そもそもの問題
王都見学をしてみて、分かったことがある。
王都やマルファンのような大きな街では、庶民も普通にお金を使っていることだ。
王都にいたっては、貧民街の住人さえ収入がある。
女神が言ったような、お金の流れがないなんて深刻な状態ではない。
「思ったよりお金は普通に使われてるじゃん。女神に騙された?」
ただ単に、埋蔵金を使わせたかっただけ?
いやいや、まだ騙されたと決まったわけじゃないか。
王都の貧民街だって、全員が全員、職を得ることは出来ないだろう。
働けない年齢の孤児だっているだろうし。その子達がどういう生活をしているか、知りたいな。
一見、他国に比べて恵まれている貧民街だけど、もっとディープな世界を覗き見たいと思う。
というのも、マルファンは教会が孤児の面倒をみているけど、それが元で教会の大元から睨まれているからだ。
教会は孤児を見棄てている。それなら孤児はどうやって生活しているの?
「結局、うわべだけしか見てなかったんだなぁ、私」
バート村は、ほぼ自給自足だった。
ロスメル村は、馬関係や、馬を求める人が利用する宿、土産物店ではお金を使ったけれど、一般の村人の生活は分からない。
ブルシェル村は全く分からないけど、バート村のお祭りの時に出店で普通にお金を使っていた。バート村ほど深刻ではないのかもしれない。まぁ、一度村に行ってみないと分からないな。
「う~~ん……バート村みたいに自給自足の村がたくさんあるなら、大きな街で私が無駄遣いしても、お金の流れは変わらないか……。マルファンに戻ったら、村巡りの計画をたてないと」
それにはこの世界の地図が必要だ。
前にアルバンに見せてもらった地図は簡単な物で、グランヴァルト王国のみの地図だったけど、世界地図が欲しい。というか、地図帳のような物がベストだ。もっと欲を言うなら、小さな村も残さず記載されているような地図。
そう思ってアルバン、ベルタ、カサンドラと本屋に来てみた。
「……ないね」
「お嬢様が求めるような細かい地図は、もはや国宝級です」
アルバンの言葉に私はガックリと肩を落とした。
王都の大きな本屋ならあると思ったんだけどな。
変わりに、『食べられる野草図鑑』『今さら聞けないマナー教本』『効果的な護身術』『我が剣の道』『麗しの未亡人』『男爵令嬢の吐息』『伯爵様の籠の小鳥』などなど、たくさんの本を買い込んだ。
マルファンの教会に置いたら喜ばれそうだ。
ちなみに本のチョイスはベルタとカサンドラにお任せしました。
「アルバンはどんな本を読むの?」
「いたって普通ですよ」
手元を覗いてみると、『部下育成論』『孤独な管理職の癒し』『やる気を引き出す10の方法』『実績と理論』…………。
「ああ……うん」
アルバンはみんなのまとめ役だ。イシカワ邸の使用人達が上手くいっているのは、アルバンの苦労があるからかもしれない。
(アルバンの苦労を減らす為にも、業務を分担出来る人物を何人か育てないとね)
レオナルドはなかなか筋がいいようだけど、幼い。
メリンの意思を聞いてから、人事異動も考えよう。幼いパワーも集まれば出来ることが増えるはずだ。まぁ、逆にアルバンの負担になるようなら企画中止になるかな。
(う~~ん、誰か仕事の出来る人を見繕えれば、一番いいんだけど。王都の奴隷商館に行ってみようか)
アルバンの若干薄くなった頭を見つめながら、切実な問題かなと思った。
「あら? お嬢様。これを見て下さい」
ベルタが呼んだ方を見ると、店内の壁に貼られた紙の広告を見ている。
いくつか貼られた広告を見ると、劇場の案内や演奏会のお知らせなど様々だ。
「これです」
ベルタが促した先の広告を見る。
「オークション」
度々話に出ていた王都のオークションか。
月に一度開催される、王都のオークション。
会場は博物館の一角にある建物だ。そこは画家や芸術家が自分個展を開く場所として提供されている建物で、前に博物館に観光に行った時には、服飾デザイナーがファッション展を開催していた。
「地図が出展されるかは分かりませんが、面白い物も出展されるかもしれませんね」
「そうだね……。移動扉も出展される可能性もあるしね……。行ってみる?」
アルバンもベルタもカサンドラも、満場一致でオークションに参加することに決まった。
オークション開催日は、二日後の夕方だ。
「それじゃあ次は、服を買いに行こうか」
「服、ですか? 十分な数の服を持って来ましたよ?」
「王都でおしゃれな服屋を見つけたんだよね。せっかくだから行ってみようよ」
アルバンは購入した本を持って、宿に戻ることになったから、これからは大人女子のショッピングタイム。
質のいいブラウスとカーディガンを数点購入したベルタに対し、カサンドラは長めのジャケットとパンツスタイルをチョイス。
すごくカサンドラに似合うけど、背丈もあってスタイルもいいカサンドラのスカート姿を見てみたい!
「カサンドラ、これなんかどうかな?」
スカートを見向きもしないカサンドラに、私とベルタの二人で、カサンドラにワンピースを選んだけど……カサンドラはなんだかゲッソリした顔をしていた。
深い紺色の肌触りのいい生地。スカートはたっぷりとしたAライン。胸元とスカートの裾に、生地と同じ紺色の光沢のある糸で刺繍が施され、一見シンプルで地味なワンピースが、光の角度で刺繍が浮き出る仕様になっている。
可愛すぎないデザインが、格好いいイメージのカサンドラに似合うと思ったんだけど。
「スカートでは護衛が出来ません」
カサンドラの表情は冴えない。
スカートスタイルに何かトラウマでもあるのかな。
それなら無理強いは出来ないけど、一着くらいタンスの肥やしがあってもいい。
「一着くらいワンピースがあってもいいじゃない。絶対に似合うよ。ね? ベルタ」
「はい。必要になることもあるでしょうし」
ベルタの後押しもあって、渋々カサンドラはオススメのワンピースを購入した。
断固拒否じゃなくて良かった。




