お土産という言い訳の爆買い
33話と34話を飛ばしてしまっていたことに気づいて直しました。すみません。え~ん。
「うわ、これすごいよ!」
「綺麗です!!」
小さな雑貨店に入ると、ヴェロニカとルーナがキャッキャとはしゃぎ出した。
気持ちは分かる。
店の窓辺に、キラキラした物がたくさんぶら下がっていた。
紐の先端に透明なガラス玉がついていてる。ガラス玉にはたくさんのカットが施されていて、その上に小さなガラス玉が数個飾り付けられている。
ガラス玉に日の光が当たると、虹色の光が壁一面に乱舞して、とても美しい。
「ああ、サンキャッチャーだね。綺麗でいいね」
私が言うと、ヴェロニカは驚いた顔をした。
ヴェロニカもルーナも知らないらしい。どうやらこの世界ではあまり馴染みがないようだ。
「日の光を楽しむ装飾品だよ」
シンプルに透明な物からら、カラフルなビーズが付いた物まで種類もいろいろあって、見ているだけで楽しいな。
「お嬢さん、よく知ってるね」
店主のお爺さんがニコニコと話かけてきた。
昔、お嬢様時代にサンタクロースに会うために、フィンランドに行ったんだ。フィンランドのお土産屋さんで一目惚れして、買ったことがあるんだよね。
子供部屋の窓に飾って、壁に虹色の光が舞うと、まだ小さかった弟がはしゃいで喜んだっけ。懐かしいな。
「北のフロスト国の装飾品だよ。
この店は輸入雑貨を中心に扱ってるが、これは値段も高いから売れなくてね……。仕入れてから全く売れないんだ」
「そんなに高価なの? もしかしてこの玉は、ガラスじゃなくてクリスタルとか?」
「クリスタルもあるが、これはガラスだな。ガラスでもなかなか高価だよ。
何しろこのガラス玉をカットするのに技術がいるらしくてね、おかげで値もはる……平民にはちょっと手が出づらいんだ」
「おいくら?」
「一つ1万ペリンだ」
確かに、庶民がキレイだから買っちゃおう! と気楽に言える金額ではないな。
でもこんなに綺麗なんだから、ちょっと特別なプレゼントにする人がいたっていいのに。知名度の問題か。ルーナとヴェロニカも知らなかったしね。
「この店に在庫はいくつあるの?」
「ガラス玉が10個。クリスタルが1個だ」
「全部買います」
「全部? クリスタルは150万ペリンだぞ!?」
「買います」
店主のお爺さんはペチッと自分の額を叩く。
なかなかベタな表現をするな。
「マ、マイカ……全部って、買いすぎじゃない?」
ヴェロニカが心配して私の腕を引く。ルーナも金額を聞いてオロオロしている。
「大丈夫だって!」
結局、サンキャッチャーは在庫すべて購入した。
輸入雑貨店というだけあって、様々なジャンルの商品が置いてある。
お洒落なペンが並んでいるのが目についた。さすが輸入品はペンも高級感があるな。
アルバンに買っちゃおうかな。
「お嬢さん、お目が高いな。これは特殊な……」
「おお! いいね……」
店主の説明に、2本購入を決めた。
今日はたくさん買うって決めたからね。まだまだ買うよ。
輸入雑貨店の隣の店は、手芸用品店だ。
手芸用品はカービング商会でも人気だったな。その分、大手の商店に客足を取られて、小さな店はだいぶ寂れている。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ」
カウンターで縫い物をしていたおばさんが、顔をあげた。
店内は布、リボン、ビーズ、糸などの、手芸店お馴染みの商品が並んでいる。
それより目に着いたのは、たくさんのハンドメイド作品。ハンカチやバッグ、クッションなども並んでいる。
「すみません。これってここで作ってるんですか?」
「そうですよ。すべて私の手作りです」
おばさんがカウンター越しにニコニコ対応してくれる。
フリルがたくさん付いたポーチ。カラフルなボタンがたくさん飾られたエコバッグ風バッグ。上品なリボンが控えめに飾られた、手袋。
すごい。店主のおばさんのセンスがいいのか、どれもお洒落で可愛い。
ルーナとヴェロニカの目がキラキラしている。
やっぱり女子はこういうの好きだよね。
「ルーナとヴェロニカも欲しいのがあったら言ってね」
最初は遠慮していた二人だったけど、屋敷のみんなにもお土産を買うことを伝えると、嬉しそうに選び始めた。
飾りリボンが付いたヘアゴムを30個。キラキラした銀や金の糸で刺繍されたハンカチ10枚。フリルたっぷりのポーチ5個。派手な色合いの刺繍とビーズで飾られたポーチ5個。手のひらサイズの動物のぬいぐるみ20個。
ハッと気が付くと、ハンドメイド品を買い占める勢いで購入していた。
此処から此処まで全部いただくわ! なんて言う金持ちの常套句のようなことをしちゃったよ……。
店主のおばさんを見ると、最初と変わらずにニコニコしているけど……内心どう思っているかなんて分からないしな。
