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010 装備がなくては始まらない



「いらっしゃい! ……?」


 笑顔で振り返った女性店員の顔が訝し気に変わる。

 入店してきたのが幼女わたしでは無理もない。

 冷やかしとでも思ったのだろう。


「あらお嬢ちゃん、お使いかい?」


 それでも恰幅の良いおばさんは一瞬で笑顔に戻ると、にこやかに尋ねてきた。

 親か誰かに頼まれて子供がお使いに来るケースも結構あるのかもしれない。


 わたしはぐるりと店内を見渡し、負けじと満面の笑顔でこう返した。


「ううん。わたしが使う武器を探しに来たの」

「!?」


 ここは『ラムダル武具店』と言う名の店である。

 武器屋ならば他にもいくつかあったのだが、この店の表にあったのぼりに『ファトスの街で一番の品揃え!』とか『店主は腕利きの鍛冶師!』などと書いてあり、その謳い文句につられたのだ。


 一応、脱出時にお借りした騎士さんの長剣はアイテムボックスに入れてあるが、今後それを使うつもりはない。

 剣や鞘にはアニエスタ国の紋章が刻まれていたし、いずれは彼の親族、ないしはお墓に返そうと思っているからだ。

 わたしがここまで生き延びることが出来たのは、ひとえにあの剣のお陰であると言い切っても過言ではなかろう。


 死してなお、剣となりて王女を守らんとした気高き騎士に多大なる感謝を。

 ……そして永遠の安らぎを。


「急に祈り出してどうしたんだい? あんた修道院の子?」

「あっ、ううん。なんでもないです」

「そうかい?」


 奇妙なものを見る目付きの店員だったが、それ以上突っ込んでこなかったのはありがたい。

 はっきり言って出自の話題は返答に困る。


「で、おチビちゃんは何を探してるんだね?」


 このおばさんも商売のプロだ。

 幼い女の子が武器を買いに来たと言うのに止めたり咎めたりしない。

 それともこの世界が幼女でも普通に戦うほど殺伐としているのだろうか。


「えーと……」

「扱いやすいナイフやダガーがいいんじゃないかい? おチビちゃんは小さいしね。それでも重いかもよ? どれ、見繕ってやろうかね。そうだ、片刃と両刃、どっちがいい?」


 うぅ……

 グイグイ来るよこのおばさん……

 前の世界のショップ店員みたい……

 わたし、あれ苦手だったんだよね……

 それにおばさんだって小さいじゃない……

 でもわたしは生前学んだ。こういう時はきっぱり自分の意見を言わねば!


「わたしは剣を探しているの」

「剣!? あんたがかい!? そんなナリで!?」


 まぁ、やっぱり驚くよね。

 ギャップがありすぎるもん。


「やめときな。その体格じゃショートソードでさえ持ち上げるのだって精一杯……えぇぇぇぇええ!?」


 論より証拠。

 わたしは手近にあった剣をヒョイと持ち上げ、軽く振り回して見せた。


「うーん。これじゃ軽すぎるかな」

「な、何言ってんだい! そいつは重戦士用の厚みが倍ある剣だよ!」

「おばさん。鞘なしの大剣はないの? 出来れば背負えるヤツ」

「大剣!? あ、あるにはあるけどさぁ……背中だと身長的に抜けないんじゃないかい?」

「あー、そっか。じゃあ腰に差すしかないね……水平にすれば引きずらなくて済むと思うし」

「……どうやら本気みたいだね……あっははは! 面白いよあんた! 気に入った! ちょっと待ってな!」


 気風きっぷよく豪快に笑いながらおばさんは奥へ消えて行った。

 おばさんこそ面白い人だと思う。


 待つほどもなくおばさんは戻ってきた。

 台車に一振りの剣を乗せて。

 ……重かったんだね。


「これは?」

「刀身の長さは大剣よりも少々短いけれど、幅の広さが売りでね。バカ旦那が調子に乗って打ったはいいが、買うヤツが全然居なくてずっと倉庫にしまいっぱなしだったのさ。だから負けとくよ」

