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夕食をパパッと取る。リサしかいないのでテーブルマナーは最低限、見苦しくない程度で済ました。
父上と母上には立派な侯爵家次男であるところを見せていなければならないから少しはしたないのはリサの前だけだ。
「アド。私しかいないといってもキチンとしてください。侯爵様達の前でボロが出てしまいますよ」
「マナーは身体に染み付いてるからそんなことはないよ。今は少しでも時間が惜しいからね」
「……お気をつけください」
「わかってる。ありがとう」
それからも寝るまで練習した。光で玉を作ったり、その玉を大きくしたりして普通に楽しんでしまったが。
遊んでいちゃまずいと思ってからは、ちゃんとやっている。『光よ、文字を歪めよ』だの『光よ、文字を貴族に変えよ』とやってみるが、文字はぼやけるだけ。まあ冒険者を貴族って読めるようにさせたいなら幻覚魔法の分野だもんね。幻覚魔法も使えるだろうか…?
陽が登るまで色々と試しながら練習したが結局冒険者という文字を他の文字に見せかけることは出来なかった。というか幻覚魔法の使い方がわからなかった。
ただ光の魔法で文字を見えなくすることは出来たのでもうこれでお終いにする。というか魔力も眠気も限界だから終わりにして仮眠を取らなければ。
そしてリサには事前に少し遅めに起こしてもらうように言っておいたので仮眠レベルだが充分だ。
「アド。おはようございます。出来ましたか?」
「出来なかった。でも、文字を見えなくすることはできたから家名のところを隠して冒険者登録をすることにするよ」
「それは何よりです。侯爵様達への対応は?」
「まあ…それはなんとかするよ」
「では身支度して食堂に行きましょう。侯爵様と奥様はもう朝食は済んでいますが身分証の内容を話すため午前中の予定は繰り上げておりますので」
「なら早く行かないとね」
食堂に行くと父上と母上が待っており、挨拶して席に着くと朝食が運ばれて来た。
「体調はどうだ?」
「大丈夫です。ご心配をおかけしました」
「大丈夫ならいいのよ。食事が終わったらもう一度魔力を流してみましょう」
「はい」
視線を部屋の端に向けると見知らぬ女性がいた。モノクルをかけており、白衣を着ているところを見ると鑑定士だろう。医師って可能性もあるが…今日は必要ないし、専属医は住み込みだから外部からやってくることはないだろう。
「ごちそうさまでした」
「早速だが身分証を表示しよう。急ぐこともないがお前の身分証の写しを国に提出しないといけないからな」
「はい」
貴族は身分証の写しの提出は義務だ。平民は義務ではないが提出しておけば国民としてちゃんと認められて、自分の子供の身分証を無償でもらえたり、有事の際に食糧の配給やらなんやらと恩恵は色々ある。
逆に国に登録されていないと国に住んでいても何かあった時国に登録されていないから無法者や外人扱いになったりもする。
まあ大抵は身分証を有償無償問わず国から受け取るのでそのまま教会などを経由して提出するのだが、国が認可していない白紙の身分証出回ったりもするらしい。魔法士達も人間だからな。裏で捌けば高値で売れるなら小遣い稼ぎくらいするのは仕方ない。
そんなことを考えながらも魔力を多めに使い、今回は皆がわかるほどの濃度で身分証を魔力で包み込む。
僕が魔力保持量が多いのを知っているのはリサだけだけど、別に隠していたわけではないので惜しみなく使う。これで昨日は疲労で失敗したと思ってもらえるだろう。
一流の冒険者たる者、爪は隠しても舐められてはいけないからな。昨日僕が魔力を使ったことを気づいていた使用人に僕の魔力量が大したことない、って思われるのは嫌だからね。
「ぁ」
リサ?
リサが何か言った気がしてそちらを向くと目を見開いたリサがいた。
え?なんかだめだった?
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氏名/アドヴェンス・ローレル(12)
身分/イグドラ王国民・ローレル公爵家次男
技能/イグドラ語、礼儀作法・剣術
下位四大属性魔法・罠術・予測
天職M/冒険者
天職S/貴族
天技M/冒険者
天技S/技能辞典
犯罪歴/無し
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あれ?天職M?S?天技もMとS?なにそれ?
あ、リサが何か言おうとしたのってこれ? どうしようか…。このまま見せても問題ない…?
えっ。
天職S/貴族に触ったら天職M/冒険者の文字が薄くなった。
え、なんでなんで。え、どっちかしか与えられないってこと!?それとも天職が二つ与えられたの?
冒険者のところに触れてみると今度は貴族の文字が薄くなっていき、その代わり非表示という文字が浮き出て来た。
え、なにこれ?
故障?
………とりあえず非表示ってことは見えないってこと?僕には見えるけど…リサと二人で試してみたいけど…視線をチラリと上げるとまだかまだか、と待っている両親が見えた。これ以上は引き伸ばせないよね…。
とりあえず賭けだ。これがどういう意味なのか、非表示って書いてあるが本当に見えないのか…よくわからないけど仕方ない。
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氏名/アドヴェンス・ローレル(12)
身分/イグドラ王国民・ローレル公爵家次男
技能/イグドラ語、礼儀作法・(剣術)・(下位四大属性魔法)・(罠術)・(予測)
非表示(天職M/冒険者)
天職S/貴族
非表示(天技M/冒険者)
天技S/技能辞典
犯罪歴/無し
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天職と天技を非表示状態にする。天職を非表示にしたら剣術などにも括弧が付いたのでこれも非表示扱いってことだと思うが…。
「ごめんなさい。お待たせしました」
「何か驚いているようだったがどうした?」
「そんな良くない天職だったの?」
「どうでしょう…。とりあえずこれを…」
「ふむ…」
「あら。天職は貴族なのね」
「えっ」
「リサ?何かありました?」
「失礼致しました」
「気にしてないわ。何か驚いていたようだけど…?」
「申し訳ありません。少々意外だったもので思わず声が出てしまいました。皆様大変失礼しました」
「そう?気にすることないわ」
「ああ。確かに意外だったからな。アドヴェントはしっかりしているし礼儀作法もちゃんとしているが…身体を動かす時の方が生き生きとしているし戦闘系の天職かと思ったが…」
「あら、いいじゃないですか。天職貴族なら貴族至上主義の方達に目の敵にされることもありませんし、どちらかと言えば目をかけて貰えます」
「それが良いことととは限らないだろう…」
やっぱり冒険者は見えていないのか。
「アドヴェンスも気にすることないわよ?別に天職が全てではないもの。
確かに色々と制限はあるかも知らないけどね。でも天職が貴族で剣術や魔法に関する技能が無いのに家庭教師にも勝っちゃうんだもの!凄いわ」
「それは確かに凄いことだな。大抵の天職貴族は武術系は本当護身術程度を収めるだけでからっきしだからな。戦闘技能を覚えられないから仕方ないのだが」
「先日天職を与えられ、貴族とのことですが、以前身に付けていた技能はどうなるのでしょうか?」
「ん?基本的に十二歳までに技能は取得できないぞ」
え?そうなの?