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どうしたのだろうか?
「ああ、寝てれば大丈夫だから仕事に戻っていいよ」
一番仲の良いメイドのリサ。リサになら仮病だとバレていてもおかしくはないし、バレていなくてもそんな大事ではないとわかるだろう。だから僕もベッドに腰掛け普通に退出を促すが…。
「………」
凄く見られている。十二歳の僕と同じくらい背が低いけども可愛いというより綺麗系。年齢は確か十七歳だったかな?十八だっけ?僕が小さい頃から一緒にいるので家族同然のメイドだ。ちなみに初恋だ。
「リサ?」
「天職なんだったのですか?隠す必要がある天職となると暗殺者などですか?」
……バレてる!
まあリサは僕が冒険者を目指しているのを知っているしいいか…。対策を一緒に考えてもらおう。
「とりあえず扉を閉めてくれる?」
「かしこまりました」
まだ大半の人間はリビングにいるだろうけど、ドアが空いたままじゃ迂闊に話せない。
「それで天職はなんだったのですか?」
「というか何でバレたの?」
「魔力の反応がありましたよ」
「いやいや。魔力絞って注ぎ込んだから漏れる魔力はなかったと思うんだけど」
「絞っていても魔力に敏感な者なら気付きます。他にも何人か気がついていたようですよ?
ただアドが魔力をどれくらい持っていて、魔力制御がどれくらい出来るのか。それを知っているのはおそらく私だけですので、他の者はアドが魔力を流そうとして失敗した、程度の認識でしょうが」
リサは専属で物心ついた時から付いてくれているメイドだ。そして唯一僕のことをアドと呼ぶ。敬語もなしでいいと言ったのだが「性分ですので」と断られた。
「あー…他の人にもバレてたか。失敗したと思われるのは少し癪だけど…父上達に今すぐバレるよりはマシかな」
「それで?」
「あ、はい。天職が冒険者で天技も冒険者。天職/冒険者なら本で見たことあるんだけど天技/冒険者は見たことも聞いたこともないんだよね。
それにこの結果は僕として最良だけどこれを見せたら父上と母上の反応が予想できないからさ。少し考える時間が欲しかったんだ。リサは何かわかる?」
「天職が冒険者の方は戦闘技能や探知技能、補助や罠に関する技能が覚えやすく、基礎身体能力が上がる物ですね。騎士が戦闘技能…攻撃のと防御に特化している天職で、冒険者は言うならばオールラウンダーですね。中々珍しい天職です。この広い侯爵領にいる冒険者で天職が冒険者なのは一人か二人程度でしょう。国で見ても十人程かと」
「だよね。それは本にも書いてあった。珍しいし、色々な技能が身に付きやすいけど、それぞれの分野の天職には劣る天職」
「はい。よく言えばオールラウンダー。ほとんどの技能を覚えられる可能性があるので期待値は高い。けどもやはり特定分野の天職には勝つのは難しい、悪く言えば器用貧乏な天職ですね」
器用貧乏…。確かにそうだけど…。
「まあそれはいいんだよ。嬉しいから。それに特定分野の天職に勝てないってわけじゃないんだ。器用貧乏になりがちってだけでね。それよりも天技/冒険者だよ」
「それは私も聞いたことありませんね。鑑定士に鑑定して貰えばわかると思いますけど」
「鑑定してもらうにしても明日以降だね。今やったらバレるし。いや、隠し通すのは無理だからどちらにせよ知られるんだけど今後の方針を考えなきゃ」
「おそらく。侯爵様と奥様はその天職と天技を見たら、またアドが冒険者を目指すのではないか?って心配するだけだと思いますよ?アドが冒険者になるつもりはないって明言してしまえば何も問題ないかと」
「そんなもん?」
そんな簡単なことかなぁ? 本当にそれで済むなら隠すことなかった…かな?
「ええ。それよりも、どの技能でも身につけられる可能性のある冒険者ということで喜ばれるかと。身分が冒険者だと貴族社会ではいい顔はされませんが、天職が冒険者なら物珍しさや色々な技能を持つことができるということで高評価になることは多いですよ。プライドの高く、考えの凝り固まった天職貴族の人間からは嫌われると思いますが」
「ああ…天職/貴族って結構いるけど、天職/貴族は取得出来る技能はあんまり多くないし、上達も遅いんだっけ」
「はい。天職が貴族の覚えられる技能は天技と他には礼儀作法と宮廷作法、貴族の嗜み、交渉と…後は数個ですね。貴族の嗜みは色々できるようにはなりますが…」
「全てが低い水準。出来ないことはないけど胸を張って出来るとは言えない程度、だよね」
「ええ。それに戦闘技能は覚える事ができない、正直ハズレの天職ですので、市井の者でこのスキルを与えられても残念な目で見られますね。貴族至上主義の者達がメイドや小間使いとして保護する可能性は高いですが」
「まあ貴族だから天職も貴族になることは結構あるし、技能がなくても天職が貴族な者が真の貴族だ。って言うやつもいるからね。というか天職/貴族についてはどうでもいいんだよ。父上と母上にこの結果を見せても大丈夫かどうかだよ」
「……来年学校に入るまで監視される可能性はありますね。買い物などで市井に出たらまたアドが冒険者になりたいって言い始めるかもしれない。という心配によって」
「だよねぇ。このまま家出して冒険者になるか、これまで通り幻覚魔法や光魔法の使い手を探して、見つかったら家名を魔法で登録するときだけ隠してもらってギルドに登録するか…」
「家出はやめてください」
険しい顔をして止められた。
「なら追放してもらう…とか?」
「やめてください」
今度はこいつ大丈夫か? って感じで険しい顔のまま訝しげに言われてしまった…。
「えー。何かない?」
「とりあえず天技で何ができるか試してはどうですか?天職/冒険者がオールラウンダーなら天技/冒険者も色々なことができる技能かもしれませんし。もしかしたら簡単に光魔法を使えるかもしれませんよ?」
「そっか…試してみるよ。でも光魔法の発動の仕方って…」
「今使える魔法は火と風、水、土の四属性ですよね?光は…火や風に近い感覚みたいですね。実態がないので。あとは普通の魔法と同じように魔力を属性変換して言霊を唱えれば発動しますよ。
というか天技/冒険者と言霊を唱えれば使い方とか知識が頭に流れ込んでくると思いますけど」
光の属性変換がわからないんだよ…。まあなんとなくイメージはできるけど。それに…。
「天職/冒険者が多くの技能を覚えられるっていう汎用性の高い物なら天技/冒険者もたくさんの知識が流れ込んできそうでちょっと…」
「怖いのですか?」
「端的にいえば」
「はあ…。まあ確かに今安易に使って倒れでもしたら侯爵様達にバレてしまいますしね。今はやめておいた方がいいですね」
「でしょ?」
「ええ。では天技の言霊を唱えないとなると…他の魔法と同じようにイメージができていて意味をなしていれば言霊はどんな物でも問題ありませんので、光魔法の練習をしたらいいかと」
「わかった。とりあえず色々試してみるよ。リサも仕事あるでしょ?もう大丈夫だよ」
「なら戻りますね」
「うん。あ、夕食は部屋に持ってきてくれる?父上達にもそう伝えておいて」
「わかりました」
それから魔法の練習をした。初めは光の魔力を使い『光の玉』と唱え、何度も繰り返す。
コンコン。
「アド」
名前呼ばれ顔をあげると部屋の中からドアを叩くリサがいた。
「気づかなかった」
「何度もノックしたのですが、集中すると相変わらずですね。夕食を持ってきました」
「ありがとう」