偽者
それから、あまりいつも通りと変わらない日常を送っていった。
特に、何か事件や問題が起こったりするわけでもない。
でも、私はいつも通りの日常を、一日、また一日とかみしめた。
いつ、失うかわからないから。
私のお父さんのように失ったことのことを考えてしまった。
でも、しょうがないと思う。
一瞬とはいえ、日常が、身近な大切なものを失ったのだから。
でも、私の視界の外では非日常が起こっていた。
「隣のクラスでロボットがいるらしいぜ」
「ロボット?動くやつが通学してんの?」
「いや、どちらかというとターミネーターのほうが近いらしい。見た目は完全に人と変わらないとかなんとか」
「なにそれ!人類滅亡するとか?」
「もしかしたらそうなのかも。まぁ、近づかない方が身のためだろ」
「それもそうだな」
そんな会話が、教室の隅の方から聞こえる。
でも、私はそれを見て見ぬふりをして、友達と会話を交わした。
気にしたら負けだ。
そう、自分に聞かせながら偽りの笑顔を顔に張り付けた。
「ターミネーター……」
友達もそんな声が聞こえたのか、そんなことをつぶやいた。
言葉の後ろに、『確かに』という言葉が付きそうな勢いで。
いや、聞き取れていなかったのかもしれない。
「ん?何か言った?」
「い、いや?何もないよ!それよりもさ、隣の席のあの子、テスト赤点だったらしいよ?」
そうやって、私は聞こえないふりをして、友達は話題をそらした。
とっさに思い付いた話題が人の愚痴。
私の記憶では、今私が話している友達は人の愚痴なんて言わない人だった。
私が困っていたり、勉強がわからなかったら教えてくれていたりしたし、私もそうしていた。
なのに、どうして蜜を吸うようにして人の愚痴を言うようになったのだろうか。
この、私と過ごした二か月の間に、私がいなかった三か月の間に何かあったのだろうか。
いや、そもそも、私以外の友達とはそういう会話をしていたのだろうか。
私は機械になってから周りに気を配ることが多くなった。
わかったことは、会話の五割は嘘でできているということ。
聞き耳を立てていると、会話の矛盾が見えたり、実際で起きていたことを盛って話していたり……
聞いているだけで嫌気がさした。
でも、私には人のことをとやかく言う資格はない。
だって、いやなことを嫌と言わずに、聞いていないふりをしているから。
人間関係は嘘でできているのかもしれない。
いっそのこと、ターミネーターにでもなった方がましかもしれない。
そう思った。
いつの間にか授業は終わり、放課後となっていた。
テスト前の授業は、演習問題が多くて、一度見ただけで覚えることができる私にとっては退屈なものだった。
まるで、優等生になったような気持だった。
そんな私はいつものように友達とはなしながら階段を下りて、靴箱へと向かっていた。
最近、私を気遣ってかあまり放課後の仕事というのがないのだ。
なので、今はその厚意をありがたく思っている。
私も、こんな体で廊下を歩いていたら何か言われそうなので助かっているのだ。
まぁ、そんなに長くは続かないのだろうけど。そんなことを考えながら自分の靴箱を開けた。
そこには、私の靴と、一枚の手紙のようなものが入っていた。
もちろん、私が入れた覚えはない。
私はその手紙を見つけて蛇ににらまれた蛙のように硬直した。
「何止まってるの?虫でもいた?」
「いや、何もないよ」
「いや、なんかあるでしょ。ちょっと見せて!」
そういって駆け寄ってくる友達。
でも、傷つけてしまうかもしれないという感情が重なって、止めることができなかった。
そして、友達はその手紙をひったくって、まじまじと見つめる。
「なにこれ?誰から?」
「私もわからない」
その手紙は、文字が書かれたノートの切れ端が谷折りにされているものだった。
見た感じラブレターではないようだ。
少しでも期待してしまっていた自分が情けなかった。
誰が好き好んで私を好きになるのだろうか。
こんな、偽物の機械を。
「わ、私が先にみるから返して」
「ま、見たら私にも見せてね」
そういって友達は私に手紙を差し出した。
私はその手紙をそっとつまむように受け取った。
私は両手で、そっと、破らないように丁寧にその手紙を開いた。




