人選の難しさ
鍋に湯を沸かして、適当に切った野菜を投入。大きめに切ったベーコンをゴロゴロ入れて、塩胡椒とハーブで味を整える。最後に卵を落としてスープ完成。
パンはチーズを乗せて軽く炙る。
テーブルに並べて朝食の出来上がりだ。
朝食は私が作るから、いつもスープとパンだ。
ダイニングで四人で食べるのも、今日で十回目だ。パンを自分の好きなだけ取るスタイルにしているのは、奴隷の自主性を養う特訓でもある。
だいぶ慣れてきたようで、リリアとレオナルドは二つ、ヴィムは八個食べた。
昼と夜は外食かテイクアウトにしているけど……。
「もう限界だ!」
食後のお茶を飲みながら、限界を感じていた。
「あの……マイカさん。どうしたんですか?」
レオナルドが控えめに聞いて来る。だいぶ会話も出来るようになって来たな。
「朝食のレパートリーが限界なの!」
朝から何品も人数分作る気力がなくて、毎日スープだけど、さすがに味を変えても限界がある。元々、料理上手でもなんでもないのだ。せいぜい、塩系、コンソメ系、トマト系、クリーム系くらいしか出来ない。
「マイカの作る朝食はいつも美味しい。何の不満もないな……」
「そうですよ。ご主人のマイカさんにご飯を作って貰えるなんて。私達、奴隷なのに」
ヴィムもリリアもそう言ってくれるけど、正直明日のスープを考えると苦痛だ。だけど奴隷だった三人に暖かい物を食べさせたい気持ちだけは満々で……。
「料理人を探そう。庭師、家事のプロ、それから護衛を数人」
庭の蔓植物も何とかしたいし、家事のプロにリリアを鍛えて欲しい。お金があると、強盗とかいろいろ怖いから護衛も欲しい。ヴィムだけじゃ足りない。
この際、良さそうな人はどんどん採用しようか。
「今日は奴隷商館に行きます」
住み込みならやはり、裏切らない保証付きの奴隷だ。
三人はお馴染みの奴隷商館なんて行きたくないかな。
私が奴隷商館に行っている間、お使いでも頼もうか。
「契約中は時間がかかるから、三人は別行動になるよ。
公衆浴場に貸し切りの申し込みして、新しい人達の服と下着を購入してきてもらうからね」
緊急家族会議を開き、軽く打ち合わせをして、出発した。
「う~~ん」
奴隷商館で奴隷達のリストを見せてもらう。
これがなかなか分かりづらい。ヴィム達の資料はシンプルすぎて困ったけど、小説じゃあるまいし、みっちり文字で書かれてもね……。
これを書いた人に、家の書記官ヴィムの絶妙な箇条書きを見せてやりたい。
本当はヴィム達に意見を聞きたいけど、三人にとって奴隷商館は居心地が悪いようで、私の後ろで空気のように存在感を消している。
ぼんやり見ていた文字の羅列の中で、「元料理人」の文字を数人見つけた。
「元メイド」も何人か発見。家事全般のスキルが気になるところだ。
「元騎士」「元傭兵」など、護衛系はなかなか揃っている。
「元執事」もいいな。人数が増えると、まとめる人が必要だからね。
他に気になるのは、年齢が9歳の子供と年齢65歳の男性だ。この奴隷商館の最年少と最年長だ。気になるから、みんな面接してみよう。
借金奴隷になった理由がギャンブルなら即却下。それ以外を何人か選んで、職業別に面接することにした。
まずは料理人。
候補は三人だ。
面接というか、顔を見てすぐに決めた。
一人は目が合った瞬間にウインクしてくる男。二人目はすごい目で睨み付ける女。三人目は気弱そうな男。
……この三択なら三人目に決定だ。
資料を見ると、自分の店が上手くいかずに借金奴隷になったようだ。素行も悪くなさそうだし、良いと思う。
これを繰り返すのも面倒だな。この部屋は学校教室くらい広いし……。
「メイド候補五人と、護衛候補五人、その他をまとめて連れて来て下さい」
「はい。お待ち下さい」
奴隷商館の主人は気持ち悪いくらいニコニコしている。
呪い持ちだった三人を解呪したのだから、私のことを金持ち認定したのだろう。
ぞろぞろと室内にやって来た奴隷達を前に、私は顔をしかめた。これだけの人数が揃うと、臭いが……。やっぱり奴隷は気軽に風呂に入ったり出来ないだろうから仕方ないけど、臭いはキツイな。
