偽物
今日。初めてロボットとして学校へ行く。
私の記憶は、もう死んでしまった私から引き継がれているのだが、クラスメイトからすると、生まれ変わった私として目に映るのだろうか。
それとも、また別人として見られるのだろうか。
でも、ロボットといっても、人間の細胞でおおわれているので容姿は変わってはいない。
だから、別人としては映らないと思うのだが……
学校に行くのが怖いと思うのは小学校以来だ。
私はいじめられている子を守るためにいじめっ子に立ち向かった。
それでいじめの対象が私に代わることは必然のようなもので、学校に行くのが怖くなった。
でも、私が行かないとあの子がまたいじめられるので、行かないといけなかったのだが。
今回はそういうのじゃないから、それほど行きたくないとは思わない。
まぁ、転校してきた人はこんな気持ちだったのかなと思った。
そんなことを考えていると、充電が終わったお知らせのメールが視界に映る。
私はうなじに刺さったコードを抜いて、靴を履いた。
私はドアに手をかけながら、
「行ってきます」
と、いつものようにそう言った。
お父さんとお母さんは泣きそうな笑顔でこう返した。
「行ってらっしゃい」
「緊張するなぁ……」
私は教室のドアの前でそうつぶやいた。
この教室に入るのは三か月ぶりらしい。
教室の中から聞こえる声は私の話題ばかりだった。
私の名前が出てくるたびに心臓がドキリと反応する。
落ち着け私。
いつものように、いつも通りにしていればいいのだ。
私は胸に手を当て、目を閉じながら深呼吸をした。
それで、ふと気づいた。
もう私に動く心臓はないのだと。
そうだ。私は機械なのだ。
普段と違うように扱われて当然。
投げやりになった私は意を決してドアに手をかけた。
「おはよー」
クラスが静まり返る。
そうだ、違和感があって当然なのだ。
死んだとされていた人がロボットとして生き返ったとか。
そうだ。みんなの目には私は偽物としか映ってない。
そうだ、当然だ。
少しでも希望を持っていた私がおかしいのだ。
「ご、ごめん。クラス間違えた……」
小声でつぶやき、一歩教室の中に入っていた足を戻そうとした。
すると、
「おはよー、宿題どうだった?」
「お前も大変だっただろ。お帰り」
みんながいつものように話しかけてくれた。
私に話しかけるその顔は、いつものような笑顔だった。
「みんな……」
泣きそうになる。
でも、出ない。私は機械だから。
でも、私は私なんだ。
私はみんなと同じように笑顔を作って、
「ただいま!」
と、いつものように言った。
本当に、いつも通りだった。
いつもの教室。
いつもの席。
いつもの先生。
いつものクラスメイト。
休み時間に私の机を囲む友達も。
全部、全部いつも通りだった。
これは、みんななりの私に対しての配慮だろう。
不思議と胸があったかくなった。
そんないつも通りの日常は、私の頭の中から自分が機械であるということを忘れさせてくれた。
そして、放課後。
私はいつもの友達と帰路をたどる。
「今日はありがとうね」
気が付けばその言葉が出ていた。
言った後に、変なことを言ってしまったと気づいて、慌てて口をふさいだ。
そんな私を見て友達は笑った。
その笑い声につられて私も笑う。
今更ながら、自分が笑えていることに驚いた。
「まぁ、感謝を言うのはこっちなんだけどね。」
「? どういう意味?」
友達は改めて私の目を見つめた。
でも、表情は柔らかなままだ。
「私たち、あなたがいなくなって少し暗かったのよ。あなたの机の上にはいつも花が添えられてて……でも、帰ってきてくれてありがとう。あなたの笑顔にいつも助けられてるよ」
そう、言ってくれた。
だから私はその言葉に笑って答えた。
「ありがとう」
と。
「ありがとうしか言えないのか!」
と、突っ込まれて二人で笑った。
機械でも、こんな風にみんなと笑って暮らせるなら、これでいいと思った。
家に帰るとお父さんが真っ先に私に駆け寄ってきた。
「ただいま」
「お、お帰り。それよりもどうだったか?何か体に異常はないか?みんなにいじめられなかったか?」
私の肩をつかみながら必死に問いかけるお父さん。
見たこともない形相に私は少し後ずさる。
それを見たお父さんは我に返ったのか、
「すまん、少し取り乱した」
と、目をそらしてそういった。
「大丈夫。みんないつも通りに接してくれて楽しかったよ。体もいつも通りに動くし、大丈夫。心配かけてごめんね」
そういうとお父さんは安心したように息を吐いて、
「何かあったら言うんだぞ」
といった。
私はつい昨日まで日常を送っていたけど、周りはそうじゃないんだなと改めて実感する。
三か月という月日は、短いように思えるが、かなり長いものなのだ。
まぁ、私にできることといえば友達の言っていた通り、いつも通りに笑って過ごすことだ。
……死んだ私の分まで。
そう思いながら自分の部屋に移動した。
階段を一段上がるたびにぎしぎしと音を立てる。
……私は今鉄の塊だ。
重いに決まってる。
機械。
本当にこんな私を認めてくれるのだろうか。
本当に、今までと同じように過ごせるのだろうか。
ふと、自分の腕を眺める。
……うん、元の体とは何ら変わりない。
私は左手で右腕をなぞるように触れた。
感触は、肉に囲まれた鉄だ。
表面は柔らかい。
でも、体温がないうえに中は硬い何かでおおわれている。
その事実が、私の胸を締め付けるのだった。




