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「天職を授からないと技能を得ることは出来ない。まあ天職を貰うと同時に今まで努力していた物が技能として現れることはあるがな。
アドヴェンスの身分証にイグドラ語と礼儀作法があるようにその二つは割と誰もが天職を授かると同時に持っているものだ」
「あ、でも天職が貴族じゃなかったらアドヴェンスなら魔法技能や剣術とかが出ていたかもしれないわね」
「確かにな…。だが本当に物心がつく頃から日常的にやっていないと十二歳で戦闘技能が現れることは稀なだ。
それほど幼少期だと魔力は安定していない上に身体が出来上がっていないから訓練してもいい結果にはならない。だから貴族は早くとも八歳から遅ければ十二歳から訓練をする。平民も基本的にはそうだな。八歳までの子供に働かせてはいけない法律があるし、訓練に関しては法律に決められてはいないが、させてはいけないって風潮が強いからな。
孤児の人間でも申請すれば補助金銭が降り、孤児院にはいるから無理して働くこともない」
「身分証がなくても補助が降りるのですか?」
「役場に自ら来た者だけだがな。育児するお金がない者も子連れで役場や教会に行けば補助は降りる。ただし、本当に補助が必要なのかは裏を取るし、身分証を持っていない親だったら審査は厳しくなるがな」
へぇ…。
「そうですか…」
どんな人間でも補助金がもらえる可能性はあるのか。補助するから子供に仕事をさせたり訓練させたりしてはいけないぞ。ってことなんだろうな。
理由はなんだろうか?働かせたり訓練させて一生治らないような怪我をしたり死んでしまっては、ただでさえ病気などで死にやすい子供…将来国に貢献する。しなくとも税を納める人材を減らさないように、とかかねな?
まあ…それだけ豊かな国って象徴のようなものだろう。ローレル公爵領でも自分の住んでいる街にしか出たことはないから他の街がどうなっているのかは知らないけど凄いんだなー。
そうじゃなくて!
補助はどうでもいいよ!技能のことだ。どういうことだ?
僕は確か…五歳くらいからだと思うけど、見様見真似だったけど訓練はしていたし、六歳くらいには魔法が使えた。だからこそ技能として現れている…?それくらいから練習していなければ発現しないということなんだろう…。
そして技能が発現するほど鍛錬していても、天職が貴族に決まった場合発現はしないことになるよね?
貴族だと魔法は使えても技能として確立はしないのだろうし。
僕の場合はこっそりと…リサの手伝いがあったからこそだけど、幼少期から訓練をして、天職が貴族だけではなく冒険者でもあるから発現した、ってことか。
じゃあ剣術とかに括弧がついた理由は、天職/貴族では本来身につけることのできない技能だから見えなくなった。ということだろうか?
色々推測はできるけど…合っているのかわからないなあ…。
「天技の方は技能辞典か。これも聞いたことないな。まあそのまんま技能についての辞典だろうが。アプリー。鑑定してもらえるか?」
おっと。父上の話を聞かないと。考察してて聞いていなかったら大変だ。
「お任せください〜」
父上が鑑定して、と言うと間延びした声が聞こえ、控えていた白衣の女性が近づいて来た。やっぱり鑑定士か…。非表示がバレるかもしれないな…。
「ん〜?」
「どうした?」
「あ、い〜え〜。一瞬ブレたのでびっくりしただけです〜」
ギクッ。
「それで、技能辞典は他の辞典系スキルと同じで使用すると本が出てくると思います〜。それでその本に知りたい技能の名前や特徴、効果について書くとその技能についての詳細が本に表示されるようですね〜」
大丈夫、か…?
「鑑定に似ているな」
「使ってみないとわかりませんが、鑑定より多分詳細ですよ〜」
「そうか。とにかく無事天職と天技を授かってよかった。私は早速写しを作って王宮の人材管理部に持って行く。アドヴェント。身分証を借りていくぞ?後で返すからな」
「わかりました」
父上に身分証を渡すと早速部屋を出ていく。期待には沿わなかったのだろうか…?父上は少し機嫌が悪かったな。
「アドヴェンス気にしないで?別に天職がどんなものでも気にしないというのは本当よ。ただあの人は貴族至上主義の方々のことが嫌いなの。それで、貴方が天職貴族だと知れ渡ったら貴族至上主義の方達が貴方を取り込もうとするかもしれないから心配なのだと思うわ」
「そうでしたか…」
「貴方は賢いから大丈夫だと思うけど、貴族至上主義の方々に甘言を囁かれても鵜呑みにしては駄目よ。逆に利用するような気持ちでいなさい。それで私達に相談してくれればいいから」
「わかりました。約束します」
「ありがとう」
そう言って母上は頭を撫でてくれる。子供じゃないのだから、と言ってもやめないからもう諦めた。別に嫌ではないからね。ただ外ではやめてほしいけど。
「じゃあ部屋に戻って天技を試してみます」
天技はもちろん試したい。色んな辞典があるのだ。色々と調べてみたいと思うのは仕方ないだろう。
だけど…それよりもリサに相談したい。天職が二つあることなんてことがあるのだろうか?それに非表示になった天職を元に戻せるのか。
「わかったわ。危ないものではないと思うけど気をつけてね」
「わかりました」
リサを伴い自室へ行く。途中、視線が背中に注がれているのがわかるほど、リサに見つめらながら…。