お金を使おう計画
お祭りの内容は私も知らない。
参考までに、あれこれ地球のイベント内容を手紙に書いたけど、後は完全に村におまかせ。
だって私も楽しみたいし。スポンサーだから物資も費用も援助したけど、当日までドキドキしたいものね。
ここ最近のバート村は、アンヤとブランの活躍で現金収入が増えたらしい。だけどバート村には、商店が一つもないのでお金を使う機会がない。
私が小学生の頃なんて、おこづかいで塾帰りに、某パティスリーのフルーツたっぷりケーキをよく食べたっけ。子供でもお金を使う経験があれば、今後のバート村に役立つと思う。
ってことで、明日は子供でも買える出店を出します。
村長の家で唐揚げと、野菜たっぷりスープをご馳走になって、別荘に戻った。
設置したばかりのリビングのソファーにドカリと座ると、マリンとメリンがお茶を入れてくれる。二人とも疲れているでしょうに、しっかり仕事をしてくれて有難いね。
「みんなも自由に休んでね」
主人である私が率先して休む姿勢を見せないと、みんな休めないだろうからね。決して私がダラケているわけじゃないよ。
「お風呂、先に私が入るね。ここのお風呂に入ったら、みんな驚くよ」
湯船に頭全部スッポリ潜ってザバァの方法を教えると、マリッカがすごい表情になっていた。
青いと言うか、絶望的です、みたいな顔。
「なになに、マリッカ。どうかした?」
「い、いえ……なななんでも」
「なくないよね」
なるべく柔らかく言ったつもりだけど、マリッカはビクリと震える。
おっと、私苛めてるみたいじゃん。
みんな気を使って、それぞれ和気あいあい話始める。
うん、わざとらしいぞ。その気遣いは嬉しいけど。
「マリッカ、おいで」
おずおずと近づいて来る様子は、子リスみたいで可愛い。
頭を撫でようとすると、マリッカは身体を固くして目をギュッと瞑った。
マリッカは頭を撫でようとすると、いつも同じ仕草をする。
もしかしたら、過去に何かあったのかもしれない。
マリッカの頭を撫でてしばらくすると、身体から力が抜けた。
「ねぇ、マリッカ。どうかしたの?」
「あ……あの………私……」
大丈夫。私は待てる女だ。待つよ。イラつかないよ。大丈夫だよ。
無駄に怖がらせたくなくて、心の中で呪文のように唱えながら、マリッカの言葉を待った。
「…………潜れなくて」
消えいりそうな声。
ガックリと肩を落としたのは私だけじゃないはず……。
静まり返った部屋の中…………。
「ぷっははははは!」
盛大に吹き出したのはヴェロニカだ。
それにつられてみんな一斉に笑いだす。
「大丈夫、大丈夫! マイカは強制してないよ。ムリならしなくても良いんだ。誰も怒らないよ。ね、マイカ」
「もちろんだよ!」
お風呂に入りたくないとか言われたら、清潔第一だぞ! って言うと思うけど。
年の近いメリンがマリッカの手をギュッと握る。マリッカが一瞬身体を固くしたけど、振り払うことはなかった。
「マリッカちゃん。一緒にお風呂に入ろう! ……実は私も潜れないんだ」
メリンは笑いながらペロッと舌を出す。
マリッカの顔が赤くなる。安堵と嬉しい気持ちかな?
今まで仕事場が違う事もあって、勉強くらいしか接点がなかったマリッカとメリン。ここに来て急接近だ。きっとお祭りが二人をもっと仲良くさせる予感。
「ほら、マイカ。早くお風呂に入って来てよ。マイカが絶賛する温泉に、全員期待度高まってるんから」
「ふぁ~~い。行ってきまぁす」
ヴェロニカがニコニコしながら、メリンとマリッカをチラリと見る。
ヴィムとロルフとヨハンとマリンも暖かい目で二人を見守っていた。
癒されるよねぇ。
「レオナルド、ルッツ、メリン、マリッカ。ちょっとおいで」
翌朝。
ルッツとマリッカとヨハンが協力して作ってくれた、サンドイッチとコーンと玉子のスープを食べた後、私は子供組を呼び寄せた。
今日はお祭りだ。
お祭りを楽しむ為には軍資金が必要だ。
毎月お給料は払っているけど、それとこれとは別。お小遣いも含めてのお祭りだものね。
「今日は出店も出るから、好きな物を買いなさい」
子供達に大銅貨10枚づつ渡す。1000ペリンだ。
子供達はマルファンの街ではあまり買い物をしない。給料の大半を貯めておいてるのを知っている。
目的があって貯めるというよりは、今まで欲しい物を買うという経験がなかったからだと思う。何を買ったらいいか分からないのだ。
そこで、この1000ペリン。子供の1日のお小遣いにしては多すぎるくらいの金額。
「今日の君たちのミッションは、お祭りの出店を回って、1000ペリンをなるべく使いきることです。お金を使う事は、村の為にもなるからね。でも適当に使ったらダメだよ。ちゃんと欲しい物を考えて使ってね」
