表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

12





 女の人はずんずんと林の中を進んでいき、あたしはみつからないように小走りで追いかけた。

 やがて雑木林を抜けて、川の近くまでやってきた。

 また、川を眺めるのだろうか。じっと川をみつめていた姿を思い出して、あたしはそう思った。


 案の定、女の人は川辺へと降りていく。あたしは少し離れたところから様子をうかがった。

 そこで、女の人が何かをつぶやいていることに気づいた。


(なんて言っているんだろう……?)


 身を低くして、声の聞こえるところまでそろそろと近寄った。


「……どうして、あいつが」


 誰かを呪う声が、耳に届いた。


「どうして、あいつがちやほやされるのよ。私のおかげなのに。全部、わたしのおかげなのに。私の能力なのに。どうして、誰も認めないのよ」


 不意に、女の人の体から、黒い影が立ちのぼった。

 あたしは口を押さえて悲鳴を飲み込んだ。


「わたしのおかげなのに。本当は私の能力なのに。みんな、だまされているのよ。あいつに。何が「人魚姫」よ!」


 黒い影が、女の人の体を包んで、その姿が見えなくなった。


 黒い影の正体が、私の目にははっきり見えた。


 たくさんの顔が、げたげたと笑って、女の人の耳に何か吹き込んでいる。


「どうして、あいつばっかり」

『アイツガワルイ』

「そうよ。全部あいつのせいよ。みんな、だまされてる」

『ワカラセテヤレ』

「私の能力を証明しなくては」

『アイツハニセモノ』

『ニセモノ……ヤッツケロ、ヤッツケロ』

『アイツガゼンブ奪ッタ……』

「そうよ。全部……全部全部……有名になるのも、彼も、本当は私のものなのに……全部、全部全部!」


 私は思わず後ずさった。

 声を出さないように逃げようとして、落ちていた小枝を踏んでしまった。ぱきっと軽い音が響いた。


 女の人がばっと振り向いた。

 あたしは全速力で駆けだした。


『マテ』

『ツカマエロ』

『ミタナ……ミエテイタナ』


 黒い影と女の人が追ってくる気配がした。あたしは振り向かずに必死に走った。


 悪意を抱くと、悪い霊が寄ってくると、授業で習ったことを思い出す。あの黒い影は、悪い霊の塊だ。あの女の人の誰かへの悪意に引かれて寄ってきたんだ。


 あの黒い影に全身を覆われていたから、あの女の人の姿は修司さん達には見えなかった?

 突き落とされる瞬間、一瞬だけ姿が見えたのは、私が霊能系だから?

 じゃあ、女の子を突き落としていた犯人は、あの女の人とそれにとりついた悪い霊達なの?


『ツカマエロ……オトセ』

『オトセ……オトセ……川ニオトセ』

『人魚姫ヲツクレェェ』


 黒い影に腕に触れられそうになって、あたしはそれを振り切って川沿いの道を死にものぐるいで走った。

 すでに登校時刻はすぎており、平日の町外れには人の姿がない。

 雑木林を突っ切って戻るか、橋のあるところまで行って川を渡って人通りのある場所まで行くか。

 どっちも無理だ。そんなに走れない。捕まってしまう。

 あたしは走りながら恐怖で涙を流した。


(誰か助けて!……涼!)


 涙でにじむ視界で、それでもなんとか前を見ようとした時、前方に見覚えのある洋館が見えた。


(マコトくんの……)


 一つの場所に居座っている霊には縄張り意識がある。そう授業で習った。

 マコトくんは小さな男の子だが、ポルターガイストを操れるぐらい、強力な霊だ。


 イチかバチか。あたしは最後の力を振り絞って、洋館へと逃げ込んだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