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 ある日突然、能力に目覚めて子ども達のあこがれの学校に通いだして、人気の職業について大活躍している。

 その人に近い人間ほど、強く嫉妬するんじゃないだろうか。


 もしも、マリアさんのお姉さんが、マリアさんに嫉妬していたとしたら。

 相手がお姉さんだったのなら、マリアさんが修司さんにも何も言わずに一人で説得しに行ったのもわかる。


 修司さんに送ってもらって家に帰った後も、あたしはマリアさんと犯人のことを考えていた。


 マリアさんが目を覚ませば、真実は明らかになるだろう。修司さんも調べてみると言っていたし。すぐに犯人は捕まるはずだ。


(あたしはもう、関わることはないな)


 後は修司さんが犯人を捕まえてくれるのを待つことに決めて、あたしはほっと息を吐いた。


 ととと、っと窓を叩く音がした。


「あれ?雨か」


 あたしはカーテンを少し開けて外を見た。

 大粒の雨が窓を叩いている。すぐに土砂降りになりそうだ。


「よし。もう寝ようかな」


 明日からは、また涼と悠斗と一緒にがんばろう。そう思った時だった。


 ぞくりっ


 突如、背中に悪寒が走った。


(ーーなに……?)


 部屋の中の空気が、重苦しくなっていく。


(何かいる……っ)


 あたしは目を凝らして部屋の隅を睨んだ。

 そこに、黒い影がゆらゆらと揺れ動いていた。


『……ミィツケタ……』


 黒い影が、あたしを見てニヤリと笑った。

 あたしはじりじりと後ずさった。


(なんで……あたしの部屋に?)


 黒い影がぶわっと膨れ上がって、その中からあの女の人が現れた。


「……あんたも、グロウスなのね」


 女の人がじっとりとつぶやいた。その指先で何かがキラリと光った。


「なんで、あんたがグロウスなのよ……なんで、なんでなんでなんでっ!」


 ぎろりと睨みつけられて、あたしは咄嗟に逃げ出そうとした。だが、黒い影に足を取られて、転ばされてしまう。

 床に倒れたあたしに女の人がのしかかってきて、首に手をかけられた。


「あんたなんか、どうせ大したことないんでしょう……?私はすごい能力を持っているのに……どうしてよ、なんで、なんでみんな私を認めないのよ……?」


 うつろな目のまま、女の人はあたしの首をしめた。


 カツンッと音がして、何かが床に落ちた。横目でそれを見ると、見覚えのある銀色のバッジが床に落ちていた。


(校章……)


 逃げている途中に落としたものを、拾われていたんだ……!

 もがきながら、あたしは思った。


 この人は、グロウスに入りたかったのに入れなかった。それで、あたしがグロウスの生徒だと知って怒りにかられたんだ。


(でも、どうして……っ?)


 本人の言うように「すごい能力を持っている」んだったら、グロウスに入れるはずだ。超常能力の持ち主は必ずグロウスに通わなくてはいけないのだから。

 入れなかったということは、彼女に能力はないということだ。


(わかんない……っ、なんで、こんなことを……っ)


 息が苦しくて、あたしはばたばたと暴れた。

 黒い影が、女の人の背後に広がっている。


(右手で……、さわれれば……っ)


 あたしはなんとか手を伸ばそうとするが、黒い影には届かない。

 代わりに、右手がローテーブルの上のコップに触れた。


「っ……」


 あたしは力を振り絞って、コップを床に叩き落とした。


「時音?何を騒いでいるの!」


 おかあさんが階段を上がってくる音が聞こえた。女の人の手の力がゆるんだ。

 黒い影が女の人の体を包み込み、すううっと消えていく。


「げほっ、げほっ……」


 床にはいつくばって咳き込みながら、あたしは不吉な予感にかられた。

 ざあざあと激しい雨の音が、その予感を煽っているように思えた。




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