第四話 リエちゃん
公園で出会った少年と同じクラスのリエちゃんは両親の3人家族である。リエちゃんは非常に可愛い女の子で両親も「自慢の娘だ。」と誇りに思っていた。
そんなある日のこと。
リエちゃんが風呂に入ろうとした。
彼女の家は一軒家で風呂の窓ガラスが道路側に面している。道路からその窓までは距離はあるが、通行人などに風呂に入っている姿が見えてしまったら困る。だから凸凹の入った窓ガラスを付けている。
リエちゃんがシャワーを浴びているときだった。
ふと窓ガラスの方に目を向けた。その窓ガラスにぼぅっと白いもやがふわふわ浮かんでいる。(何だろう・・・?)とその白いもやを見続けた。その白いもやは左右に行ったり来たりしている。凸凹入りの窓ガラスのため正体が分からない。
(もしかしたら誰かがのぞこうとしている?)
気持ちよく風呂に入っている自分の邪魔をされた感じがしていらっとした。
「何をそこでやっているの!」という意味を込めてその窓ガラスにシャワーをさっと掛けた。
するとぴたりとその白いもやの動きが止まった。リエちゃんの存在に気が付いたのだろうか。
「この変態!」とリエちゃんが叫んだときだった。
ぺたりとその白いもやが窓ガラスにくっついた。
左右の目玉をぎょろつかせてのぞきこもうとしている。
「キャーー!」
リエちゃんは叫んだ。
その白いもやはどうやら人の顔のようだ。無表情の白い顔がぺたりと窓ガラスにくっついている。
「リエ!どうした!!」と父親がリエちゃんの叫び声を聞きつけ風呂場へ駆けつけてくれた。
「変な人が窓からのぞきこもうとしてたの!」とリエちゃんが説明したときにはその白い顔はなかった。念のため父親が外から風呂場へ回り様子を見にいってくれた。しかしそのような人の気配はなかった。
そんなこともありリエちゃんは風呂に入ることが怖くなってしまった。
両親もかわいい娘が怖がっている姿をほっとけない。
父親はいいことを思いついた。
それは防犯カメラを設置することである。窓ガラス付近に防犯カメラを設置すれば、リエちゃんの言う変態に対してのぞきの防止につながる。さらに顔が分かれば警察に突き出せると思った。
防犯カメラを設置して3日が経った日のこと。
リエちゃんが気分よくシャワーを浴びていると例の白いもやが現れた。
「お父さん!」
リエちゃんは急いで父親を呼んだ。駆けつけてくれた父親が静かに外から風呂場へ回った。
「あれ?いない。」
父親は隠れられそうな箇所を全て探索したが誰もいなかった。
リエちゃんはぶるぶる震えている。
「今お父さんが見てきたが誰もいなかった。リエ、裸のままじゃ風邪をひくから服を着てきなさい。その間にお父さんとお母さんが防犯カメラを確認しとくから。」と父親はリエちゃんに言った。
リエちゃんは洋服に着替えて両親がいる部屋へ戻った。
「防犯カメラに写ってた?」とリエちゃんは両親に聞いた。
「うん・・・・」
父親の返事が重い。母親は何だか顔色が悪くがたがた震えている。
「どうしたの?」とリエちゃんは聞いた。
「何でもない。リエ、この映像はリエには見せられない。よい方法を考えるから安心しなさい。」と父親はうつむきかげんで言った。
(何があったんだろう・・・)
リエちゃんはよく分からなかった。
両親が寝静まったとき。
リエちゃんはこっそり両親のパソコンの電源をつけて防犯カメラの映像を確認しようとした。
(あ、これだ)
すぐ保存先が分かった。
(私に見せられないぐらいの映像なんだから、こんな分かりやすい所に保存しないでよね)
カチカチ、動画の再生をした。
上方から撮影された白黒映像が流れ始める。
再生から数分は何ともない映像が流れ続けたが、急に丸いもやが現れた。
「何だろう、これ・・・」
その丸いもやが左右にふわふわと漂っている。5分くらい経ったときそのモヤの動きが止まった。
「えっ!」
リエちゃんは声を思わず上げてしまった。その丸いもやは顔の輪郭に段々変わっていく。
その顔が窓ガラスに近づき、ぴたりとくっついた。
「ひっ!生首っ!」
リエちゃんは気持ちが悪くてしょうがない。
その生首がすっと消えた直後、確認をしにやって来た父親の姿が映像に映った。父親が一生懸命に探している映像が続いた。
翌朝リエちゃんは黙って見てしまったことを父親に話さなかった。
普段は笑顔が絶えない一家だが今日は皆無言だった。
その日の夕方のこと。
リエちゃんが帰宅すると家の中が騒がしい。
(何だろう・・・)
リエちゃんが部屋に入ると白い和服を着た女性が立っている。両親がその女性の前で正座して拝んでいる。
「お父さん、これ何?」
「リエ。今、悪い者を追い払ってもらっているんだ。もう安心しろリエ。」と父親は手を合わせ深々とお辞儀した。
初めての光景でリエちゃんは何だか気持ちが悪い。あまり見たくないので2階の自室へ駆け足で入った。
30分が経ったとき。
「リエー。降りておいでー。」と父親が呼んでいる。
「わかったー。」
リエちゃんは階段を降り両親がいる部屋へ行った。そこでは先ほどの白い和服を着た女性がスーツ姿に着替えて座っている。そしてその女性が、
「えぇ、お祓いが終わりました。これでリエさんの所には現れないと思われます。」と言った。
「これは一体何だったんですか。」と父親がその女性に質問した。
「これは生霊です。」
「生霊!?」
「はい。多分本人は気が付いていないかと思われます。」
「この生霊は誰か分ったりしないんですか。もし分かれば、その方に変な気を起こさないでくれって言ってきたいのですが。」
「その生霊が誰かは分かります。しかし大変申し上げにくいことです。驚かれると思いますがよろしいでしょうか。」
その女性はなぜかうっすら笑みを浮かべている。
「もちろんです!リエの学校の友達だったら許せない。なぁリエ!」と父親がリエちゃんの方を向いて言った。リエちゃんも「うん!」とうなずいた。
そしてその女性は一呼吸置いて
「その生霊・・・あなたなんです!」と父親に指を差して言った。
それ以来リエちゃんと父親の仲が悪くなった。
そしてリエちゃんは
「もう、あんな変態お父さんとは一言も話したくない!」と言った。