第一話 タケル君
タケル君は彼の父親の多額な遺産により金持ちの子らしい。
タケル君の家には友達とサッカーができるぐらい広い庭がある。そういうわけで「タケル君の家はお金持ちだからいいわよねぇ。」と学校内でうらやましがられていた。
ただそんな誰もが憧れるタケル君の家だが、唯一友人から嫌がられていた部分がある。それはタケル君の家には蜘蛛が多い。
タケル君の庭で友人数人とサッカーをして遊んでいた日のこと。
「ママがお茶を用意してくれてるから僕の家に戻ろうよ。」とタケル君は友人皆に言った。その言葉に誘われてタケル君の家に戻るとお母さんがお茶とクッキーを用意してくれていた。「ゆっくりしていってね。」とタケル君のお母さんがにっこりほほえんでいる。「いただきまーす!」とお茶の入ったコップを手に取ってみると「あれ?」と何かが浮かんでいる。
「うわっ蜘蛛だ!」
ぷかっと蜘蛛がコップの中で浮かんでいた。
また別の日のこと。
タケル君のお母さんが手作りクッキーをプレゼントしてくれ、そのお菓子をもらった友人が両親と一緒に食べようとしたときである。
さくっと割ってみるとひょろっと何かが突き出ている。「これ、虫の足じゃない?」と注意深くその足らしき物を取り出してみると蜘蛛の足のようだ。まぁ作っている最中に混入してしまったのだろう。しかし残りのクッキーも割ってみたが、なんとその足が残り全部にも混入されている。
結果的に10個クッキーをもらったのだが10個とも混入されていた。さすがに虫の足が入ったクッキーは食べたくない。その上もらったクッキーに全部混入されていたとなると、嫌がらせを受けているのかと思えてきた。
そんなこともあり、学校内でタケル君と関わらない方がいいという噂が広まった。
タケル君にもその噂が耳に入る。その上友人が自分から徐々に離れていく雰囲気もわかる。
タケル君はこの原因である蜘蛛をとても嫌がった。そのため異常発生している蜘蛛をどうにかできないかとお母さんに相談した。しかしお母さんは話を聞いてくれない。むしろ「蜘蛛を大事にしなさい!絶対殺してはいけないからね!」と厳しく注意された。
そんなある日のこと。
タケル君が浴室にいたとき、排水溝に1匹の蜘蛛がいた。タケル君はその蜘蛛を見て憎たらしく思えた。
近くにあった浴槽用の洗剤を手に取り、その蜘蛛に目掛けてプシュッと吹きかけた。泡の洗剤で姿が見えなくなりシャワーで洗い流した。別に蜘蛛が嫌いという訳ではないが、蜘蛛が原因で友人が自分から離れていくと思うと、1匹の蜘蛛を洗い流すことによってなんだか少し心が晴れた。
タケル君が浴室から出ると、
「ヒィィィーーーーーーーー!!!」と悲鳴が聞こえた。
「お、お母さん!?」
今までに聞いたことがない声だったためびっくりして飛び上がった。
「お母さん?」とおそるおそる居間へ行った。ドアを開けるとお母さんが倒れていた。「お母さん!お母さん!大丈夫?!」とタケル君は必死にお母さんを呼びかけ「どうしよう。誰かに助けてもらわなきゃ。」と立ち上がったときだった。
「たけるぅぅー、おまえ、なにしてくれたんだぁ。」
「え?」とタケル君が振り返ると、お母さんが非常に恐ろしい形相でタケル君を睨みつけている。
「うぇ。うげぇぇっっ。」とお母さんが吐き始めた。初めは水のような透き通った液体を吐いていたが、次第に洗剤のような泡をぽこぽこ口から吐き始めた。「助けは呼びに行かないでぇ。ママ、すぐよくなるからねぇ。」と目を真っ赤にしながらタケル君を呼び止めた。
1時間ぐらいタケル君はお母さんの背中をさすってあげた。お母さんも徐々に落ち着きを取り戻し「少しベットで横になってくる。」とタケル君に言った。階段を上るお母さんの後ろ姿をタケル君は見つめながら「これは普通じゃない。」と感じた。あの口から出てきた洗剤のような泡を思い出すだけで恐怖だった。
その日の夜のこと。
「ぐえぇ。ぐえぇ。」と声がする。その不気味な声でタケル君は目を覚ました。時刻は深夜の2時ごろである。
「何だろう。この声。」とタケル君は耳を澄ました。その不気味な声はどうやらお母さんが寝ている部屋から聞こえてくる。
「ぐぇぇ。えぇぇ。」
「お、お母さん?」
寝室のドアをそーっと開けた。
寝室は真っ暗で外の光がうっすらと射し込んでいる。
「あれ?」
お母さんの体とほぼ同じ大きさで布団が盛り上がっている。お母さんは布団にもぐっているのだろうか。
「お母さん大丈夫?」とタケル君はおそるおそる呼びかけたが返事がない。
タケル君はそーっと寝室の中に入ると床がびしょびしょに濡れている。不安になってきた。「お母さん!ねぇお母さん聞いてる?!ねぇお母さん!」と盛り上がっている布団まで近づいた。
布団が少し揺れたように感じた。
「お母さん?」とタケル君はゆっくりその布団をめくり、中をのぞいた。
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「え、その次は? で、どうなったの??」
「ここで終わりー。」と少年は答えた。
「なんだそれ。」と俺がぼそっとつぶやいたら、その少年は最後にこう言った。
「タケル君ね。その日からおかしくなっちゃったんだ。だって、僕のお母さんは蜘蛛だったんだって言うんだもん。人間が蜘蛛なわけないじゃんね。」と、少年はにやっと俺の方を向いた。




