第二回家族会議
買い物をして、夕方には家に帰って来ることが出来た。
みんなポカンとした顔をして、蔓植物の庭を通ったけど、ベルタさんとアルバンさんとパウルさんは反応が違った。
ベルタさんとアルバンさんは、荒れた庭と大きな屋敷を見ても表情が変わらなかった。内心、どう思っているか知らないけど、表情に出さないのは執事もメイドも必要なスキルだと思う。
パウルさんは蔓植物を見て「こりゃ駆除しがいがあるなぁ」と面白そうに呟いていた。万能選手のパウルさんは、もしかして庭の手入れも出来るのだろうか。
「じゃあ後は、リリアお願い」
後は緊急家族会議で打ち合わせした通り。
部屋の案内と各自の部屋決め、家族会議の記録を見てもらうところまでをリリア達に任せて、私は一人で自分の部屋に行く。
ベッドに寝っ転がってため息をついた。
「はふぅ……疲れたぁ」
人を纏めるなんて、つくづく私には無理だ。
人を増やして楽しようとしたのに、その前にこんな大変な状態になるなんて……。楽して生きようなんて簡単に出来るものじゃないよね。
「出来るなら引きこもりたい……」
よし、一段落したらしばらく引きこもろう。引きこもりを目標にしばらく頑張ろう。
思いの外、疲労していたようで、私はそのまま寝てしまった。
ドアをノックする音で飛び起きた。
「マイカさん。準備が出来ました」
レオナルドの声がする。
寝ているうちに、全部終わったらしい。よしよし。これから、面倒な奴隷の性質を改善しなくちゃ。
みんなが集まっているのはダイニングだ。ここのテーブルが一番広くて、みんなで集まるにはリビングより最適だ。
ダイニングに行くと数人の視線を感じただけで、安心した。正直、10人全員の視線を浴びるんじゃないかとドキドキしていたんだ。
みんな椅子に座っているのもホッとした。ヴィム達がしっかり説明してくれたらしい。ここでのマナーは知らないけど、急に全員立ち上がられたら怖いし、居心地が悪い。
よし、ではスタートだ。
「第二回家族会議を始めます」
しぃーーんと静まりかえる。だよねぇ。和やかになんていかないよねぇ。
「ごめん。早速中断。
リリアとベルタさんとルーナは人数分お茶入れてくれる?」
「かしこまりました」
ベルタさんが立ち上がって言った。
おお! 仰せのままにじゃなくなった!
他の二人も立ち上がって、ペコリとお辞儀をしてキッチンへ向かった。
「みんな、前回の会議の内容は見た?」
「はい。拝見いたしました」
最初に答えたのはアルバンさんだ。
「この国の……というか、世間一般的な常識と私の常識が違う事も多いと思います。
なるべく悪目立ちしないで暮らして行きたいので、あまりに可笑しいところはバンバン教えてください。
……あ、でも知識としては知りたいけど、基本、家の中では自由でお願いします」
食べ方が違うとか、歩き方が違うとか言われても、外ではともかく、家の中ではストレス極まりないからね。
「それから、前回の会議でも言ったように、私は人形はいりません。意見されて怒るつもりもありません。ひどい誹謗中傷なら話は別ですが……。
だから、何か思うことがあれば、遠慮しないで言ってください」
黙りじゃあ困るから言ったけど、最年少ルッツ少年の顔が強ばった。まぁ、その歳で年上に意見するなんて、奴隷じゃなくても難しいか……。
「う~~ん……私が言った事に嫌だって言っても罰はないよ~~ってこと。ルッツ少年、頑張れ」
名指しすると、真っ赤になって上擦った返事をした。緊張ガチガチで可愛いな。
頭をワシワシ撫で回したい気持ちをグッとおさえる。だってセクハラだって言われたくないからね……もう少し信頼関係を作れたら、絶対やろう。
キッチンに向かった三人が、お茶を入れて戻って来た。
よし、会議再開しようか。
「とりあえず今日の書記官はヴィムにお願いします」
箇条書きの名手、ヴィムにお願いしておけば間違いない。他の適任者がいるかどうかは、今後ローテーションを組んでやってみよう。
「まずは皆さん個人の、この家での役割をお話します。自分の役割を踏まえた上で、この後の会議に参加してください」
この会議を乗りきればきっと、のほほ~~んと暮らしていけるはず。今後のために頑張らなくちゃ。
「では、まず……。
アルバンさん。執事……というか、この家だと雑用みたいになってしまうかも。
ヴィム、エドガー、ヴェロニカさん。護衛。
ベルタさん、ルーナ、リリア。メイド……ベルタさん中心でリリアに家事全般を教えてやって下さい。
