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「アドルフ・ホーソン・ローレルを父に持ち、ウェンディ・アリブ・ローレルを母にもつアドヴェンス・ローレルは神々に恥じぬ生を送り、イグドラ王国の繁栄に力を奮います」
宣誓の言葉を教会の神々の像に向かって紡ぐと胸元がほんのり光る。
「これによりアドヴェンス・ローレルは神々の祝福を受けました」
パチパチパチ。
後ろに居る父上と母上からの拍手の音が教会の神像が安置されている祈りの部屋に響く。
「おめでとうございます」
「「アドヴェンスおめでとう」」
「司祭様。父上、母上ありがとうございます」
司祭様と父上と母上から祝いの言葉を貰い、たった今まで床についていた膝を上げ立ち上がり両親を伴って祈りの部屋を退出する。
部屋の外には保護者同伴の今月に誕生日を迎える子供達が待機していた。
「それでは次…ストック村のアネット」
「はい」
次の子が呼ばれ、親と共に祈りの部屋に入って行く。それを横目に待機している子供達に混ざり待機し、それから十五人が呼ばれ神への宣誓の儀が終わる。
十二歳になると教会で神々に宣誓をし、天職とそれに伴うスキルを一つ授かる。これは公爵家だろうが王族も平民も一緒らしい。
そして授かる職やスキルは様々で料理人なら料理スキルや食材辞典スキルなど多岐にわたるようだ。食材辞典スキルはスキルを使うと食材について書かれた本が現れるらしい。
ちなみに授かった段階では何のスキルがあるかはわからない。宣誓の儀を受けに来た全員が終わった後に身分証となるカードが配られ、それに血液を吸わせると名前や技能、身分や天職、天技。また犯罪歴などが表示されるらしい。
らしいと言うのは父上と母上から話は聞いたが、僕が身分証を受け取ってないため、身分証が貰えたら見せ合いっこしよう、という話になったのでまだ一度もカードを見たことがないからだ。
そして何故かメイド達も見せてくれないのだ。
以前、何故十二歳まで身分証が貰えないのか、公爵家の息子なのに無理なのかと少しごねてみたが国と教会の規則らしく、この決まりは他国だろうが王族だろうが絶対らしい。
理由を聞いたら教会が管理している魔法師と国お抱えの錬金術師が共同で作るものでそれなりの数は作れるが、それでも無駄に出来るほど作ることはできないとのことだ。
そのため死亡率の高い十二歳までは配布しないこととなっているらしい。
それと幼少期に能力を与えても自制が効かなかったり、技能にもよるが魔力が安定してなかったり身体が出来ていないと技能の発動に耐えられない可能性がある、というのも理由らしく、そして教会と各国の取り決めで絶対らしい。
そうして考え事をしているといつの間にか始まっていた司祭様の有難いお話が終わり、身分証が配られ解散となった。これから帰宅して血液を垂らしたらやっと国民として正式に認められる。
「アドヴェンスはどんな天職と天技だろうな」
「楽しみね」
馬車に乗るとすぐに父上が話しかけてきた。
「父上、母上。天職ってどんなものがあるのですか?」
「色々あるわよ。私達のは後で見せ合いっこするとして…うちで働く料理人は料理人の天職だわ」
「ああ。メイド達は皆バラバラだな。メイドって天職持ちも居るが建築士や鍛治師もいる。うちで働いている者は皆小柄だからいくら天職でも鍛治師など力が必要な仕事は出来ないからうちで働いているものもいるがな」
へぇ。天職なのにその仕事ができないってどこが天職なのだろう。
「うちのメイド達みたいに天職に沿った仕事ができない者は結構いるが、やらせたらその分野に関しては普通よりもいい結果を残すんだぞ?」
顔に出ていたかな…?
