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なかなか厳しい道のりです

 バート村は本当に小規模な村だった。

 中央が広場のようになっていて、その周囲に転々と家がある。


 家というか、これは……。


「ログハウスだ! 可愛い!」


 木材が豊富にあるからだろうか。丸太で組んだ家が、15棟ほど建っていた。

 大体が同じような大きさの家だったけれど、一棟だけ3倍程大きな家がある。きっと村長の家だろうな。


 ログハウスの村。なかなか可愛らしい村だ。


 広場に行くと、村人らしいおばさんが2人、私に気づいて近づいて来た。

 緊張するけれど、第一印象は大事!

 にっこりと笑顔を作る。


「こんにちは、お嬢ちゃん」


「一人でどうしたんだい? お父さんかお母さんは? 迷子かい?」


 この2人も私の容姿は子供に見えるらしい。

 早々に訂正しなくては。子供の一人旅なんて思われたら、不審がられる。


「はじめまして。マイカと言います。

マルファンに向かう途中に立ち寄りました。

ちなみに22歳です。連れはいません。一人旅です」


「22……そ、そうかい。可愛らしいから十代かと思ったよ」


「この村は小さな村だからね。宿もなければ、店もないんだ。

 旅人が立ち寄るには向かない村だけどねぇ……」


 何しに来たんだって言われているのだろうか。

 こんな時こそ笑顔だ!


「門でイザークさんから聞きました。

 今から村長さんを訪ねたいんですが、あちらの大きな家ですよね?

