ハットトリック・オア・トリート!
「はっととりっく・おあ・とりーと!」
俺の目の前で、同級生の女の子がなにやら笑顔で叫んでいるのだが……
なんだそれ?
『お菓子をくれなきゃ、ハットトリック決めちゃうぞ!』という意味なのだろうか?
実はこの少女、どこかのサッカーチームのエースストライカーだとでもいうのか!?
それで、相手チームの俺に、買収を持ちかけてきたとか!?
…………そんなワケあるかよ。
第一、俺、サッカー部じゃなくて茶道部だし。
毎日お茶を立てて、お菓子を食べてるだけだし。
好きなタレントは加藤茶だし。
でも、俺の苗字は静岡じゃなくて長野だし。
「ちょっと落ち着こうか」
俺は目の前にいる少女に語りかけた。
ここは人気のない校舎裏。
目の前にいるのは清宮さん、高校2年生。
清宮さんは明るくて、とてもかわいい。
男子からの人気も高い。
それなのに……
彼女はなぜか、地味でパッとしないこの俺に、いつもちょっかいを出してくるのだ。
「今言った言葉、間違ってるから」
俺が間違いを訂正しようとすると、彼女がまたおかしなことを言い出した。
「じゃあ…… ハットトリック・オア・トリートメント?」
「髪質が気になってるの? 違うよ、ハットトリックのところ!」
「え? 3点じゃ物足りないの?」
「ねえ、ひょっとして、本当にエースストライカーに憧れてるの? ハットトリックじゃなくて、普通に『トリック』で良いの!」
「ふつうにとりっく・おあ・とりーと?」
「…………『普通』は必要ないから」
「え? 普通の女の子はお払い箱なの? でも私、そんなに面白オカシイこと、言えないと思うよ?」
「もう十分、面白オカシイこと言ってるから。そうじゃなくて、『トリック・オア・トリート』、これで良いの!」
俺がムキになってそう言うと、清宮さんは、ふふふ、と笑い出した。
「長野くんがいつも茶道部で食べてるお菓子を全然私にくれないから、ちょっとイタズラしただけだよ」
そう、清宮さんはいつも『お菓子ちょうだい』と言ってまとわり付いてくるのだ。
「でも、あれは部費で買ってるから……」
俺がそう言うと……
「もう! そういうことじゃないでしょ、この鈍感男!」
なぜか怒り出した清宮さん。そして——
「トリック・オア・アクセプト!」
と、大声で叫んだ。
「アクセプト? 『受け入れる』ってこと?」
困惑気味に俺が尋ねると——
「そうだよ! 私の愛を受け入れないと、またイタズラしちゃうんだから!」
そう言って、清宮さんは顔を真っ赤にしながら逃げて行った。