあげられること、あったじゃん! 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おっとぉ、それはどうかな 陰キャあんまりそういうの好きそうじゃないぞ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