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ミリアの変化

「ふぅ、すっきりしましたね」


「えぇ。あら? ミリア、貴方その魔力……」


「え? あれ?」


 ふと、ミリアは自分の身体を見る。

 相も変わらず幼児体型ではあるが、その身に宿す魔力の量が明らかに増えているのだ。


『呪いの一部が変化したようだな』


「御存知なのですか竜王」


『ここは解呪ならぬ改呪の力があるのだ。その多くは本来持ち主に害をなす呪いを良いものに変化させるというものだがな』


「という事は……成長阻害の呪いも?」


『否、それはある種の不老を授けるまじないだ。故にこの湯で変化することはない。だが数多くある呪いの中でも魔力封じの呪いが魔力吸収となったと思われる』


「それはいったい……」


『見た方が早いだろう』


 そう言うや否や、竜王は口を開きミリアめがけて炎を吐いた。

 フレム人たるもの、ドラゴンのブレス程度では火傷はもちろん髪の毛が焦げることもない。

 だが突然の奇行、例えるならば会話の途中で相手の顔にと息を吹きかけるが如き所業にミリアも母も顔をしかめた。

 とはいえ、それも一瞬の事。

 吐き出された炎がくるくると渦を巻いてミリアの胸に吸い込まれていく光景を見て態度を一変させた。


「これは……魔力量が……」


『やはりな。その呪いは形を変え、外から受けた魔力を持つ攻撃全てを自身の器を強化するのに使うようだ。例えるならばそうさな……投げつけられた石を砕き皿の材料として用いると言えばいいか』


「えっと……」


『魔法を受けるたびにミリアの持つ魔力量は増えるという事だ。それも恒久的に』


「反則では?」


『……フレム人として生まれた時点で反則だと思うが?』


 他国の人間ならば今のブレスで軍隊壊滅、最悪の場合首都消滅となっていてもおかしくない。

 それを一個人に対して使用し、しかも呪いに関係なく無傷で済ませるフレム人は根本的に人間という種族からかけ離れているともいえる。


「私達は鍛えてこうなっただけですよ」


『鍛えてそうなれる時点でまともではない』


 竜王の言葉は世界中の人間の代弁である。

 誰もが恐れ多く言葉にできなかったことをはっきりと言ってくれる。

 そこに痺れるが憧れる者はいない。

 ここはフレム、誰もがミリアと同じかそれ以上に過激なトレーニング至上主義なのだ。


『まぁ、このような土地に住もうというだけでも恐れ知らずというか、最初から優れた種だったというのは間違いないだろう』


「どういうことですか?」


『現在フレムが存在する土地だがな、端的に言うならば人が生存できる環境ではなかった』


 竜王の話はこうだ。

 土地の魔力濃度が濃い、それは人体に悪影響を与えるレベルでありそこに住む魔物は他の土地の者よりも強力な力を宿している。

 だがそれをものともしない者達が住み着き、鍛えるようになったことでとんでもないエリートゴリラが爆誕したという。

 たしかにフレムに外交に来た者が体調を崩すのはよくあることだが、その事実を知った知識中毒のミリアは目を輝かせた。


「では外部の人間でもこの土地に長く住めば! ……いえ、それでは体調を崩すだけ。だとしたら定期的に通うだけでも強くなると!」


『まぁ、生粋のフレム人にはかなわんだろうがな』


「ではお父様は? 外の国から婿入りしてきた身ですよ」


『たぶん魔力の総量が抑えられているのだろう。ほれ、貴様らフレム人が呼吸で取り込んでいるから。フレム人がいなくなって数年もすればまともに生活できる環境ではなくなるだろうさ』


「ではでは!」


「ミリア」


 ぴしゃりと、好奇心に対するストッパーが動いた。


「そろそろ行かねばパーティに遅れます。話はこのくらいにしましょう」


「ですがお母さま。この話が事実だとしてうまく使えれば……」


「えぇ、素晴らしい事になるでしょう。ですが今はパーティが最優先です。はき違えてはいけませんよ」


「でも……」


「それとも意識を刈り取られて運ばれるのが趣味ですか?」


「すぐにでも参りましょう!」


『なんとも……騒がしい親子だのう。暇な時はまた来るがよい。今度は茶菓子でも用意してくれたらじっくり話してやる』


「ぜひ!」


 ニッコニコでご機嫌なミリアはそう返事をし、母と共に山を駆け下りていった。

 向かうは王都、あと1時間で始まるパーティのためにも走るのだ。


 なおこの二人にとっては軽い運動程度でしかない秘境踏破だが一般的なフレム人でも多少は疲れるものである。

 が、王都の別邸に辿り着いた二人は汗一つかくことなく涼しい顔をしていた。

 他国の人間ならば死ぬのは間違いないのである。

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