偽物
そしてナイフを手に取った。
鋭い刃を新聞紙でくるんでリュックに突っ込む。
こんなに胸が苦しいのに、涙が出ない。
その事実がもっと私の胸を締め付ける。
私の、大事なものだけをそのリュックに詰め込んだ。
詰め込み終わり、それを背負う。
そのリュックはあまりにも軽すぎた。
でも、それでいいんだ。それでいい。
もう、何も失うものなんてない。
その事実が私の胸を締め付けて、同時に勇気を与えた。
どこか、遠い場所へいこう。
誰もいない、静かな場所に……
幸せな家族を壊したのは、ある交通事故だった。
山にある道路を父の運転のもと走行していた。
旅館に着いたら何をしようか。
まず、窓から、見える景色をおかずに軽食をしよう。
私、お菓子たくさん持ってきたんだ。
こらこら、全部食べたら太るぞ。
まぁ、お父さんはデリカシーがないわね。
車の中は時期につく予定だった旅館の話に花を咲かせて、笑い声で満たされていた。しかし、急カーブでタイヤがスリップを起こした。
そして、車は転落。
車は横転しながら山から滑り落ちた。
そして、その家族の娘は頭部の強い損傷により意識不明の重体となった。
まさに植物状態。
医者からも、もう目を覚めることは天地が日くりかえらない限りないでしょうと言われた。
もちろん、両親は娘のその状態を悲しんだ。
もしかしたら、生き返るかもしれない。
そんな薄っぺらい奇跡にすがりつくしたかなった。
一番罪悪感を抱いていたのはもちろん父だった。
自分がもっと丁寧に運転をしていれば。
そう、自分を罵った。
でも、失ったものを取り戻すことはできない。
だったら、もう一度、手に入れるしかない。
生み出すのだ。
この手で。
父は機械に関する科学者だった。
頭のいい父は、大事なものを手に入れるたびに失った時のことを考えた。
それゆえに、家族の頭の記憶、考え方、容姿、その人間のすべてをデータとして保存していた。
娘を、ロボットとして復活させる。
父は、やってはいけないこととはわかっていながらもそれに手を出してしまった。
そうすることで、娘の死をなかったことにできると錯覚していた。
そうして、そのロボット、つまり『私』が生まれた。
私が初めて目を開けたときは驚いた。
さっきまで家で父の頼みによって記憶をデータ化してもらっていた。
のに、今はなんでこんな薄暗い科学室にいるのだろうか。
なんで、父はこんなにも悲しそうなのか。
なんで、悲しそうなのに、私をそんな目で見ているのだろうか。
すべて、わからなかった。
そして、私は父から話を聞いた。
その時のことを話す父はとても悲しそうで。
私はその泣いている顔を、抱きしめた。
すると、あんなに厳しかった父がまるであかちゃんのように、声をあげて泣いた。
私が、私の代わりをしなくちゃ。
私は、私のために生きることを決意した。
それが、私。所詮は偽物、まがい物。
誰かの代わりになることが私のすべて。
なのに、だったのに。
なんで、なんで……