 では、行って来ますね」


 この場を離れたい。

 笑顔を張り付けたまま軽く頭を下げて、逃げるようにその場を離れた。

 気がつくと、他の村人も私の様子を伺っている。

 もう話しかけられたくないので、小走りで村長の家を目指した。





 村長の家のドアを叩いてみる。

 「はーい」と女性の声が聞こえて、ドアが開くと女性が出て来た。

 私と同じくらいの年齢か、少し若いか。

 村長の奥さんと言うには若すぎるから、娘さんだろうか。村長にまだ会っていないから、村長の年齢は知らないけれど。


 女性は私を見ると少し驚いた顔をして「どちら様ですか?」と固い声を出した。


 旅人が訪れない小さな村に、急に余所者が訪ねてきたら、驚いて警戒されるのも分かる。

 まずは警戒心をとかなくては。


「こんにちは。私、マイカって言います。

 一人でマルファンに向かう途中なんですけど、もう夕方近いので、この村に立ち寄りました。

 イザークさんに村長を訪ねるように言われて来たんですけど、村長は在宅ですか?」


「まあ。それは大変! 私は村長の娘のフィーネです。どうぞ中に入って下さい!」


 笑顔が効いたのか何なのか、すぐに警戒心を解いたようだ。


「お父さぁん! お客さんだよ」


 フィーネさんが呼び掛けると、中から初老の男性が出てきた。


「いらっしゃい。バート村の村長のハンスです」


「こんにちは。マイカと言います」


 先ほどフィーネさんに挨拶した内容と同じ事を、村長にも言うと、快く中に入れてくれた。

 この2人、警戒心解けるの早いな。

 村が平和な証拠だろうか。


「あ、ここから靴を脱いでくださいね」


 フィーネさんに言われて、靴を脱いで板の間に上がった。

 わざわざ靴を脱いでと言うことは、靴を履いたままが一般的なのだろうか。

 私の表情を見たフィーネさんは、この家は村の集会所にもなっていること、大勢が中に入って座れるように、この家に限り、靴を脱ぐ決まりが出来たと教えてくれた。

 日本人の感覚としては、その方が自然だ。


 村長の家はシンプルな作りだった。

 広い板の間の奥の方に若草色のラグが引いてあり、テーブルを挟んでソファが2つ置かれていた。

 案内されるままソファに座ると、前のソファに村長が座った。


「マイカさんは、一人でマルファンまで行くと言っていたね。

 ご両親はどうしたのかな」


「こう見えて成人しているので、一人旅で問題ないです。訳あって、家を飛び出して来たので、知人をたよってマルファンに向かっています。

 女が一人で…と言うのは少し不安もありましたが、よく知らない人を旅のお供にしたくなくて」


「……成人しているのかい?」


「はい。22歳ですよ」


「「ええっ!」」


 歳を言ったとたん、村長親子の声が揃った。

 やはり子供だと思われていたのか。フィーネさんに至っては「年上……」と呟いた。

 フィーネさん、年下だったか。


「イザークさんから、村長さんのお宅なら泊めて貰えるかもしれないって聞きました。もしよかったら、今夜泊めて頂けませんか?

 もちろん、宿泊費はお支払いします!」


「泊まるのは構わないよ。宿泊費も必要ない。


 10日に一度、街から行商が来るが、その時はこの家が宿代わりになるんだよ。

 ちょうど明日行商が来るから、街に行く前に必要な物を揃えて行ったらどうかな?

 この村からマルファンまでの間に、村や町は一つもないからね」


バート村からマルファンまで徒歩3日なら、早朝には村を出たい。

 けれど、この先に立ち寄る村がないなら、いろいろ購入したい物がある。

 そうすると……明日も泊まって、明後日の早朝に出発がベストかな。

 明日も村長宅に泊めて貰えるだろうか。


 図々しいと思われるかなと、少し心配したけれど、明日の宿泊は行商人も一緒でも良ければ、と了承してくれた。


「あ! じゃあ、マイカさんは私の部屋で一緒に寝ましょうよ!ソファもありますし。

 行商のおじさん達と一緒に、板の間に雑魚寝よりいいと思います。ね?」


 フィーネさんが、女同士でお喋りしたいですし! と言って、ペロリと舌を出した。


「とても助かります! ぜひ宿泊費払わせて下さい!」


 早速お金を使うチャンスだ!


「宿泊費は本当に要らないよ。行商人からも貰ってないしね。

 この村じゃ、貨幣なんてほとんど使われないんだよ。行商とも物々交換が主だ。銀貨さえ見たこともない村人もいるくらいだ」


 何ですって、村長。

 貨幣がほとんど使われないだって? 銀貨ですら見たことない?

 銀貨と言うことは、1000ペリン。


(分かる! 分かるよ! 1000円は大金だよね!

 行き付けの古着屋のセールコーナーで、全身コーディネート出来ちゃうよ!

 閉店間近のスーパーで、割り引き弁当3つと半額の豚肉800グラムは買えるよ!)


 バート村に貨幣の流通は、かなりの重傷。時間がかかりそうだ。

 村長に宿泊費を拒否されて、埋蔵金は1ペリンも使えなかった。


(……私の所持金は今のところ大金貨2枚。200万ペリンだね)


 巾着の謎は、まだ確かめてない。けれど、埋蔵金の大半が大金貨なら……。

 大金貨を崩して、金貨や銀貨を手に入れないかぎり、バート村でお金は使えない。いや、バート村ほど重傷なら、銅貨や大銅貨からかな。


(大金貨を持って今日の夕飯買いに……なんて出来ないし、庶民の生活に大金貨は使い勝手悪いな。

 明日の行商で大金貨を使えるか聞いてみよ)


 今日のところは、フィーネさんに村を案内してもらおう。


 家の裏にある畑に野菜を取りに行くと言うので、私も手伝うことにした。

 収穫した野菜と、畑に放し飼いになっている鶏から、卵を取りに行く。

 鶏の卵は朝取れると思っていたけれど、異世界の鶏は夜行性で、夕方産むらしい。異世界の鶏……不思議な生態だ。


 野菜と卵を持って2件隣の家に行った。そこで持って来た野菜と卵を半分と、川魚3匹を交換した。

 またその隣の家では、残りの野菜と卵を、パンと交換した。


 これがお金を必要としない生活なのか。充分成り立っている気がする。




 明日の行商の様子を見て、対策を考えよう。





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