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パーティ

「さぁ、いこうかミリア」


「はい、カーチス様」


 差し出された手を握り、馬車から降りたミリア。

 紛れもなくパーティの会場に降り立った二人だったが……。


「モストマスキュラー!」


「ダブルバイセップス!」


「アドミラルサイド!」


 既に出来上がった者達による筋肉披露会が開かれていた。


「くっ……私は屈しないぞ……!」


 筋肉アレルギーのカーチスがふらりと倒れかかるが気力で持ち直す。

 その手に伝わる柔らかく温かなそれをしっかりと意識することで筋肉から意識をそらしたのだ。


「カーチス殿下、ルーブル伯爵令嬢、入場!」


「おぉ、殿下が」

「あの令嬢が噂の……」

「本当に小さいな……」


 噂は瞬く間に広まるが、フレムにおいてはその速度が異常である。

 理由は単純、噂を広げる者達が例外なくゴリラであり口伝であろうともその日のうちには国内全体に伝わるからである。

 これぞ筋肉式伝達術。


「父上……いや、陛下。カーチス参上しました」


「うむ、よく来た」


 久しぶりの親子の会話。

 しかしその原因はカーチス本人にある。


「して、そちらが」


「はい、婚約者にと指名したミリアです」


「まさか久しぶりに顔を合わせたと思えば王位返上ではなく婚約の話だとは思わなかったぞ」


「それは失礼しました。しかしミリアがいるならば何でもできそうな気がしますので」


「……随分と、気を許したな。こういってはなんだがたかが伯爵家。そしてその体躯に呪い、たしかに王家にとって良い影響を与える面もあるが悪い影響もありそうだが」


「お言葉ですが、直談判すれば王位返上も認めるとおっしゃったのは陛下です。ならば婚約者程度ならば許されるでしょう。なにより……」


「ふむ?」


「俺が選んだ女にケチをつけるのは父とて許さぬぞ」


 ビリビリとした気迫、それはその場にいる貴族ゴリラ達の筋肉すら脈動させるには十分なものだった。

 誰もが殺意にも似た気配に気おされながらも、どのように対処するかを身体で考えるのだ。


「ふふっ、試すのはそのくらいにしてはどうかしらあなた」


「ミューラ……」


「ごめんなさいねミリアさん。陛下はあなたのことを認めているけれど貴族達は違うの。だからその実力の一端でも見せていただければと思って厳しい言い方をしたのよ」


 その言葉にすっと頭を下げるミリア、礼儀はもちろんの事ルールとして目上の者の許可が無ければ言葉を発することは許されない。

 つまるところミューラ、王妃も遠回しにミリアを試したのだ。


「発言を許そう、ルーブル令嬢」


「ありがとうございます陛下。そしてお目にかかれて光栄です。あとはそうですね……お久しぶりですおじ様」


「ふっ、その呼び方は久しぶりだな」


「えぇ、それで王妃様。実力と言いますと彼らを張り倒せばいいですか?」


 バチバチと視線を送ってくるのは筋肉至上主義の貴族達、同時に今のミリアのポジションを狙う令嬢達とその親である。


「それもいいんだけどねぇ。カーチス、ここで施術を受けなさい」


「ここで、ですか……?」


「えぇ、フレムの男たるもの人前で脱ぐくらい気にするものではないでしょう?」


「はぁ……わかりました」


 言われるがままにシュルシュルと豪奢な服を脱ぎ、ドシャッという金属鎧を落としたような音と共に投げ捨てた。

 そして近くにあった空きテーブルの上に横になるとミリアが指の骨を鳴らしながらその背に触れる。

 筋肉アレルギーとはいえ最低限のトレーニングはしているカーチス。

 無駄な肉はなく、引き締まった身体は決して弱者のそれではない。


「では、参ります」


 ゴギンッという音と共にカーチスの身体がエビのように反り返り跳ねる。

 その姿を見た一部の貴族が拳を構えるが気にすることなくミリアは施術を続けた。

 ゴキゴキッ、バキンッ、メキッ、ミシミシと施術とは思えない音と共にカーチスのうめき声がパーティ会場に響き渡った。

 そして数分後……。


「お、おぉ……」


 立ち上がったカーチスは感嘆の声を上げる。

 わずかな施術、時間にすれば十分程度のものだっただろう。

 だが効果は覿面だった。


 フレム人にしては小柄と言われていた彼だが、背骨や骨盤、その他関節の矯正により平均より少し小さい程度のサイズに落ち着いた。

 あしらえられたズボンが脛丈になっている辺りでそれが見て取れる。

 だけでなくある程度鍛えていた肉体ははちきれんばかりになっていた。


「お見事です」


「おほめにあずかり光栄」


「ふむ、これは認めざるを得んな」


 王の言葉に誰もが首を縦に振る。

 ただ一人、当事者を除いて。


「カーチスよ。ここに二人の婚姻を認める! ……カーチス?」


「……気絶してます陛下」


「……なぜだ?」


「おそらく今まで鍛えていたのが表に出て、自身が嫌うゴリラ体型になったことによるショックでしょう。身長はそのままに筋肉は圧縮する形で矯正しておきますか?」


「……すまんが、頼む」


 王のため息交じりの言葉にミリアは立ったまま気絶しているカーチスの筋肉を締め上げた。

 背が高く細身になった彼が令嬢達に新たな性癖の扉を開かせたのはここだけの話であるが、同時にミリアに対して誰もが認める能力を見出した。

 こうして二人の忙しい毎日が幕を開ける事になったのである。


 なお、カーチスだが腕力脚力全てが並のゴリラよりも上となったことでその立場を確固たるものにしたのだが、今後筋肉に囲まれるという事実を突きつけられた瞬間にそのパワーを惜しみなく使い王城を脱走しようとしたのは余談である。

 その際にミリアを迎えにルーブル家に立ち寄ったことでクリスによって取り押さえられたのも余談。

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