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 机も椅子も窓もない。殺風景な部屋の中。


 あたしは緊張の面持ちで、その真ん中に立っていた。


 突如——ゾクリッと異常な寒気に襲われ、あたしは直感した。


(来るっ!)


 次の瞬間、白髪の老爺の幽霊が、あたしの背後に姿を現した。あたしは胸に下げた勾玉を握りつつ振り返り、霊に向かって左手を伸ば——……しかけた体勢でピタリと動きを止めた。


(……ああっ!やっぱりダメッ!きょ……拒絶反応がっ!)


 霊に向かって片手を伸ばしたまま、あたしは硬直した。


 この手を伸ばして霊を捕まえ、霊体捕獲保存容器に入れて提出する。それが合格条件だとわかっているのに、どうしても霊に触れることが出来ない。


 そのままで、二分ほど沈黙が流れる。


 あたしが差し出した左手を見て、たぶん——勘違いしたのだろう。


 人の好さそうなおじいさんの幽霊は、にこやかに笑みを浮かべてあたしの左手をぎゅっと握った。


 幽霊と握手。


「ぎょええええええっ!


 あたしの絶叫が学園中に響き渡った。






 ***




「実技試験は追試か……当たり前だけどね」


 試験の終わった生徒から帰宅しているが、追試決定のあたしは帰れずに一人で教室に残っている。


 情けない。本っ当に情けない。もう五年生なのに、いまだに霊に触れることすら出来ないなんて。


「このままじゃあ、『特殊能力者』の資格試験に合格できないよ」


 まだまだ先の話だけれど、国際特殊警察組織に就職するためには『特殊能力者認定試験』に合格するのが必須なのだ。


「時音」


 一人でうんうん唸っていると、クラスメイトの星野 悠斗が教室に入ってきた。


「悠斗、何?」

「時音。涼を見なかった?」

「涼?さあ、知らないけれど」


 答えながら、あたしは「まさか」と思った。

 あたしの表情を見て、悠斗は子供らしくないため息を吐いて肩をすくめた。


「涼の奴、試験の順番が僕の次だったのに、どこにもいないんだよ」

「また、サボりなの?」


 あたしは呆れて声を上げた。


「あいつは普通に受ければ合格するのに、なんでサボるんだろう」


 普段から授業をサボることもしょっちゅうの問題児であるが、涼が本当はすごい実力を持っているとあたし達は知っている。


「悠斗はどうだったの?試験」

「隣の教室に行こうとして屋上に行っちゃっただけだよ。大丈夫。校舎外には出ていないから、去年よりはマシ」


 悠斗は親指を立てて片目をつぶった。


「じゃあ、またこの三人で追試か……」

「そうだね。おなじみのお……」

「しー!」


 あたしは立ち上がって悠斗の口をふさいだ。


「その言葉を口に出さないで!今は落ち込んでるんだから!」


 実技の連続追試記録を更新してしまって傷心なのだ。今はあの情けないあだ名を聞きたくない。


「ま、まあ。とにかく、涼のこと探しに行こう。なんでかアイツが問題を起こすとあたし達まで叱られるんだから」

「前に教頭のカツラ飛ばした時も、なぜか僕と時音まで反省文を書かされたもんね」


 疲れた口調でぼやきながら、あたしと悠斗は連れだって学園一の問題児を探しに出たのだった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] えっ!どうなっちゃうんでしょう。 ドキドキ!
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