1 始まり
拙い作品ですが読んでくれると嬉しいです٩( 'ω' )و
「父上!母上!ぼく、ぼーけんしゃの中のぼーけんしゃになる!」
5歳の息子が唐突に私と妻に将来の夢を告げた。
「え?」
「どう言うことかしら?」
理解が出来なかった。いや、反芻したら何を言ったのかは分かったが困惑する。妻が聞き返した。
幼い息子がお遣いから帰宅するなり冒険者になる!ではなく冒険者の中の冒険者になると言って来たのだ。
勇者や英雄にでもなりたいのだろうか?だがそれなら勇者や英雄という単語を使うのではないだろうか?
「あのねあのね!今日父上のお遣いでぼーけんしゃ…ぎる…?ぎ…ぎる!にいったときにね!たくさんぼーけんしゃさんがいたの!かっこよかったんだよ!」
ギルドに行ったのか?確かにお遣いに行かせた店はギルドの近くだが…。
「格好良かったのか?この時間冒険者ギルドにいるやつは休暇中の酒呑とか新人だけじゃないか…?」
というかなぜギルドに行ったのだ?
それに街のギルドの普段の様子からそんな格好いい冒険者が居るか甚だ疑問である。
「それでね、どうやったら僕もぼーけんしゃのおじさん達みたいにかっこよくなれるか聞いてみたの!そしたらたくさん努力して、たくさんくろう?して、たくさんお酒飲んで、たくさん女の子?と遊んで、えーっとえーっと…。なんか色々すればいいって言われたの!あとね…」
なんだと…?ギルドの連中なんて事を吹き込んでくれたのだ。とりあえずここで話の腰を折ったら駄目だと、瞳をキラキラさせている息子を見て、ぐっと我慢し、続きを促す。
「「………あとは?」」
「おじさん達は自分達はただのぼーけんしゃなんだって言ってたの!」
私同様妻も思ったはずだ。冒険者ギルドにいるんだからそりゃあそうだろう、と。
「でもぼーけんしゃの中のぼーけんしゃって、もっとかっこよくって、竜も倒せて、お酒もたくさん飲めて、女の子をいーっぱいかこう?らしいの!だから、ぼくぼーけんしゃの中のぼーけんしゃになる!」
「「……………」」
息子が初めて夢を持って、それを口にした。本来ならば応援してやりたいと思う。
だが、うちは貴族の家系なのだ。それも上級貴族。騎士爵や準男爵や男爵…いや、子爵あたりまでなら次男、三男が冒険者になるって話も珍しくはない。だがうちは公爵家だ。
公爵家は王位継承権も持っており最高位貴族だ。その貴族の家系から冒険者になる者が出るのは、周りの目があまりよろしくない上、色々と悪い風聞が広まりやすい。というか確実に醜聞となるだろう。
息子も後ろ指を指されるかもしれないし、公爵家の者が冒険者など素行の悪い者達からカモにされるだけだろう。
もちろん真っ当な者はいるし、国からも一目置かれ、有事の際は国王から招集される者もいる。他にも英雄譚に語られる様な者も、冒険者から貴族になった者もいる。一概に冒険者だから駄目だとは言ってはいけないが…そんな者はごく一部である。
そういった上級冒険者以外はいくら清貧横行な者でもならず者と似たような扱いをされる事の方が多い。
しかもおそらく息子がかっこいいと言った冒険者は、酒を飲み、女を囲い、この真っ昼間にギルドで管を撒いている冒険者なのだ。柄も悪ければ、学もない。不衛生な上に女子供関係なく腹が立ったからと平然と殴る輩なのだ。それでも腕が立ったり街の防衛に一役買っているから一つの職業として機能している。もちろん犯罪を犯せば牢屋行きだが。
そう考え、色々な葛藤をした上で、何も具体的な事は言わないことにした。肯定し後押しもしなければ、否定もしない。肯定して本当にならず者の様な大人になられても困るし、否定をしてグレても困る。
妻は目を見開き固まっている。後で慰めてやらんと大変だな…。
普通ならばここは、「なれるといいな」くらいのことは言って然るべきかもしれない。もう少し成長し分別がつけば忘れてしまうような夢だろう。ただその言葉が出ることはなかった。以前それで失敗したのだ…。
目の前にいる五歳の息子の七つ上の兄も突然夢を語って、子供の戯言だと思い「頑張れよ」と言ったら今でもその道を突き進んでいる。公爵家嫡男がだ。だから次男のこの子には何も言わず、ただ一言だけ告げた。
「そうか」
「そうなのね」
そして私と正気に戻った妻は頭を撫でて誤魔化すことにした。お遣いに一緒に行かせたメイドを後で説教をすると誓いながら。