やっぱりお風呂は大切だ。家のお風呂も、早く使えるようにしよう。毎日公衆浴場通いも面倒だしね。
メイド候補は五人。10代から40代の女性だ。
護衛候補は五人。全員20代から30代。
執事候補一人は50代。
最年少9歳、最年長65歳。
どうやって選ぼうかな。
資料を見たところで、人となりは分からないからね。
一人ずつ顔を見て、ビビビッと来た人を選ぼうかな。
パッと見た感じだと、全員肉付きもよく、健康そうだ。ヴィムが痩せすぎだったことを考えると、奴隷だからではなく、呪いのせいだったのかもね。
それにしても、ヴィム達の時は手枷付きだったのに、普通の奴隷は首輪以外手も足も自由な状態だ。首輪の性能がよほど良いのだろうか。
部屋に店主以外、店側の警備員もいない。奴隷が暴れたりしないのかな。
まず、面接するのはメイド候補の五人。
「ええと……名前はアイラ、19歳ね。メイド経験はどれくらい?」
「…………ぁ……ぃ……です」
ん? 声が小さすぎて、何も聞き取れなかった。
「……ごめんなさい。もう一度、話してくれますか」
「…………ぁ……ぃ……です」
「…………はい。分かりました」
突っ込んだらヤバいタイプだな。ここはスルーだ。次いこう。
「ええと……次は」
隣の女性に質問を移そう。隣に移った時、質問の終わった彼女がまだ何か言っていた。小さすぎて聞き取れないから、ごめんね、先に進みます。
「あなたはルーナ、17歳ね。メイド経験はどれくらい?」
「は、はい。一年間だけ貴族のお屋敷でお世話になりました」
今度の子はきちんと答えてくれてホッとした。
だって、隣でまだぶつぶつ言ってる人がいるんだもん。普通の子、ありがたいわ。
「得意なことは……」
質問を続けようとした時だった。
「何で! 何で! 何で無視すんのよ! どいつもこいつも!」
ぶつぶつ言っていた彼女が突然叫び出した。
私の髪の毛に掴みかかり、後ろに立っていたヴィムがその手を素早く叩く。数本髪の毛が抜けたけど、驚きが強くて痛みは感じなかった。
メイド候補の二人は後ろに下がり、きゃあと叫んでパニックになりそうな三人のメイド候補を宥める。
護衛候補から瞬時に二人の人物が動いた。
一人は鮮やかな赤毛の女性。私とリリアとレオナルドの前に立ち、もう一人の男性は素早く暴れる女をヴィムと一緒に押さえつけた。
なりふり構わずに手も足も動かして暴れると、男性でも取り押さえるのが大変そうだ。相手にケガをさせないようにするなら尚更だ。
「も、申し訳ございません!」
奴隷商館の主人が慌てて警備の人に、叫び続ける女を連れていかせた。
「お怪我はありませんか?」
赤毛の女性が声をかけてくれた。
「ありがとうございます。大丈夫です」
突然のことで胸が痛いくらいドキドキしてる。
奴隷商館の主人は、土下座でもしそうなくらいの勢いで謝罪しているけど、おかしいよね。
「奴隷って、あんなに自由に人に危害を加えられる物なの?」
ヴィム達を購入した時、主人に逆らったら自動で罰が与えられるって言ってたのに、主人じゃないと何も起こらないの? それはかなり危険じゃないだろうか。女性だからまだ良かったものの、大男に暴れられたらどうするんだ。
「いえ……普通はあり得ません……。マイカ様に掴みかった時点で罰が発動するはずです」
奴隷商の顔色が悪い。部屋の外でも何やらガヤガヤしているから、原因追求しているのだろうか。
まぁ、それは私がどうこうすることじゃないから、奴隷商館側が頑張らなけれいけない問題だね。
だけど今のことで、選ぶ人はだいたい決まったな。
メイドは冷静に対処出来た二人。護衛は俊敏に動いた二人。執事候補と最年長の男性は邪魔にならずに、ずっと落ちついていた。最年少の少年は騒がずに身を小さくして、自分の身を守ろうとしていた。
この七人はいいな。
一騒動あったけど、俊敏に判断出来ない護衛はいらないし、騒ぐだけのメイドもいらない。
よし、この七人に決定だ。




