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 なんとか米田先生を説得して渡してもらった箱を抱えて、あたしは川沿いの道を洋館に向かって歩いていた。

 箱の他にお菓子の詰まった袋も持っている。これは追試に協力してくれたマコトくんへの「バイト代」だ。

 霊はもちろんものを食べたりできないけれど、これは霊も食べることができるという特殊なお菓子なんだ。

 なんでも、訓練に協力してくれる善良な霊へのお礼に、昔の『特殊能力者養成機関』の職員が開発したとか。


「ふう……」


 一度立ち止まって、箱を持ち直した時だった。袋の中からあめ玉が一つ、こぼれて川の土手へ転がっていってしまった。


「ああ〜、もう」


 あたしはあめ玉を追いかけた。

 幸い、あめ玉は川には落ちずに止まった。あたしは箱を地面に置き、屈んであめ玉を拾おうとした。


 その時、なぜか背中がぞっとした。


 振り向いたあたしの目に、女の人の顔が映った。

 思い詰めたような表情をした若い女性が、あたしの背中に手を伸ばしていた。

 次の瞬間、強い衝撃と共に、あたしの体が倒された。


(押された)


 そう思う間もなく、あたしは川に落下していた。


 ごぼおぉっと音がして、息ができなくなった。鼻と耳がキン!と痛む。無意識に何かつかもうと手を動かすが、指が水を掻くだけだ。


 落ち着け。岸の近くは足がつくはずだ。


 どこかで冷静な自分がそう言うが、体は勝手にもがいて言うことを聞いてくれない。

 流れに押されて、深みへはまっていく。


(息がっ……)


 頭がガンガンと痛んで視界がチカチカと白くなった。

 その白い視界の合間に、こちらへ向かって泳いでくる人の姿が見えた。

 その人は、あたしに向かって手を伸ばした。


(あ……人魚姫……)


 力を失いかけていたあたしの手をつかみ、マリアさんが力強く引き上げてくれた。


「水川!」

「星野先輩!だいじょうぶ、生きています!」


 マリアさんがあたしを抱き上げて岸に運んでくれる。あたしは必死に酸素を取り込む合間にげえげえと水を吐いた。


「時音!何があった?」

「お……押され……背中……」


 いくらか息が落ち着いたところで修司さんに尋ねられたが、口が動かなくてうまく喋れない。何があったのかなんてあたしにもよくわからなかった。


(アメを拾おうとして、そしたら、突然背後に女の人が……)


 そうだ。あの女の人が、あたしの背中を押したんだ。


「私達、悠斗くんを送った帰りで、車の窓から時音さんが見えたから声をかけようとしたのよ。そしたら、突然川に落ちたから驚いたわ」

「え……?」


 あたしは顔を上げてマリアさんを見た。


「女の人……」

「え?」

「女の人を、見なかったんですか……?」


 あたしの言葉に、修司さんとマリアさんは眉をひそめた。




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