「ルーナとヴェロニカは何か欲しい物、あった?」
「あの、私はこれがいいです!」
ルーナが選んだ物は、カラフルなオウムがドドンと刺繍された派手なポーチだ。意外と大胆なデザインが好きらしい。
「ヴェロニカは?」
「これ!」
ヴェロニカが持っていたのは、黒い熊のぬいぐるみだった。それも両手で抱き抱える、のがやっとなくらい大きいサイズの。
「え……」
店主のおばさんも目を丸くしている。
「あ、あの……それはどれだけ大きく作れるか興味本位で作っただけで……」
「売り物じゃないんですか!?」
ヴェロニカが悲しそうな顔でガックリと肩を落とす。そうとう気に入ったらしい。
よし、ここは私が一肌脱ごう。
店主の耳元に顔を寄せる。
「5万ペリンでどうですか?」
店主は目を丸くした。
あれ? 小さなぬいぐるみが1500ペリンだったから、それを基準に考えたんだけど、ダメだったかな。
「じゃあ6万ペリン」
「え、あ……」
「8万ペリン」
「い、いいです! 持って行って下さい!!」
おばさんは引きつった笑顔を浮かべているけど、少し強引だったかな。金に物を言わせる形になっちゃったか。
「本当に売ってくれます? 無理に言わせた、みたいになってないですか?」
「い、いいえ! むしろありがたいです。
ご覧の通り、寂れた店なので、商品もなかなか売れず……。暇な時間にいろいろ手作りしてみましたが、客足がないと結局売れませんから」
店主のおばさんは寂しそうにため息をついた。
分かるよ。打っても響かないって、モチベーションが保てないから。
でも、それなら私がおばさんのハンドメイド品を買い占めても問題ないってことだよね。
いいこと聞いた。また買いに来よう。
「ヴェロニカ! その熊、売ってくれるって!」
「本当に!? やったね!」
ヴェロニカがビッグサイズの熊に、頬をスリスリして喜んでいる。
格好いい大人のお姉さんなイメージがあったのに、可愛らしいところもあるんだな。
「そんなに気に入ったの?」
「もちろん! 黒大熊のぬいぐるみなんて、なかなかないよ!」
「黒大熊……」
確か、バート村で買った熊の肝が黒大熊だったはず……。
「昔から黒大熊を飼いたいって思ってたんだ。このぬいぐるみ、大きさも色も、黒大熊の赤ちゃんにそっくりだよね」
頬ずりしながら嬉しそうなヴェロニカに、一応屋敷では熊は飼えないことを伝える。少し残念そうに、分かってると言ったけど……そのうち熊皮の敷物でもプレゼントしようと決めた。頭も付いたやつ。
店を出ると、外で待っていた荷物持ち担当のエドガーが、大熊に驚いてビクリと震えた。
彼は女の買い物に口を挟まず、空気に徹するという、素晴らしい仕事をやりとげた。
これはご褒美を渡さないと。
「エドガー、荷物が大量になっちゃった。先に荷物を持って帰ってくれる?」
乗り合い馬車に私たち全員と大量の荷物を積んだら、他のお客が乗れなくなるからね。
馬車の料金を少し多めに持たせて、お釣りは今日のお駄賃に。
「あ、それからこれ、プレゼント」
輸入雑貨店で買ったペンを一本エドガーに渡す。
エドガーは頭にハテナマークをたくさん付けて、首をかしげる。
まぁ、確かにペンなんて護衛にプレゼントしたら、センスを疑われるか。
でもこれは特別。
「ここをこうやって……」
ペンを軽くいじって見せると、先端からシャキンと刃物が飛び出した。
ワンタッチでナイフになる、スパイグッズのような面白ペンだ。
「っ!!!」
案の定、エドガーの目がキラキラしている。
「ありがとう!」
ふふふっ。好きだと思ったよ。武器マニアさん。
エドガーは大熊のぬいぐるみを背負いながら、上機嫌で乗り合い馬車に乗って行った。
もう一本のナイフペンはパウルにあげよう。アルバンには普通のペンにしようか。
女子だけになった私たちは、このあと三店舗ほど買い荒らして、屋敷に戻った。
屋敷のリビングに買った物を並べ立て、使用人全員に欲しい物を選んでもらった。
アルバンは、万年筆とモチモチ感触クッション。
レオナルドは、万年筆とサンキャッチャー。
ベルタは、ウサギのぬいぐるみとハンカチ。
リリアは、サンキャッチャーとビーズとフリルのポシェット。
ヴィムは、万年筆と皮のウエストポーチ。
エドガーは、金属製の謎の置物。
フーゴは、サバイバルナイフと謎のお面。
ルッツは、サバイバルナイフとネコのぬいぐるみ。
パウルは、モチモチクッションと謎の打楽器。
残りは教会とバート村へのお土産にする。
サンキャッチャーを教会と金平糖に一つずつプレゼントしたら評判になったらしい。教会は寄付が増え、金平糖はお客がそこそこ入るようになった。
最近では幸運のサンキャッチャーと呼ばれるようになった。
クリスタルのサンキャッチャーは屋敷のリビングに飾った。……これ以上、運はいらないんだけど。




