私のショッピングタイム
腕相撲大会の結果が発表された。
優勝はブルシェル村の男性。ゴリゴリのマッチョで、オレンジに近い髪色が印象的だ。
準優勝はロスメル村のゴリマッチョ。
三位はバート村からイザークさん。
四位はブルシェル村の細マッチョ。
優勝決定戦の盛り上がりは凄かったとマリンから聞いた。
優勝が決まった時、ブルシェル村から来た人の喜び様は、遠くからぼんやり見ていた私にも熱気が伝わってきたもの。
ブルシェルには湖があるから、魚介類の出荷や保存に氷は切実な問題なのかもしれない。
大反響で腕相撲大会が終わった後は予想通り、お菓子ブースにマッチョの大群が押し寄せてきた。メリンが満面の笑みでマッチョ達を接客してくれて、お菓子もほぼ売り切れになった。
私は若干、落ちついた広場を歩きながら、出店を物色することにする。
まずは木工品のブース。
木をくり貫いたマグカップが並んでいて、可愛い。フィンランドで見たククサみたいだ。地球では白樺のコブをくり貫いて作るけど、異世界では何の木だろう。飴色で艶のあるククサだ。
手間隙かかるマグカップなだけに、一つ3000ペリン。街ならまだしも、村ではなかなか値がはる。
同じように、木の器もあった。
この時間でも在庫がたくさん並んでいるということは、あまり売れていないのだろう。
私はすごく欲しいのに。
「すいませ~~ん! カップを30個、器を50個、スプーンを60個下さい」
「お、お嬢さん、そんなに買って大丈夫かい?」
私の大量買いに、木工品のブースの村人が完全に引いている。
本当なら全部買い占めたいくらいなんだよ。でも私が買い占めたら、他のお客が困るかもしれないから、少しづつ残しておいた。
「太っ腹なお嬢さんにいいことを教えてあげようか。この木の人形は、厄を避け、幸運を呼ぶと言われているんだ」
「ふ~~ん」
小さな不細工な木の人形にも、幸運にも興味はない。でもお土産にはちょうどいいサイズだ。
「じゃあ10個ちょうだい」
マグカップ一つ3000ペリン。
器一つ2000ペリン。
スプーン一つ800ペリン。
人形一つ100ペリン。
「全部で23万9000ペリンだ……」
「はい」
フィーネさん作のトロピカル巾着からお金を払った。
さすがに全部持って帰るのは重くて、辺りを見回すと、知っているモスグリーンが目につく。
ちょうどよかった。
「テオ~~っ! ちょっと助けて~~!」
呼ぶとテオが手を振りながらやって来た。テオと一緒にいた男性が二人一緒で、ペコリと挨拶をする。
「おーー、マイカ! なんだよ」
「荷物いっぱいあって重くてさ、ちょっと手伝ってくれない? お礼もするわ。テオのお友達も一緒に」
「ヴィムさんがいるのか? ちょうどよかった。俺らロスメルから来たやつは暗くなる前に帰るんだ。ヴィムさんに挨拶したかったんだ」
ロスメル村は馬で半日の距離。馬慣れしているロスメルの村人でも、村に着く頃には日付けが変わっているはずだ。徹夜で帰るなんて可哀想だよね。
宿屋がないバート村だから、他の村から来た人は帰らないとダメなんだね。不便だな。
荷物を持ってブースに戻ると、ヴィムの姿を見たテオが子犬のように駆け寄る。
その間に三人にお礼の品を適当に詰め合わせた。
残っていた一口ドーナツとナッツのブラウニー。テオの家には生まれたばかりの妹がいるし、他の二人も小さい妹がいるらしいから、ぬいぐるみでいいかな。