「「「はい」」」
うん。戸惑ってる返事だな。
でも、お客が来なければ出店は遣り甲斐ないし、出店がなければ祭りは寂しいもんね。
大人達にも後で1万ペリン。使いやすいように銀貨8枚と大銅貨20枚を渡すつもり。みんなで村にお金を落としてもらいましょう。
みんなで外に出ると、バート村は朝からザワザワと騒がしい。のどかな村には珍しい光景だ。
村の広場を村人達が飾りつけの準備をしている。
飾るのは、紐に三角に切った布をいくつもつけた、運動会でお馴染みのアレ。
カラフルな三角旗は作るのが簡単そうだし……と思って、私が提案の一つで手紙に絵を描いてみたうちの一つだ。よく見ると、三角ではない形もところどころにあって、私の知る三角旗とはまた違った感じになっている。
「お~~、やってるなぁ」
ロルフが楽しげな声を出す。こういう雰囲気が好きなのかもしれない。
そういう私もワクワクしちゃうよ。
「マイカさん、手伝って来てもいいかな?」
ロルフが目をキラキラさせる。
これは村のマダム達がヤバいな。
マルファンでのロルフは商店街のマダム達に大人気で、いまやファンクラブが出来そうな勢いだ。会員候補は果物屋のおばさん、鮮魚店のおばさん、花屋のおばさん……。
「うん。私達の出店はそんなに準備ないから、行って来て」
「ありがとうございます」
軽快に走って行くロルフは楽しそうだ。
飾り付け担当のおばさんが、ロルフの手伝いをキャっキャ言いながら喜んでいる。
あ~~あ、この様子じゃあバート村のファンクラブも出来そうだな。
グルリと見渡して、村の子供達の姿が見えないのは、森へ行っているからだと思う。
村長にお願いして、森の木の実10個につき10ペリンで買い取ってもらう事にした。
お小遣いを自分で稼ぎ、祭りで使う。バート村で貨幣が流通するきっかけになればいいな。
昨日までに集まった木の実は、昨夜私達みんなで下処理した。今は別荘のキッチンでヨハンとマリンが、木の実を加工中だ。
チョコレート生地の上にナッツ類をぎっしり敷き詰めて焼き上げると、ナッツのブラウニーの完成。これも出店で売る。
私達も出店の準備をしないとね。
広場にテーブルを設置すると、屋敷でヨハンが鬼のように焼いてくれた焼き菓子をどんどん並べていく。残念ながら割れたクッキーやつぶれた焼き菓子は、試食用に。
お菓子は子供でも買えるように、一つ10ペリン均一だ。ヨハンに様々な種類を作ってもらったのは、選ぶ楽しさを知って欲しいから。
次のテーブルには、手芸屋さんで買ったヘアゴムやぬいぐるみ。女子受け良さそうな小物を並べる。
次のテーブルには、衣料品のブース。古着はもちろん、靴や帽子、新品の下着や靴下も揃えた。
次のテーブルは、ごちゃごちゃといろいろな物を並べる。謎の置物、用途不明の穴の空いた壺、謎の楽器のような物……謎だらけの物を並べたガラクタブース。
値段は買い付けの半額以下にした。お祭り価格ってこともあるけど、バート村の人達がお金使うっていう目的が第一だからね。赤字でいいんです。
「準備完了だよ! みんなも順番に村を散策しておいで。他の出店を見てきてもいいしね」
「本当? フィーネさんの様子を見てこよう!」
ヴェロニカはフィーネさんのブースが気になるようだ。確かにここから見えるフィーネさんは、踊っているような、妙な動きをしている。気になる。
「私も行きたいです!」
メリンが元気に手をあげる。
「マリッカちゃんも一緒に行こうよ!」
「え、あ……うん」
マリッカは頬を赤くして頷いた。
「よし! メリン、マリッカ、二人とも一緒に行こう!」
パチリと私にウインクしたヴェロニカは、初々しい二人を連れて行った。
「ルッツとレオナルドはどうする?」
「僕は店番で大丈夫です」
レオナルド君。う~~ん、真面目はいいけどね、今回ばかりはそうもいかない。
「お金を使うノルマがあるってこと、忘れてないよね」
「あ……。そうでした……。行って来ます」
「ルッツも行っておいで。二人共じっくり見て来てね」
レオナルドとルッツが行ったら、後はヴィムだ。
「俺は護衛だから、マイカの側にいたい」
「真面目か!」
ここにも真面目君がいたよ。
どうしたものかと思っていると、村人がザワザワと少し騒がしくなった。入り口から馬が何頭も入って来る。
行商ではないことは何となく分かる。
みんな一様に体格がいいけれど、騎士や傭兵のような戦士とも違うようだ。
その中から一人、小柄な人物が馬から降りて、広場に走ってきた。
ヴィムが私の前に立つ。
「マイカ!」




