101:陰キャの失敗映像を見た
<星架サイド>
「しっかし、すげえよなあ。作りかけの時に見たきりだったけど、こんな完成形になるとはなあ」
千佳が感心したように頷き、改めてセットを眺める。
うん、まあ良く出来てるよね。まさか動かす仕掛けも用意するとは。
「良いよなあ、こんだけ手先が器用だと失敗とかしねえんじゃねえの?」
「いやいや、そんなハズないですから。完成品しか出さないから、そう見えるだけで、基本、裏では失敗ばっかですよ」
「ほ~ん、白鳥のバタ足みたいなもんか」
「そうですよ。今回のノブエルにしても、大チョンボやらかしてますからね」
なんだ、その妙に惹かれる響きは。
アタシも千佳も、思わず身を乗り出す。
「映像ありますよ。見ますか?」
「映像つきのコントか!? 見る見る」
「コントではなく、チョンボです」
そう言いながらも康生はスマホを渡してくる。指示されるまま、ギャラリーを開いて最新のムービーを再生させた。
ムービーの最初、康生がノブエルの乗った自転車を手で抑えている場面を映し出す。現在のものより、もっとスロープが鋭角に持ち上げられていた。このまま放したら、かなりのスピードで下まで駆け抜けそうだ。
『3、2、1、0』
カウントダウンの後、ゼロでムービー内の康生が手を離す。
案の定、シャーッと凄まじい速さで車輪が回り、自転車が進む。
と、そこで。
『あっ!』
自転車はキノコにぶつかり、半端に潰れたそれに乗り上げた。この勢いで溝から外れて乗り上げれば、当然……
『ああっ!』
自転車が宙を舞う。そしてそのまま、和室の障子紙に頭から突っ込んだ。
信長のケツと、自転車の後輪部分だけが見えてる状態で、物の見事にズボッとハマって静止してる。
「え……これ、ぷふっ、あは、はは、はははは!」
ムービーに遅れてアタシたちの理解が追い付き、アタシも千佳も爆笑してしまう。いや、これ! こんなん狙っても出来んて!
『康生! 何やってんの!?』
ムービーの中で、明菜さんに見つかった康生が怒鳴られ始める。それもまたオチがついたみたいな完璧なタイミングで、アタシの腹筋に更に燃料を足す。
「ははは! あは、あははははは」
千佳が康生の背中をバシバシ叩いてる。目の端には涙が浮かんでいた。多分アタシも同じ顔してるだろうけど。
「織田・チャリエル連合軍がキノコのたった1株に負けたんですよ? 母さんは激怒するし、笑い事じゃないですよ……」
「あはははは、連合軍!」
「だはははは、ひとかぶ!」
それから多分、3分くらい。ヒーヒー言いながら、ようやく呼吸が整い始める。
多分、アタシも千佳も今年一年分くらい笑った。あ、でも康生と居ると、まだまだこんなモンじゃ終わんなそうだよな。来年分まで今年中、いや夏休み中で笑わされるかも。
千佳が立ち上がって和室との扉を開ける。アタシもついて行って覗き込んで見ると、障子にはスポッと大きな穴が開いていた。
「ぎゃははははは。まだ! 穴残って! あは、はははははは」
アタシも千佳も、もう打ち止めだと思っていた笑い泣きの涙を、もう一度流すことになった。
結論。チョンボのコントだった。
千佳が涙を拭いながら、
「いやさ。やっぱクッツーが真剣に失敗を悔いてるのが、面白さに拍車を掛けるよな」
なおも感想を言ってる。まあ確かに二度目の『ああっ』は悲しみが篭ってて、それが面白過ぎたんだよな。いや、何時間、何十時間とかけて作ったモノが飛んで行ったんだから、そうなるのは当然なんだろうけど。第三者視点で見てるとクッソおもろいんだよね。
てか、千佳がここまで笑ったのって、ちょっと記憶にないかも。すげえな、康生。ママも最初に会った時、メッチャ笑かしてたし。アタシの周りまで笑顔にしてくれる。
「これ、動画サイトとかに上げね?」
「え? でも特定されたりとか、色々怖い話聞きますから」
「特定ったって、有名人でもあるまいし。それに、こんな少しの部屋の状況だけで……」
あ、いや。こんなん作ってんの、日本中で康生だけだから、コンクールに出したら、バレるっちゃバレるか。
「いっそモノづくりチャンネルとか作ってさ。上手くすれば広告収入もらえるぜ?」
千佳ナイス。てか、あ、そっか!
「アタシのチャンネルとコラボして、ガンガン推してあげるからさ! そうだよ! モノ作ってる途中とか、あのジオラマ系とか絶対ウケるし! それ動画にして上げて、アタシがツイスタとかで呟いて」
今までなんで気付かなかったんだ。アタシが康生にしてあげられること、あったじゃん!