お父様(胃痛)
こうして王都へと向かうことになった三人。
当然のように馬車旅などという優雅なものではなく、自身の脚での踏破である。
草原、森、山、湖を走り抜けた先にある王都に着いた三人はまず王立書庫へと向かった。
「あなた、お聞きになりました? ミリアの婚約が決まりましたのよ」
「聞いているよ……頭と胃が痛い……」
そう言って真っ青な顔で薬をがぶ飲みするのはミリアたちの父、ブルースである。
彼は他国から嫁いできた身のため、筋肉こそ大した発達はしていない。
とはいえ、それでも他の国であれば一線級の実力者であり、常人では持てないような超重量武器を振り回す豪傑だった。
フレム王国に一歩足を踏み入れた瞬間にその自信が砕かれた過去を持つため、若かりし頃は暴れ馬という異名を持っていた彼もすっかり大人しくなっている。
ついでにその頭皮も、大人しくなってしまった。
「どうしてこううちの女性陣は……」
「何か問題がありまして? お父様」
「クリス、君は婚約者を早く探しなさい。もう誰でもいいから……他国の人間でもいいから……なんなら裏社会の人間でもいいから!」
「嫌です。軟弱ものに興味はありません」
きっぱりと言い切ったクリス相手にがっくりと肩を落とすが、それでもめげずに今度はミリアに顔を向ける。
「どうしてこうなったかは聞かない。ミリアが学園でやらかしたことも、そのいきさつもすべて陛下から聞いている。だけどもうちょっとこう、大人しく、それでいて僕の胃を傷めないようにできない?」
「降りかかった火の粉を払っただけですから」
「そう……」
さらに肩を落としたブルースは最後に妻であるローラに視線を向け、そして口を開くまでもなく肩を落とした。
もはや彼の肩はテーブルの上に乗せられ、更には顎までぺったりとつけてしまっている。
立ち直るには時間が必要だろう。
「で、今更僕に何の用かな。形だけの当主、軟弱もの、書庫の番人なんて言われている僕に」
「今度陛下主催のパーティがありますので、その際に必要なあれこれの買い出しをと思いまして」
三人を代表してミリアが答える。
立場上であれば母のローラが答えるのが正しいのだが、今回に限っては主賓であるミリアが答えたのである。
「うん、行ってきなさい。お金の心配はいらないんだろう?」
「えぇ、お金の心配なんて無用。7代かけても使いきれない蓄えがありますわ。けれど今回の本題はあなたです」
「僕?」
ローラにびしりと告げられ、背筋を正すブルース。
過去、フレム王国に来た際にさんざんしごかれたため決して頭の上がらない相手だからだろうか。
微かに震えているのが見て取れる。
「あなたも私も、ここ数年まともにパーティに参加していません。私達のドレスや礼服も用意しなければいけないのですよ」
「……僕も出席しなきゃダメ?」
「当然です。そうと決まれば人のこない書庫など放置してさっさと仕立ててもらいに行きますよ」
有無を言わさずとはこのこと。
ローラがブルースの首根っこを掴むと、まるで荷物を持つかのように成人男性一人抱え込み、そして颯爽と歩き始めた。
なおこの王立書庫、重要な書物が多数存在するが鍵などというものはない。
何故ならばフレム人の手にかかれば鍵などあってないようなものだからである。
金属製の扉だが、蝶番程度であれば簡単に壊れるため、侵入は容易だからだ。
また呪いなどの魔法的な防壁を使ったとしても彼らの筋肉にねじ伏せられてしまう。
結果、無駄を省くためにそれらを一切排除したのだ。
代わりと言っては何だが、フレム人すら開くのに苦労するほど重い扉が用意されているだけである。
また王立書庫は衛兵の詰め所に隣接しているため盗みに入るものはいない。
なお、ブルース本人も開けられないほど重い扉に窓のない建物のため、都度衛兵に開けてもらっているのは余談であり、更にそんな扉を片手で開けられる彼の妻と娘二人に関しては何も語るまい。
「あの、ローラ? 自分で歩けるからおろしてくれないかな」
「あなたの脚では何日かかるかわかりませんから。さぁ行きますよミリア、クリス!」
「はい、私はドレス新調しなきゃいけませんから採寸からですね……お姉さまと違ってパーティと聞けば飛びつくような女じゃありませんから」
「私も最近筋肉が増えたので採寸からね。どこかの呪いマニアと違ってしっかり成長するから」
バチバチと二人の間で火花が散る。
が、それはローラの鉄拳制裁によって一瞬で蹴散らされるのだった。
ストック無くなったうえにリアルが忙しいのでちょっと続き待ってください!
コミケの準備とかあれこれ!
13日土曜日のN48aです、一般参加のチケットは入手したけどいるかわからないので!
今回はSFで行きます。