「そうなのですか?」
「ああ。建築士の天職持ちはパーティーの時の設備を作るのが得意だし、確か鍛治師の天職と持ちは、うちの工房を休みの日に貸して欲しいと言っていたので貸してやったら見事なアクセサリーを作っていたぞ」
「ええ。私のアクセサリーもそのメイドが作ったものがあるのよ。私に普段の感謝と言ってくれたのだけど…私の方がお世話になっているのにね」
「それだけ慕ってくれているってことだろう。いいことじゃあないか」
アクセサリー作ったのは誰だろう?母上と特に仲がいいアンかな?それともミサだろうか?
「でも全く役に立たない天職もあるのですよね?」
「うーん…。それはそうそうないな。天職というからにはやはりその者に一番適正のある職業になるからな。力が弱い、背が低い、手足の何処かが欠損している、精神的にその職に対して元からトラウマがある、などの理由でその職につかないことは多いな。
基本的に後天的な理由や幼少期の食生活などの理由がほとんどだな」
「アンが鍛治師にならなかったのは槌を長時間振るえないから、って言ってたわ。
それでも…少なくともアクセサリーを作る職ならできたのにうちでメイドとして働いているのよ。理由を聞いたら汗臭い職場は嫌です。筋肉モリモリの男どもと同じ見た目とか嫌です。って言っていたわ。だから鍛えれば問題なく槌を振るえるようになったでしょうし、天職が鍛治師になったのはおかしな話でわないわ」
「まああれだな。どんな天職になったとしても別にその後の道が一つだけってことはないということだな」
やっぱりアクセサリーを作ったのはアンだったのか。
「なら僕が役に立たない天職でもなりたくない天職でも問題ないの?」
「問題はないな。所詮、なんて言っては天職を授けてくださる神に不敬だが、所詮最も伸び代がある相性がいい職が天職ってだけだ。まあ…貴族社会だと忌避されたり馬鹿にされることの多い天職はあるが…」
「積極的に他人に教えるようなものでもないし、変わった天職なら言わなければいいだけだわ」
「そうなんだ」
その後も天職について話していると馬車が止まった。
「お待たせ致しました。到着しましたのでこちらをどうぞ」
御者をしていた執事が二段のステップ台を馬車の扉が開いたとこに設置する。意外と馬車は高さがあるため父上や僕ならまだしも小柄な母上には少しばかり高いので階段が毎回用意される。
父上、母上、僕の順に降り公爵邸に入る。
「おかえりなさいませ」
そして出迎えてくれたのは筆頭執事のセバス。執事服をピシッと着こなした見た目七十歳くらいの好々爺だ。
御者をしてくれていた執事は序列二位のビクター。筆頭執事は主に当主である父上に仕える執事で留守を預かるのもセバスだ。
序列二位がビクター主に母上付きの執事で年齢はセバスと同じくらいだ。
序列三位はヘンリーと言って兄上と同い年の十九歳だ。ヘンリーは基本的に家のことはやらず兄上に付き添っている。
そして僕に付く予定の執事は序列四位になるのだけどまだ紹介されていない。祈りの儀が終わってからでないと専属の執事やメイドは付けてもらえないため、後日紹介させるはず。
ただ、正直付けてもらわなくていい…。監視されている気分になる…。
「セバス。専属医を呼んできてくれ。アドの身分証を作る」
「既に待機させております」
一滴二滴くらいでは駄目だから結構深い傷を作る必要があるらしく、回復魔法が得意で医療知識のある専属医が必要になるのだ。
うちには専属医が居るから帰宅して身分証を作るのだが、教会にいた子供達は大半が教会の別室で行い、教会所属の回復魔法の使い手に治療して貰うらしい。しかも無料らしい。
「アドヴェンス?怖くないかしら?」
「大丈夫です」
「ならいいけど…どうしても怖いようなら麻酔して貰うわよ?」
「母上。そんな心配されなくとも大丈夫ですよ」
「そう?」
「ウェンディ心配しすぎだ。アデンの時もそうだったろう」
「心配なものは心配なのよ」
アデン兄上か…。天職を聞いたことないな。というよりここ数年は会っても年に一度くらいだ。
「アデンの時も大丈夫だっただろう?ほら、早くアドの天職を見せてもらおう」
「そうね。アドヴェンス行きましょうか」
「はい」




