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「アド。説明を」
部屋に入るや否や、リサが食い気味に聞いて来た。まあ気になるよね。僕も知りたい。けど身分証は手元にないんだよね…。
「僕にもわからないんだよ」
「…………天職と天技が変わってしまったのですか?」
「違うよ……多分」
「多分とはなんですか多分とは」
とりあえずリサにどうなったかを説明する。
僕自身良くわかっていないからはっきりとは言えない。だから起こったことをそのまま伝えた。
「意味がわかりません」
起こっだことを伝えた第一声がそれだった。まあ僕もわからないけど。
「そういえば、身分証に魔力を流した時何か言ってなかった?」
「あっ。そうですよ!」
「なに?」
「なんで身分証壊れてないんですか!? というか知っててやったんですか!?」
「えっ。なにを?」
「初めて魔力を注ぐのは身分証に自分の情報を表示させる時。二度目以降は更新のため。初めて流した時の魔力量が記録されるから更新をする時は初めて注いだ時とだいたい同じ量の魔力でなければないことです。アドは何倍、何十倍も流しましたよね?それをやると壊れるんですよ」
「あ…。昔習ったな…」
そういえば…。
「はあ…。普通は皆、神殿でやるのでその時に説明されるのですが…私達の説明不足ですね」
「じゃあやっぱり壊れたってこと?」
「その可能性はありますね」
「あちゃあ…」
「しかし…壊れ方は何も表示されなくなるか割れるかのはずです。稀な壊れ方か…本当に天職が二つあって大量の魔力を流したのをきっかけに表示されたか…。ですがどちらも聞いたことありません」
「ならリサも身分証の大量の魔力流してみてくれない?」
「嫌ですよ。身分証って壊れたらいくらすると思ってるんですか。一般と比べると高級取りな公爵家のメイドでも数年分の給料ですよ。保護者が何年も国内で働き、税金をずっと払っているから十二歳の子供は無料で身分証を発行して貰えるのです」
「へえ?」
「以前教えましたよ?
他国から越して来て十五年未満の親から産まれた子や親が身分証を持っていなかったり、国に登録されていなかった場合はどれだけこの国に住んでいようが自国民だと見做されず、身分証の発行にはお金がかなり必要となります。
紛失や損傷も同じです。二枚目はお金がかかります」
「えー?」
「……今度家庭教師に復習をメインでお願いしましょうか」
「うそうそ!覚えてるよ!というか常識だし。ただ僕の身分証のことを知るには誰かに同じようにやってみてもらうのが一番でしょ?」
「まったく。それは私の方で調べてみます。最悪アウトローな人間を捕まえて試してみればいいでしょう」
アウトローって…スラムにいる人とか捕まってる犯罪者とか…?
「いや、それはいいよ。危険なことはしないで」
「私がやるわけではないので大丈夫です」
「それもどうかと思うけど…」
そういう問題なのか? リサに何かあったら困るから本当やめてほしい。
「とりあえず身分証が返って来たら見せてください」
「わかったよ」
さて技能辞典について調べてみよう。リサも仕事に戻るだろうし一人でのんびりと…。
「………出ていかないの?」
出て行く様子もなく、ジッと僕を見続けるリサに問いかける。
「見ていてはいけませんか?」
「別にいいけど…なんか退出する流れだったじゃん?」
「気のせいです」
き、気のせいかあ。
「仕事は?」
「私の本日の仕事は昨日不調だったアドヴェンス様に付いてお世話をすることになりましたので」
「あ、そうなのね。じゃあ身分証について調べるのは後日ってことか」
「ええ。明日以降手が空いたらですね。それにアドから説明してもらったとはいえ実際に身分証を見ていないので自分の目で確認したいですし」
「りょーかい。ならベットにでも座って良いよ」
「アド…異性に興味を持つ年頃なのは分かりますが…」
「ちがっ…!」
「冗談ですよ」
まったく……でも冒険者たるもの寄ってくる女性は全て侍らせ幸せにしろ、って…いやいやリサは寄って来ているわけじゃないし、同意の上じゃないし…。
でもリサ可愛いし…。
「何顔を赤くしているのですか。本当に私の身体に興味でも?」
「っ…」
「え、本当に?アド…私のことずっとそういう目で見ていたのですか…?」
「それは違うよ!?」
「でも興味はあると…?」
そりゃあそんなスタイルよくって可愛くって、初恋の相手なんだから興味を持つのは仕方ないだろ!って叫びたいが叫ぶ度胸はないので沈黙をとる。
「…こほん。冗談はさておき…どうぞ天技を試してください。お言葉に甘えてベッドに座らせてもらいますので」
リサの顔がほんのりと赤く見えるのは気のせいだろうか?照れたのかな…?
「…….なんですか?」
「い、いえ!」
睨まれてしまった。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
『天技/技能辞典、顕現』
そう口にすると目の前に分厚い辞典が現れ、ゆっくりと落ちていくそれを両手で受け止めた。
「真っ白ですね」
「うん」
表紙も背表紙も白。何も書いていない。もちろん中身も何も書かれていない。
「これに知りたい技能の特徴や名前を書けば良いんだよね?」
「鑑定士の方はそう言っていましたね」
「じゃあ…冒険者。っと」
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【冒険者】
・冒険者として必要な技能である戦闘系技能、伝達系技能、戦闘補助系技能の下位技能使用可能。
・天技/動物辞典、魔物辞典、植物辞典、鉱物辞典、毒辞典、武器辞典の顕現可能。
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…………………。
「…ぶっ壊れ性能ですね。もしかするとこの世界最高峰とも呼べるような技能がアドのミスのせいで失ったかもしれないのですか」
「いやいや!まだ失ったと決まったわけじゃないし!二つの天技が与えられた可能性だってあるし!」
「もしかすると、と言ったじゃないですか」
「……」
「それで…そこに書いてある六個の辞典を全て顕現できるのですか?」
『……技能/動物辞典。顕現』
あれ?天技だから?それとも本当に天技/冒険者を失った…?
『天技/動物辞典。顕現』
技能ではなく天技と言うと目の前に本が現れた。
よしよし。よかった。ちゃんと天技/冒険者も使えるね。
『天技/魔物辞典、天技/植物辞典、天技/鉱物辞典、天技/毒辞典、天技/武器辞典。顕現」
そして目の前に五つの辞典が現れ、慌てて全てを抱える。
「本当に現れるとは…」
「本当この天技どうなってるの。天技は基本一人一つだし、これ六人分の天技ってことだよね?」
「そうですね…。それで戦闘系技能や伝達系技能はどんな技能が使えるのでしょうか?冒険者として必要なもので必要のない技能は伝達系でも使えないのでしょうか?」
「ま、待ってね。というか何でそんな冷静なの!?僕結構いっぱいいっぱいなんだけど!?」
「こんな技能聞いたことないんです。驚きよりも好奇心が勝るというものでしょう」
キリッとした顔で何言ってるんだよ…。
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【天技/冒険者に含まれる戦闘系技能】
・小剣術
・剣術
・大剣術
・二刀術
・弓術
・棒術
・棍術
・杖術
・槍術
・薙刀術
・斧術
・鉄鞭術
・体術
・拳術
・騎獣術
・火魔法
・水魔法
・土魔法
・風魔法
・光魔法
・闇魔法
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