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そしてナイフを手に取った。  作者: サンタ様
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偽物

次の日。

朝日が昇ると、シャットダウンしている電源が自動的にオンになり、目が覚める。

生身の体じゃないから、寝ぼけているという感覚がないし、体がこわばっているわけでもない。

一見、便利そうな体ではあるが、私にとってはただ生身の体が恋しくなるだけだ。

今更願ったって何も起きやしないけど、そんなことを思ってしまう。

でも、今日の体は少し重たい気がした。

胸におもりがついているような感覚がしていて、体が重い。

原因は、私が一番よく理解している。

昨日のことだ。

恐れられた。

この機械という体を。

私は普通に、いつも通りに暮らしたいだけなのに体が違うというだけで避けられた。

もう、普通に暮らせないかもしれない。

そう考えるだけで泣きそうになる。

生身ならとっくに泣いていたのかもしれない。

そもそも生身の体なら泣くことなんか……

いや、そんなことを考えても意味なんてないか。

今を受け入れないと何も始まらない。

諦めなければ何とかなるはずだ。

でも学校に行きたくない。

そう思ってしまう。

そんなことを思いながらリビングへ向かうと、お父さんとお母さんがご飯を食べていた。


「おはよう」


私はいつものようにそういうと、


「おはよう」


と、いつものように返ってきた。

ここは、何も変わらない、いつも通りのままあってほしい。

そう願った。





「お、おはよう……」


誰にも聞かれない声量で、そういった。

私がドアを開けると、みんなは私に一瞬視線を向ける。

そして、さっきと同じように話し始めた。

不思議なことに、昨日のような嫌な雰囲気はこの教室からはしなかった。

教室を間違えたのだろうか。

そんな疑問が脳裏を横切る。

当然、そんなこと、あるはずがないのだが。

私は周りを見渡しながら席に着く。

たまにクラスメイトが私に向ける目線が怖かった。

こんな感情を抱いたのはいつぶりだろうか。

いや、なかったかもしれない。

小学校の時いじめられていたときも、こんな感情にはならなかった。

私はそんな視線から逃れたくて、自分の腕に顔をうずくめ、机に突っ伏した。

ここから消えたい。

そう願いながら寝るふりをし続けた。

でも、私は機械だから眠ることなんてできない。

私は真暗な視界の中思考を巡らせる。

私は何がしたいのだろうか。

私のするべきことは死んでしまった私の代わり。

でも、したいことはなんだろう。

『いつも通りに過ごすこと』。

それさえできれば何でもよかった。

でも、昨日避けられた。

そして、相手は謝ってくれていた。

そのことに耳を貸さずに勝手に距離を置いたのは私自身だ。

昨日、なんであんな馬鹿なことをしてしまったのだろうか。

私があの時真剣に仲直りをしようとしていたらこんなことにはならなかったはずだ。

そもそも、私が教室のあの視線を浴びている時点で気づいていれば……

でも、全部過去のことだ。

変えることはできない。

事実は変えられない。

死んでしまった私が蘇ることができないように。

私は、机に突っ伏していた顔を上げた。

すぐに光の焦点が合い、教室が視界に映る。

大事なのは今何をするべきかだ。

こんなにうじうじしていたって仕方がない。

だったら、今私がするべきことは……

そう思って立ち上がろうと、机に手をついた。


「ご、ごめん。ちょっと、いい……かな?」


私は話しかけられた方に目をやる。

そこには、昨日私が傷つけてしまった友達がいた。

いや、もう友達じゃないのだろうか。

でも、私の心の中では決意が固まっていた。

だから、その言葉を、口に出すことにした。


「ごめんな」


「ごめんなさい‼」


私の声とかぶせるように、いや、打ち消すようにその言葉は相手の方から放たれた。

そのことに驚いて、いつの間にか下がっていた目線を上げた。

そこには、頭を下げて謝っている友達がいた。

私は思わず目を見開いてしまう。


「き、昨日はあんなことを言って……あなたがどんな思いでいるかも知らずに……本当にごめんなさい‼」


そういって、もっと深く頭を下げた。

教室がざわつきだす。

視線が一気に私たちに向けられる。


「昨日のあれのこと?」


「私も見てて思った。あれは失言だよ」


「そう、ひどかったよね」


「しかも、よりにもよって友達にあんなこと言われるとか」


可哀想。


そんな言葉が教室中を飛び交った。

可哀想、か。昔、本で読んだことがある。

可哀想。

その言葉は一見心配や、同情をしたりしているように見える。

でも実際、それは他人事だから言えるのだと。

それを今、身をもって知った。


可哀想?

何が?

あなたたちに私の何がわかるの?


そんな、自己中心的な言葉が口から零れ落ちそうになる。

それを必死に喉に押しとどめた。

この言葉を出せば、今度は私が加害者として見られるのだろう。

そして、またあの異物を見るような視線を私に向けるのだろう。

だから、押しとどめた。

友達のためじゃない。

ただ、私自身のために。

私は今、どんな顔をしているのだろうか。

そんな簡単なことさえ分からなかった。


「こっちこそ、ごめんね」


そんな、薄っぺらな言葉を必死に紡ぎだした。

その言葉を聞くと、友達は泣いてすがるように、


「これからも、仲良くしようね……!」


そう言った。

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