「へー、珍しい形だね。なるほど、悪くないかも。じゃあ、これください。あ、あと防具も欲しいんだけど」

「金属製の鎧は無理だね。あんたに合うサイズがない。革の鎧で良けりゃあるよ。オーダーメイドでなら金属鎧も作れるさね。時間はかかっちまうが、どうする?」

「ううん、革鎧でいいです(手持ちも心許ないし、あんまりお金はかけられないよね。やっぱりすぐ冒険に出て稼がなきゃ)」

「あいよ」


 おばさんはまたしても奥から鎧を引っ張り出してきた。

 胸と胴体、そして腰を覆うタイプの革鎧である。

 着て見ると少し大きかったが、思っていたよりも動きやすい。

 【DGO】では金属鎧しか装備していなかったので、この軽さは何だか新鮮だ。

 そして30センチ以上ありそうな幅の大剣を革ベルトで腰に吊るす。

 ベルトは柄の部分の留め金を外せば即座に剣を抜ける優れものだ。

 これなら突発的な場合でも充分に対応できると思う。


 普段はアイテムボックスに入れておいてもいいんだけどね。

 ま、気分ってやつ?

 丸腰だと舐められそうだし。


「はい、お代」

「ああ、確かに。毎度あり。おチビちゃん、冒険者になる気なんだろ?」

「うん。そのつもり」

「あんたの度胸ならきっと上手くいくさね。武運を祈ってるよ」

「ありがと。おばさん、また来るから、いい鉱石とか拾ったら買い取ってね」

「あっはははは! 気が早いね! いつでも持って来な!」


 おばさんの豪快な笑い声に送られ、わたしは通りへ出た。

 次に目指すのは冒険者ギルドだ。


 先程の大きな建物へ戻り、分厚い木の扉を『頼もう』と言いたくなるのを我慢しつつ開けた。

 最近ハマっていた時代小説のせいだろう。

 わたしはゲーム廃人の前に、読書家でもあるのだ。


 ギルドの扉を開けると、外の活気と同じくらいの喧騒に包まれた。


「がっはっは! いやぁ、儲かったぜ!」

「羨ましいな。一杯奢れよ」

「ドーマの迷宮に入ったパーティーが帰って来てねぇらしい」

「ペッツがリーダーじゃ無理もないわ。きっとメンバーに手を出したのよ」

「わっははは! そうに違ぇねぇ!」

「今朝方の話なんだが、近くで【疾黒しっこく】が目撃されたってさ」

「あの暗殺者の?」

「おい、今日の依頼はどうする?」

「そうだなぁ……」

「少し難しめのに挑戦してみようか」

「おっ、いいねぇ。やっぱ上を目指したいもんな」


 冒険者の話し声が頭上を飛び交う中、わたしはギルド内を見回す。

 内部はゲームによくある冒険者ギルドといった感じで、だだっ広いホール、受付カウンターに素材買い取りカウンター、依頼の掲示板や併設された酒場もあった。

 そして当たり前のようにやたら胸の大きな茶髪ロングで眼鏡の受付嬢が。


 ……くっ……自慢げにブルンブルンさせちゃって……前世のわたしなら負けてないのに……っ!


 謎の対抗意識に苛まれつつ、結構な数の冒険者と思われる武装した連中の合間を縫い、カウンターへ向かう。

 にこやかだった受付嬢の表情が、わたしの接近に伴って微妙な顔と目付きになっていった。

 既に慣れてきたわたしは気にも留めずに尋ねる。


「あの、冒険者になりたいんですけど」


 ザワッ


 急にざわつきはじめるギルド内。

 なんでよ。

 やっぱり小さな女の子が冒険者っておかしいの?

 いや、普通に考えればおかしいけど。


「え、えーとですね、冒険者になるには一応年齢制限がございまして……」


 困ったように笑う受付嬢だが、子供のわたしに対しても言葉使いが丁寧なのは立派である。

 って、年齢制限なんかあるんだ?

 やっぱり大人じゃないとダメなのかな。

 訊いてみよう。


「何歳から?」

「10歳からです」


 ぐふっ!

 わたしは9歳。

 微妙に足りないじゃん!

 ……でも、あと少し(一年近くあるけど)すれば10歳だし、少しくらいサバを読んでもいいよね……?


「じゃあ大丈夫。わたし10歳です」

「そうでしたか。なら問題ありませんね。ではこちらの書類に必要事項の記入をお願いします」

「はーい」

「ただ、10歳ですと最初は見習い期間として……」


「おいおい、やめとけよチビッコ。こんなガキじゃまともに戦えるわけねぇだろ? だいたいなんだそのデケェ剣は? 紙で出来てんのか? そうでなきゃお子ちゃまにゃ振り回せねぇもんなぁ! ブハハハハ!」


 気分良くペンを握った時、背後のかなり上(多分大男)から下卑た声が降りかかってきたのである。




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[一言] 嫌なやつかおせっかいか
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