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たどたどしい説明を聞いたマリアさんは、すぐに修司さんに連絡してくれた。だが——
「……おかしいわね。つながらないわ」
修司さんが電話に出ない。嫌な予感がした。
「探しに行きましょう!」
「ダメよ。先輩なら大丈夫。心配しないで」
そう言うマリアさんも、不安を隠し切れていなかった。
「でも、兄さんが狙われて……っ」
「そうだとしても、子どものあなた達を危険にさらすわけにはいかないの」
必死に食い下がる悠斗に、マリアさんは少し強い口調で言った。
悠斗はうつむいて拳を握りしめた。
あたしは少し後悔した。悠斗に「狙われているのは修司さんじゃないか」なんて言うんじゃなかった。
「悠斗……」
声をかけて肩を叩こうとした。
その瞬間、きっと顔を上げた悠斗の姿が、消えた。
「悠斗?」
肩を叩こうとした手が空を切った。
「……あの馬鹿っ!」
涼が窓に駆け寄って外をのぞいた。あたしも涼を追いかけて外を見る。
家の前の道路に、悠斗の姿が現れた。そして、すぐにまた消える。
瞬間移動だ。
「悠斗っ!」
「ちっ……連れ戻すぞ!」
涼は階段を駆け下りていって家を飛び出した。あたしも迷わず追いかける。
「時音?どこへ行くの!」
「待ちなさいっ!」
おかあさんとマリアさんの声が追いかけてきたけれど、あたしはそれを無視した。
外に出ると、激しい雨が顔を叩いた。
「悠斗!どこ!?」
「時音、悪霊を探せ!」
「え?」
「そこに悠斗の兄貴もいるはずだ!悠斗もそこに現れるだろ!」
確かにそうだ。
「でも、どうやって……」
「お前は霊能系だ!やればできる!悪霊の気配を感じ取れ!」
涼に言われて、あたしは走りながらあたりを見回した。
どこかに、あの悪霊がいる。
突き落とされた時の感覚、追いかけられた時の恐怖、部屋に侵入してきた気配。
これまでに感じた悪霊の気配を思い出す。
背中がぞくりと震えた。
「……ダメだよ、涼。わかんない……あたし、落ちこぼれだもん」
情けない泣き言が口から漏れた。
涼は足を止めて振り向いた。
「時音。お前になら、絶対にわかる。お前はただ、怖いから見ないふりをしているだけだ。見ようとすれば、ちゃんと見える」
涼はあたしの手をぎゅっと握った。雨で冷えきった手だけれど、心がほっとあたたかくなる。
「俺が一緒にいる。だから、怖くないぞ」
いつもあたしを守ってくれる涼にそう言われて、あたしはその手を握り返して目を閉じた。
(集中しろ……)
あの悪霊の気配を探す。
すると、ゆらゆらと、炎のように立ちのぼる嫌な気配をみつけた。
「……あっちよ!」
あたしは目を開けて、川の方角を指さした。