ガラクタブースには何が残っているか見てみると、どこかの民族的なお面と、キラキラした装飾の小物入れ、何か分からない動物の置物……見事に使い用途のないガラクタばかりが残っていた。
こっそり妙な置物もお礼の詰め合わせに入れてみる。
後は……売れ残ったら来年のお祭り用にしよう。
「なぁマイカ、来年も腕相撲大会やるんだろ?」
「たぶんね」
「また腕相撲大会の景品は製氷機かな。次は絶対にロスメル村が中型製氷機を手にするぞ!」
「そんなに製氷機がいいの?」
「あったり前だろ。貴重だしな。大型なんて王都のオークションにしかないだろうし。まぁ、移動扉ほどじゃないけどな」
「移動扉!?」
「あんな貴重なもんはオークションでもめったにないって話だ。あっても貴族の金持ちがすっげぇ値段で買うんだろ」
テオに聞いても、これ以上の移動扉の情報はないようだ。庶民にとっては、それだけ伝説級のアイテムらしい。
この世界に来て初めて聞いたぞ。
移動扉。
これは絶対に埋蔵金の原因、先輩転移者が作ったアレだな。
一対の扉から扉に移動出来る、移動扉。
某猫型ロボットの扉のようにどこでも行けるものではないけど、マルファンの家とバート村の家に移動扉を置けば、散歩感覚で行き来出来る。
移動扉を命の限り作り続け、命を落とした先代の転移者。その人が荒稼ぎしたせいで、今私はこの世界にいるわけだけど、そんなに便利な物はぜひ欲しい。
王都のオークション……絶対行こう。
テオの相手はヴィムに任せて、私はショッピング再開。
適当に端から見て、順調に買い物をしていく。マルファンの屋敷に残ったみんなのお土産も必要だからね。
「あれ? ババ様……とレオナルド?」
意外な組み合わせに、ババ様の薬屋ブースで足が止まった。
レオナルドはババ様の隣で、薬を小分けにする手伝いをしている。
「あ、お嬢様」
私に気付くとレオナルドは、はにかんだ笑顔を浮かべた。気まずそうに、ゆっくりと目を反らす。
あ、授業参観に来た父兄ってこういう感じなのかな。
そういえば朝に子供組と別れてから、家の子を見かけたのは初めてだ。
「おやおや、あんたかい。元気そうで何よりだ」
「ババ様も元気そうで。家のレオナルドがお世話になっていたみたいですね」
「毛色の違う子供がいると思ったら、あんたのとこの子かい。薬に興味があるようで、手伝いたいって言ってきてね」
ババ様の表情は柔らかくて、少し嬉しそうだ。
「迷惑かけてませんか?」
「迷惑なんて、むしろ助かってるよ」
「それならよかった。
じゃあ買い物しますよ。頭痛薬と腰痛の薬を5つ。傷薬を10個。ハンドクリームを20個。ん? 何これ、声を変える薬? 面白そうだから20個」
「おいおい、ちょっと待ちな。声を変える薬なんて何に使うんだい? この薬はなかなか高価だぞ。一粒10分の効果で1000ペリンだ」
一粒10分か。
確かに効果10分じゃあ使い道が難しいね。だけど遊ぶにはいいんじゃないかな。ヘリウムガスみたいな物でしょ。
「あ、やっぱり後10個追加で」
「……わかったよ。レオナルド、薬を詰めておくれ」
「はい」
レオナルドがテキパキと薬を詰めてくれた。
声を変える薬は赤い艶々したキャンディのような薬だ。コレが口の中にある間、声がいつもと変わるらしい。
「ありがとう。あ、そうだ、レオナルド?」
「はい……んっ!?」
私はレオナルドの開いた口に、赤いキャンディ薬を放り込む。
「オ、オジョウサマ~~!」
おお! レオナルドの声が扇風機の前で「ア~~!」ってやった時みたいになった!!
