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苦労人

 カーチスは語る。


「結婚相手はどんな人物がいいかって? そうだな、まず柔らかいのは大前提だ。鋼鉄も跳ね返すような筋肉の持ち主は断固拒否する」


 ならば魔法派がいいのか。


「否、魔法派と言っているがあれは他国から見たらゴリゴリの前衛だ。奴ら杖を持っているがアレが何でできているか、そしてその用途を知っているか? 自らの肉体を強化し相手を殴殺するための物体、魔力伝導率の低いアダマンタイトとオリハルコンの合金だ。奴らは……硬い」


 肉体派は最初から無理だとしても、そのような女性が国内にいるだろうか。


「だから俺は常々語っている。王位とかどうでもいいから他国に婿として送り出してくれと。政略結婚でも何でもいいからこの筋肉王国を出ていきたい」


 筋肉王国というのはもはや誉め言葉である。

 それを知ってか知らずか口にする辺り、実は人気は高い。

 何よりも表情筋の使い方が上手いためとてもモテる。

 肉体が貧相だと揶揄されることもあるが、それでも鍛えているのは一目瞭然、これまた他国からすれば最前線で戦える兵士のそれと遜色ない。

 カーチスもなんだかんだでフレムの王子なのだ。


「この際だからはっきり言おう。俺は自分より背が低い女性が好みだ。胸の大小は問わないが柔らかい方がいい。それでいて包容力があれば言う事はない。あと手料理が食えるなら最高だな、穏やかな平原で柔らかい膝枕で眠りたいものだ」


 残念ながらフレムの女性でその条件に見合う人物はほとんどいない、強いて言うなら呪いを受けたミリアのような特例である。

 あるいは呪いを受け筋肉を失った罪人くらいだろう。

 ちなみに、フレムの女性にカーチスが膝枕を頼んだ場合首の可動域が足りずに背中が浮くことになる。

 非常につらい姿勢を保ちながら眠れというのは無茶だが、カーチスの筋肉恐怖症はそれを覆すことができるのだ。

 端的に言うならば、気絶である。


「腹筋が割れているくらいは許容範囲だ。だが骨格が変わるほどのトレーニングをしている女性は無理だ。俺にそんなゴリラをあてがってみろ、その日のうちに首を吊ってやる」


 フレムは男女問わず厳しいトレーニングをしている。

 それこそ全身の筋肉を鍛え、結果的に頭蓋骨までもが変形してルックスが変わってしまうなんてのは珍しくもない事だ。


「あとはそうだな……やはりある程度甘やかしてくれる人がいい。厳しい人生だったからな……」


 遠い目をして語るカーチスだが、比喩でも何でもない。

 あと一回! この言葉がトラウマになるほどカーチスはトレーナーという存在を恐れ、そして思い返すだけで胃の中身が込み上げるほどのトラウマを抱えている。

 もうワンセットなどと言われた日には気を失うほどだ。


「他にか? そうだな……庇護欲を掻き立てるような外見だと嬉しい」


 フレムは自己防衛は当たり前である。

 王族であろうとも護衛をつける事は恥とされるほどだ。

 筋肉を見たくないという理由と合わせてカーチスが引きこもっていた原因である。


「はっきり言おう、太っていようがそれはかまわない。だが筋肉もりもりは勘弁してくれ。もうこの際柔らかければいいのだ……他国からこっそり取り寄せた書物には女性は柔らかいものだと書かれていた……俺はその真相を確かめたいのだ」


 そう側近のモーリスに語ったカーチス、入学式の数日前のことだった。

 彼がミリアに出会い、恋に落ちるまでもうすぐのことである。



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