馬は高価です2
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「父ちゃ~ん。客(仮)を連れて来たぞ~」
ん? なんだか含みある言い方だ。
テオ少年の中での私の評価が恐いな。
黄色の屋根の家が見えると、テオが姿のないお父様を呼んだ。
家の裏手から、おじさんとクリーム色の馬が一緒に歩いて来る。
おじさんの髪色はモスグリーン。
テオと同じ。お母様の髪色も気になるところだ。
「おう、テオ。お帰り」
ニカッと笑った時の目元が、テオとよく似ている。
「お客……って言うのはお嬢さんかい?」
「はい。マイカと言います。22歳です」
先手必勝。年齢もセットで伝えた。
テオのお父様は目を見開いて、私の顔をじっと見つめてくる。
(か、隠れたい……)
思わず一歩下がってしまったのは仕方がないよね。
クリーム色の馬は私に興味無さそうで、チラリと此方に目線を寄越して、すぐ裏に戻って行った。
何となく馬に馬鹿にされた気がする…。
「ああ、すまんね。テオフィルの父親のマヌエルだ。
……お嬢さんは馬の値段は知っているかな」
「はい。テオに聞きました。2頭欲しいと思っています」
テオが額に手の平を当てて、唸った。
親子揃って、残念な子を見るような目で見ないで欲しい。
私だって高額な買い物よりも、スーパーの半額シールを狙って、美味しい物を買う方が楽しいんだから。
「……どんな馬を探しているんだい?」
「荷馬車を引ける、強くて、健康で……あと、優しい馬がいいですね」
「……予算は?」
「とくに決めてません。お任せします」
マヌエルさんは少し考えて、頷いた。
「テオ。黄の7番と、緑の3番。リカルダも連れて来てくれ」
テオがいなくなって、マヌエルさんと二人きりか…。この時間をどうやって埋めようか考えていると、マヌエルさんに家の裏手へ誘われた。
着いていくと、家の裏は厩舎になっている。
今の時間、馬たちは牧場にいるようで、厩舎は空っぽだった。
「さっきの馬はね、いい馬だが気位が高くて乗り手を選ぶんだ。
向こうにいる馬は食いしん坊で、よく運動させてやらないとすぐ肥える。
……馬は一頭一頭、個性がある。人と同じだ。
マイカさんは、優しい馬がいいと言ったね。君なら馬とも上手くやっていけるだろうね」
これは……この雰囲気は……娘を嫁に出す父親のアレか?
私は無事に許可を貰えたということなのかな……? 馬だけど。
「現実問題、馬には餌が必要だ。
牧場の奥は広い牧草畑になっているんだが、乾燥して販売している。
馬一頭につき、餌は1月1万ペリンの牧草がいるんだ。
マイカさんは二頭購入したいと言っていたね。毎月2万ペリンを馬の為に払えるかな」
餌代か……。
頭になかったよ……。
そういえば私は動物を飼育した経験がなかったな。聞いておいて良かった。
「餌はロスメルで買えますか?」
「もちろんだ」
「じゃあ問題ないです。
先払いで1年分、払っても大丈夫ですか? 1月に1度、取りに来るついでに、馬の健康状態を見て貰えると有り難いんですが」
馬の事は馬のプロに見て貰うのが一番だ。
マヌエルさんに健康診断をして貰えたら、今後も安心だね。
「テオが戻って来たな」
マヌエルさんが私の背後に目を向けたので、私もつられて振り向いた。
テオが黒い馬を引いて、その少し後ろに、初対面の女性が栗色の馬を引いて歩いて来た。
「お待たせ。黒い馬が黄の7番。リカルダさんの方が緑の3番だ」
リカルダさんと呼ばれた女性が、握手を求めて私の前に手を出して来た。
急に手を出されても少し躊躇うよ。初対面だしね。
「初めまして。私は緑の馬を管理してるリカルダよ。あなたがマイカさんね」
栗色の馬の馬主か。
リカルダさんの握手に応えると、ブンブン振った。豪快な人だ。
「よ、よろしくお願いします」
軽く挨拶を返すと、栗色の馬が私に顔を近付けて来た。
どうしていいか戸惑っていると、テオが撫でてやれと言う。
恐る恐る馬の顔に手を伸ばすと、馬は自分から手に顔を擦り付けて来た。人懐こいな。
馬初心者の私を気遣ってくれているようだ。いい馬だな。
「緑の3番との相性は良さそうだね。黄の7番も撫でてみなよ」
黄の7番は黒い毛色のせいか、少し威圧感がある。
私が手を伸ばしても微動だにしなかった。撫でてみてもじっとしている。
この馬は、私の少しの怯えを感じて、敢えて動かずにいてくれている。……そんな気がする。
イケメンだな。
「うん。良いみたいだ。マイカはどうだ?」
「どっちの馬も気に入ったわ」
「黄の7番は250万ペリン。緑の3番は180万ペリン。……餌を1年分先払いで24万ペリン。
全部で454万ペリンだな」
中々の金額になった。
巾着に手を入れて、1枚の大金貨を摘まんで取り出す。
巾着から出てきた大金貨を見て、テオが ウヘッ とおかしな声を出した。
本当にお金を払えると思っていなかったらしい。
全部で5枚、取り出した。
テオ少年の口がポカンと開いている。面白い顔だ。その口の中に、飴玉入れてやりたいな。
「……マ、マイカ。その袋にどれだけの金を入れてんだよ?」
巾着から次々と大金貨が出て来た事に、驚いていたらしい。
3人とも巾着をじっと見つめている。
「もうないよ。空っぽ」
巾着を広げて3人に中を見せた。
空っぽを3人にアピールしておかないと。「あいつ金持ってる」なんて噂になったら困るからね。
「大金貨なんて珍しい硬貨……久しぶりに見た。全部使って大丈夫なのかよ?」
「宿代は払ってるし、大丈夫」
マヌエルさんとリカルダさんに身分証を渡す。
2人は黒い箱に私の身分証を乗せて、何かやっていた。
門番が使っている箱と同じだろうか。
ピロリンと電子音が鳴って、箱からジャラジャラとお金が出てきた。
……レジスター?
「よし。登録完了したよ。
登録料に一頭500ペリンかかるが、その分はサービスしておくよ」
箱から出てきたお金と身分証を受け取って、全部ポケット……は、ちょっとポケットがパンパンになるな。
両方のポケットがパンパンだ。
雑貨屋に寄ってポシェットか何か購入しよう。
「……あの、さっきから気になってたんですけど、隅に置かれているアレって……荷台?」
厩舎の隅に置かれている大きな物体を指差すと、3人揃ってそちらを向く。
大きな車輪に箱を乗せただけの、シンプルな作りの荷台のようだ。
「あれは牧草を運ぶ荷馬車だよ」
それはいいな。馬のご飯を取りに来る時にちょうどいい。
屋根を着けたり、いろいろカスタマイズ出来そうだ。
「アレってどこで売ってますか? お釣りで買えますかね?」
「…………テオ、お嬢様が荷馬車をご所望だ。案内してやりなさい」
さすが馬の村だ。馬関係ならなんでもロスメルで揃うらしい。
お手入れ用の小物もテオに聞いて見ようか。ブラシとか必要だろうし。
「マイカ。馬の名前、考えてやれよ」
…………!!!
そうか。名前か!
7番や3番じゃ駄目だ。
よ~し、素敵な名前を考えようじゃないか。