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先行き不安です

 眩しい光りが消えて、私は目を開けた。

ここは……。


「森、だよね」


 本当に異世界なのか疑ってしまうほど、地球と同じような木々。足元には、同じような草。


「植物系は異世界でも変わらないんだ」


 視界にすぐ街道らしき道が見えるので、森の入口だろうか。

 森に沿うように道が続いている。

 道があるという事は、どこか人のいる場所に繋がっているということだ。


「まず、状況を確認しよう。

 私の姿は……。変わらず同じだよね」


 鏡はないけれど、肩までの髪は黒色だし、顔を触った 感触は、鼻の高さも輪郭も慣れ親しんだものだった。

 服装はシンプルなカーキ色のワンピース。


 持ちものは……。


 ワンピースの右ポケットに、小さめの巾着袋が入っていた。巾着の中を覗いてみると、空っぽ。飴でも入ってたら嬉しかったのに。


 反対のポケットには、クレジットカードサイズの金属製カードが入っている。

 カードには「マイカ・イシカワ」と書かれていた。これは身分証だろうか。


「おお!異世界の文字なのに、読める!」


 この世界の文字が書けなくても、読めるなら心強い。

 取り敢えずなくさないように、カードは巾着の中に入れておいた。


「ところで肝心のお金はどこかなぁ」


 他に持ちものは何もなかった。

 使うように言われているお金だって、硬貨の1枚もない。


「取り敢えず、ずっとここにいる訳にもいかないし、道なりに進んでみようかな」


 道は緩い上り坂だった。


 どのくらい歩けば人里に着くのか…とか、森から野性動物が出てきたら……とか、不安になってもよさそうなのに、不思議とネガティブな気持ちにはならなかった。

 地球では、お世辞にもポジティブとは言えない性格だったのに、変だな。

 神様が何かしたのだろうか。

 それとも、アドレナリンの問題だろうか。


「今って何時なんだろう」


 太陽の位置からして昼過ぎくらいか。異世界の太陽の位置を、信用していいか分からないけれど。


「自然がいっぱいで気持ちいいな。ハイキング気分になってきた!」


 まだ第一異世界人に出会っていない事もお気楽な要因だ。

 誰かに会ったらどうしようかな。言葉は通じるのかな。アドレナリン効果、それまで続いていたらいいな。


 10分程度歩くと、上りから下りに変わる。


「あ、何か見える!」


 真っ直ぐ下り坂の先に、柵に囲まれた集落が見えた。

 この世界の集落の規模は分からないけれど、ここは町と言うより村だな。

 森に寄り添うような形の村だ。


 ひとまず目的地は決まった。





 村を目指してどんどん歩くと、20分程で入口に着いた。


 柵の前に大きな門があって、ここを通らないと村の中に入れないらしい。

 門の前には、大柄なおじさんが立っている。

 門番だろうか。


(……どうしよう。第一異世界人だ)


 顔は少し厳ついけれど、地球の人間と変わらないように見える。

 背中に大剣を背負ってなければだけどね。


「……こ、こんにちは」


 挨拶は大事だよね。

 緊張で小声になってしまったけれど、何とか笑顔を作れたと思う。

 第一印象は良い方が特だよね。いろいろと。

 頑張れ、アドレナリン。


「おう。お嬢ちゃん。一人でどうした? 旅人って格好じゃねぇな……。

 バート村に用があるのか? この村は店も宿も何もないぞ?

 何が目的だ? 」


 …………やばい。


 このおじさん、一見笑顔だけど目が怖い!

 絶対に悪い方向に疑われていると思う。


「ええと、街まで行こうと思っています」


「街……って言うと、マルファンか。歩きだと3日はかかるな」


 なるほど。

 一番近い街はマルファンと言うらしい。


 徒歩3日はきついな。

 天候さえよければ野宿でも頑張れる。

 ……本音を言えば、出来れば食料や毛布の1枚でも欲しいところだね。

 おじさんにも言われたけれど、こんな軽装で旅人で通すのは無理があるだろう。

 家出少女で押し通すしかないか。


「ええと、訳あって、故郷を着のみ着のまま飛び出してしまいまして……。

 マルファンにいる知人を頼るつもりなんです。

 この村に用はないんですけど、このまま進んでもすぐ暗くなりますよね。女一人旅だし、集落があったら寄るようにしてるんです。

 でも、そうですかぁ。宿もお店もないのかぁ。

 まぁ、野宿するにも、村の敷地にいた方が安全ですし、出来れば入れて欲しいんですけど……」


「…………身分証はあるか?」


「はい! あります、あります!」


 ポケットに入れた巾着から、中のカードを取りだそうと手を入れた瞬間。


 カチャリ。


 手の中にカードとは違う固い「何か」を感じて、息を飲んだ。


(何だ、これ)


 巾着の中にはカードしか入れてないはずだ。

 恐る恐る手の中にあるものを見ると、金色の硬貨が2枚。

 どういう事だろう。巾着の中が空っぽだったことは、最初にきちんと確認したはずだ。


「どうした、お嬢ちゃん。身分証はないのか?」


 おじさんの目が鋭くなる。


「ありますって!」


 巾着の中を恐る恐る覗くと、やっぱりカードか1枚入っているだけだった。

 最初に確認した時に、この金の硬貨を偶々見逃していたのだろうか。

 いや、それにしてもあの指に感じた感触は2枚どころじゃ…………。

 金の硬貨は左ポケットに入れておいた。


「身分証ですね! ほら、これでしょう?」


 おじさんがカードを受け取って、何やら黒い箱の上に置いた。

 ピッと電子音が鳴って、私の顔と黒い箱をじろじろ見て「よし」と呟いた。

 顔認識か何かだろうか。


「確認できたぞ。マイカ・イシカワだな。

 んんん? 22歳だって? どう見たって15くらいにしか……いや、身分証は間違いないしな……」


 ムムッ、失礼なことを言われているな。

 確かに貧乏生活で発育はよろしくないけれど。それとも日本人は若く見られるという、あれだろうか。


「22歳で合ってますよ。私、大人ですから」


「ああ……そ、そうか。疑うような真似してすまなかった。これも仕事なんだ。許してくれ。

 さぁ、通っていいぞ。

 ただし、本当に何もない村だぞ。もし泊まりたいなら、村長にイザークの紹介だと伝えてみろ」


「はい。ありがとうございます。お邪魔しますね」


 身分証を確認できたからか、それとも子供に間違えた罪悪感からか、おじさんの表情がかなり和らいだ気がする。

 悪人じゃないと信じて貰えたのかな。


 よし。いよいよ異世界初集落だ。


(いや、ちょっと待てよ。……店がないって言ってたよね。


 …………お金使えないじゃん!!)




 先行き、不安しかありません。



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