「レオナルド! 『我々は宇宙人だ』って言って見て!」
「ワレワレハ ウチュウジンダ!?」
「おお! いいね! じゃあババ様のお手伝い頑張って!」
「オジョウサマァァ~~!?」
宇宙人の……いや、レオナルドの声が広場に響いた。
他の子供組を探すと、さっきまで腕相撲大会をやっていた場所で、数人の男の子達がミニ腕相撲大会を開催していた。
「行け! ルッツ!!」
「負けるな! ニウロ!!」
ルッツが村の男の子と対戦中だった。相手はルッツより身長は低いけど体格はいい。
「「「おお~~っ!!」」」
決着がついた。勝者はニウロ。
「やったな、ニウロ!」
「ルッツも惜しかったよ!」
村の子供達は二人の背中をバンバン叩いて、健闘を称えあっている。
負けたルッツもニコニコ楽しそうだ。
私が見ていたことに気付いたルッツは、顔を赤くして頭を掻いた。
参観日再びだ。
「おめでとう。ニウロだっけ? ルッツもいい勝負だったね」
集まっている男の子達は、ルッツも入れて5人。
「よし、みんな。口を開けて」
私の言葉に素直に反応したのはルッツと一番小さい男の子だけだった。
「え~っ!? 何でだよ」
「変な物、食わすんじゃないか?」
ま、普通はそうだよね。
素直に口を開けた二人の口に、赤いキャンディ薬を入れた。
「「ん!?」」
モゴモゴしてキャンディだと分かると、今度は二人とも首をかしげる。
「オジョウサマ、コレ、ナニ……エッ!?」
「コエガ……」
二人の変化に、他の三人が目を丸くする。
「すっげぇ!!」
「面白いな!!」
「俺も欲しい!!」
そうでしょう、そうでしょう。
でも、簡単にはあげません。
「じゃあね、ルッツ。楽しんで」
ルッツに手を振ってその場を後にしようとすると、三人の男の子達が私を呼び止めた。
みんなモジモジしていて、言いたいことは分かるけど、ちゃんと自分の口から言ってほしい。
「「「俺達にも下さい!!」」」
「よし、合格! 口を開けて!」
三人とも今度こそ口をあける。キャンディ薬を放り込むと、みんな嬉しそうな顔になった。
「「「アリガトウゴザイマシタ!!」」」
うんうん。ルッツをよろしくね!
背後からギャアギャア笑い合う声を聞きながら、その場を離れた。
さすがにそろそろお腹が空いたな。おやつの時間だしね。こんな時はフィーネさんのうどんブースだ。
「あれ?」
うどんを踏んでいるのは、メリンとマリッカ。それから村の女の子。
この子、見覚えあるな。マカロンを買ったソーセージ名人の家の子だ。
三人でキャっキャ言いながら、楽しそうにうどんを踏んでいる。
メリンとマリッカは友達も出来て楽しそうだけね。
「メリン、マリッカ!」
声をかけると、メリンとマリッカが私のところに駆け寄って来る。
「あ! お嬢様ぁ!」
「二人ともお友達出来たんだ?」
「「はい! サリちゃんです!」」
サリと呼ばれた女の子は、恥ずかしそうにペコリとお辞儀をした。
サリは濃茶色の髪を、ピンクのリボンのついたヘアゴムで結っている。このゴムは家の雑貨ブースで売っていたものだ。よく似合っている。
「よし、三人とも口を開けて!」
三人とも頭にハテナマークをつけながらも、素直に口をあける。素直で雛鳥みたいだ。
私は三人の口に赤いキャンディ薬をポイポイいれた。
「「「んんん!!?」」」
三人とも首をかしげる。
あれ? もしかして、このキャンディ薬、美味しくない?
「コレ、ナニアジ……エッ……」
「コエガ……」
「ナニコレ!? オモシロ~~イ!!」
三人ともキャッキャ言いながら喜んでいる。
「マイカさん! いらっしゃいませ!」
私に気づいたフィーネさんが、ニコニコ近づいてきた。
うどんブースは腕相撲大会を終えたマッチョ達で大にぎわいだ。
「フィーネさんのところも大反響だね。私にもうどん一つくださいな。後、村長の唐揚げもお願いします」
「はぁ~~い!」
フィーネさんがうどんを作ろうとした時だった。
「逃げろーーっ!!」
「イノシシが出たぞーー!!!」
村人の叫び声に緊張が走る。
なぜ村にイノシシが、とか、なぜよりにもよって今日なんだとか、思うことはいろいろあるけど、今はイノシシを何とかしなくては。
闘牛みたいにヒョイっと避けたり出来るかな。
ドドドッと森の方からイノシシの走る音が聞こえた。
来る?
「きゃーーっ!!」
「逃げろーーっ!!」
土煙をあげて、村に侵入したイノシシが姿を現した。
イノシシだ、と認識した一瞬後、イノシシは真っ直ぐ走って来た。
その先にはフィーネさんがいる。
「フィーネさん、危ないっ!!」




