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神様って図々しい

 気がつくと知らない場所にいた。

 白一色の何もない空間。


 ここはどこ、私は誰?


 ここはあまりに何も無さすぎて、場所を推測することが出来ない。


 名前は…。


 石川 舞華。22歳。会社員。


(良かった。ちゃんと覚えてる)


 最後の記憶は、会社帰りに歩道橋の階段から落ちたところだった。

 身体に痛みはない。

 けれど、こんな知らない場所にいるという事は、死んだのかもしれないな。


「石川 舞華さん」


 突然、後ろから名前を呼ばれて、思わず飛びあがりそうになる。

 振り向くと女性がいた。


(び、びっくりしたぁ)


 驚いたのは、私の他に他人の気配がなかったから。不意討ちの呼び掛けに心臓がバクバクしている。

 何となく恥ずかしいので、表情に出さないように頑張ろう。


(うわぁ。この人、すごい美人だ)


 私の名前を呼んだのは、白いスーツ姿に縁のない眼鏡をかけた美女だった。

 少し垂れ目がちなか水色の瞳。ぷりんぷりんな唇。髪は落ち着いた茶色なのに艶々で光沢があり、むしろきらびやかだ。

 豊かな胸元に、くびれたウエスト。タイトなスカートから覗く、ムッチリとした太ももが素晴らしい。

 まさしく美女だ。


(フェロモンの塊がいる……)


 美女は、ふふっと笑った。

 私の心の声が聞こえているの?


「石川 舞華さん。あなたは地球で死にました」


(おお! 声まで美しい…。

 ……いや、そうじゃなくて! 今このお姉様は何て言った?)


「ふふっ。もう一度聞きたいのね。いいわ。

あ・な・た・は・死・に・ま・し・た」


 美女は穏やかに微笑んでいる。軽い口調なのに、その言葉が冗談でないことは何となく分かる。


 そうか。死んだのか…。


 薄々、感づいてはいたけれど、やっぱりそうなんだ。

 意外とショックはないな。


「じゃあ、お姉様は天使? それとも神様ってことですか?」


「私はあなたのいた地球の神ではないの。

 でも、私の管理する世界の神ではあります。


 あなたは地球で死んで、その魂は私が預かりました。ちゃんと地球の神から許可はもらっているのよ」


 私の許可ではなくて、地球の神の許可なのか。

 何となく腑に落ちないけれど、神様に対して、一人の人間が抗議したってどうしようもない事なんだろうね。

 俗に言うブラック企業に勤めていた私には、痛いほど分かる。


「ふふっ。眉間に皺が寄ってるわ。

 さあ、今からあなたを生き返らせましょう。ただし地球ではなく、私の世界でね」


「拒否権はないんですね」


「あらあら、あなたにとっても、悪くない話だと思うわよ~。

 あなたが私の世界に行く見返りに、あなたの弟に『強運の加護』を授けましょう。きっと幸せな人生になるわ。


 どう? なかなか良い条件でしょう」


 確かに悪くないな。

どんな無理難題を言われるかは分からないけれど、唯一の家族の弟が『強運の加護』とやらで幸せになれるのなら、私の身柄なんて安いものだ。


「その話、お受けしましょう」


「ふふっ。話が早くて助かるわ。でもあなたなら、そう言ってくれると思ってたわ」


 神様はやはりとても美しい。

 話す内容は美味しい餌をぶら下げた悪魔みたいなのに。

 美人は得だな。


「私の世界の名前は『アズノール』

 まだ生まれて五千年程の世界よ。若い世界だけど、地球と比べて生活環境はまずまずだと思うわよ」


 生まれて五千年の世界…。

 すでに人間は地球と大差ない暮らしをしているのか。

 この神様はずいぶんと進化の過程を飛ばしたようだ。引き受けたものの、先行きが不安だ…。


「順調に発展しているんだけど、問題はお金なのよねぇ」


 色っぽい唇から、ため息が漏れる。


「アズノールの貨幣は私が作ったの。地球を参考にしてね。

 でもね、平民にはなかなか浸透しないのよねぇ。

 貨幣の多くが埋蔵金になっちゃってね、貨幣不足なの。正直、困ってるのよ。


 アズノールの貨幣を説明するわ。

 これから生活していく世界のお金だもの。必要な事だから覚えてね。

 地球を参考にしてるから分かりやすいと思うわ」




  銅貨………10ペリン。

  大銅貨………100ペリン。

  銀貨………1000ペリン。

  大銀貨………1万ペリン。

  金貨………10万ペリン。

  大金貨………100万ペリン。



(なるほど。紙幣はないんだ。

 ええと……お金の単位はペリンか。ペリン……なんだろう。ペリンって)


「え? だって硬貨をぶつけたら、ペリーンって音がするじゃない」


 …………。


 チャリーンと同じ事か。

 安直すぎないかとは、流石に思っても言えない。

 私の失礼な心の声は、恐らく神様には筒抜けだろう。けれど気にした様子もなく、話しを続けた。


「50年前に地球から一人の魂を預かったのよ。今のあなたと同じようにね」


 前任者がいたのか。


 その人は異世界に行くことになって、何を思っただろうか。

 異世界でどんな生活をしていたのだろか。

 今も異世界にいるのだろうか。


「その人はどんな人でしたか?」


「普通の人間だったわよ。お金の普及に一役買ってもらうつもりだったの。

 アズノールに行って欲しいって話したら、何か特別な力を授けて欲しいって言ったのよね」


 流行りのチート能力を、すでに50年前にねだったのか。

 異世界がどんなところか分からない以上、自分の身を守る力を求めるのは、ある意味仕方ないのかもしれない。


「どんな力を望むのか聞いたら、『どこでも好きな場所に行けるドアが欲しい』って」


(ああ。『どこでも○○』か。憧れる気持ちは分かる)


「あら。あなたにはどんな物か分かるのね。

 私にはどんなイメージか分からなくて、結局、2枚1組の『ドアの空間を繋げる力』を授けたのよ。


 人の本来持ち得ない力は魂に負担がかかるから、使いすぎたら駄目よって注意したんだけどねぇ」


 前任者は神様の忠告を無視して、どんどんチートなドアを作っては高額で売った。

 私腹を肥やすことが快感になっていったのだ。

 しかし力を使う度に、魂から生命力が抜けていく。


「5年で魂は消えたわ」


 前任者は欲に負けたのか。

 そして、その人が埋蔵金の原因か。

 私も大金を手にしたら、人が変わったりするのだろうか。


「人間に大きな力を与えてはいけないって学んだわ。だからあなたにも、人が持ち得ない力は与えられない」


「大丈夫です」


 そんな怖い力は必要ない。

 それより、流通する貨幣が足りなくなるくらいの埋蔵金とは…。考えると恐ろしいよ。


「大金貨が圧倒的に不足なの。大金貨の大部分が埋蔵金になっちゃったからね。

 対策として白金貨1000万ペリンを作ったけど、全然解決しなかった。対策を間違えたわ。


 二日酔いで仕事すると駄目ね」


 ん? 今、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がする。


「最近、神業界も厳しくてね。あまり世界に干渉するなってブーブー言われるのよぉ。だから、この問題に私が直接手を出せないの。


 そ・こ・で!


 あなたの出番よ。

 あなたの役割は、埋蔵金で豪遊して、お金をガンガン使うこと。簡単でしょ?」




(え? ……………無理かも)




 私は始まる前から、項垂れた。




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