フーゴ。調理場を全て任せます。
パウルさん。……家の庭を何とか素敵な感じにしてほしいです。
ルッツとレオナルドは……職業体験として、ルッツはフーゴの手伝いを。レオナルドはアルバンさんに付いて学んでね」
ルッツは農家の息子だから、何となく手先が器用そう。レオナルドは人生の大先輩にいろいろ学べばいいかな……という軽い気持ちのチョイスだったけど、もし合わなければ別の役割に切り替えればいいよね。少年達の可能性は無限大だし。
「まずは主人と奴隷としてのルールから」
1、私のプライベートは外に漏らさない。
2、自分の仕事を責任持ってする事。
3、最低三年は奴隷として働いてもらう。その際、奴隷でも給料はしっかり払う。
一月に3万ペリン。リリアとレオナルドとルッツは見習いだから1万ペリン。
4、三年経ったら、希望者は奴隷解放する。退職金も出す。
5、ご主人様の呼び禁止。
「ここまで意見のある人は挙手」
一斉に手が挙がった。
人形はいらない発言が効いたかな。
「アルバンさん、どうぞ」
「奴隷という立場での給料と奴隷解放について、詳しくお聞きしたいと思います」
みんな同じことを思ったようで、視線が痛い。
「仕事さえちゃんとやってくれれば、私生活は自由にしてくれて構いません。
欲しい物を買ってもいい、今後のために貯めてもいい。自分で考えてお金を使って貰いたいので、給料は絶対に受け取って下さい。
奴隷解放を希望する方は、今後一切、私とこの家に関わらない事を約束してもらいます。それさえ守ってくれれば、自由に生きて下さい。生活を整えるだけの退職金も用意します。
三年後、改めてどうするか聞くので、考えておいて下さい」
話すぎて喉が渇くな。最初にお茶を配って良かった。
お茶を一口飲んでホッと一息……え、美味しい。何これ、今までのお茶と一緒?
「お茶が抜群に美味しい!」
感動で思わず大きな声を出してしまった……。
ベルタさんとルーナはニッコリ微笑んで、リリア目をキラキラさせて二人を見ている。
「ベルタさんとルーナさんはすごいんです! 入れ方の違いで、いつものお茶がこんなに美味しくなるなんて驚きですよね!」
リリアさん。興奮するのは分かるけど、そのいつものお茶をいれているのは私だよ……。プロに張り合う気はないけどさ。餅は餅屋って言うし。
「リリア」
私の微妙な顔色を感じとったのか、すかさずベルタさんがリリアを嗜めた。さすが、出来るメイドだ。あわててリリアは私に謝る。
「あはは、いいよ。本当に美味しいよ? やっぱりプロにお願いするのは正解だね。おかわり貰えるかな。みんなのお茶もなくなってたら追加して」
ルッツが慌ててお茶を飲み干したのを見て、笑ってしまった。だって可愛いんだもん。
「お茶受けにお菓子があれば良かったね。
フーゴ、次の会議の時はお願い出来るかな」
突然話しをふられたフーゴは、飲んでいたお茶を少し吹き出して、噎せながら「もちろんです」と涙目で言う。
隣に座るヴェロニカさんに背中をバシバシ叩かれて……あれじゃ痛いだろうな。面白いけど。
「マイカ様」
少し和やかムードになったところで、アルバンさんが穏やかに話した。
「ご主人様という呼び方に抵抗があるようですが、どのように呼んだらよろしいですか」
前の会議録に書いていることを聞くということは、役割によって相応しくないということかな。
「呼び方は好きにして構いません。ただ、私は貴族でもなんでもないので、悪しからず」
「了解いたしました。では……私は執事という立場から、お嬢様と及びします」
お、お嬢様……。こんなに大きな屋敷を持ち家にしているんだから、確かにお嬢様か……。そう呼ばれるの、久しぶりだなぁ。
「あ、護衛はマイカって呼び捨てにしてね。無理なら外だけでも」
いちいち連れ歩く護衛に、外で「お嬢様」なんて呼ばれたら……『私は金持ちです』って言いふらしながら歩くような物だからね。強盗のいいカモだ。
後は各々が考えてちょうだいな。
「お嬢様はこの家の主ですから、私達の事は呼び捨てにして下さい」
「貴族じゃなくても?」
「もちろんです。お嬢様がこの家の主ですので」
「私の出身国では普通、年上を呼び捨てにしたりしないんだけど……頑張るよ」
使用人に敬称をつけたら目立っちゃうって事なら……。
アルバンさんとパウルさんのこと、呼び捨てに出来る日本人の20代っているかな。
すごく抵抗あるけど、慣れるように頑張るよ。




