二人の推理
その日から下里と雑談を交わしながら仕事をする事となった。三日目辺りで俺は初歩的な疑問にぶち当たる。
「図書部ってお前だけなのか?」
「確かもう一人いたと思いますけど幽霊部員ですね」
「そいつを含めても二人……ん?」
確か部活認定されるには部員が最低三人は必要だったはず
「ふふふ、気がつきましたか先輩。このままでは廃部ですよ」
「笑い事なのか?」
「元々怪奇探偵を見つける為に入ったので惜しくはないですけど、少なからず愛着が湧いちゃってますね」
「ならポスターでも作るか?」
「いえいえ、先輩の手を煩わせる事はありません。もし協力していただけるならここに名前を書いて頂けるだけで結構です」
「入部届じゃねぇか」
下里はそれを四つ折りにし、俺のポケットに入れ込む。
「良いお返事を期待してますね!」
「……まあ、考えといてやるよ」
*
「今日のお仕事おしまい! お疲れさまでした」
「本当に疲れた……」
「さてさて先輩、推理の時間ですよ」
「推理?」
探偵帽を被った下里が饅頭片手に立ち上がる。
「ひとねちゃんが何を考えていたのか、ですよ!」
「はあ……」
乗り気で無い事を見抜いてか下里は新しい饅頭を持って顔を寄せてくる。
「数日前に出会ったばかりの後輩にこき使われるこの状況、理由をしりたくないですか?」
「それをお前が言うのか。なんてメンタルだ」
「必要な事なのですから仕方なしです。わたしも心が痛いのですよ、涙が出ちゃいます」
そうは見えない。目頭に当てている袖は乾燥している。
「まあ、知りたく無いと言えば嘘になる」
「でしょう? じゃあ推理タイムです!」
下里は饅頭を一口で食べ、次を手にしながらマーカーを持つ。
「今日は凄い量食べるな」
「先輩もどんどん食べてください。頭を使うには糖分です」
しかし皿が見えないほどの量は要らないだろう。
「……本当の理由は?」
「賞味期限が昨日だったんですよ」
「えー」
「おや、先輩は賞味期限でもバッドなタイプで?」
「いや、そうじゃないけどさぁ……」
なんか、納得行かねぇ
*
「今のこの状況、私の右腕とどう関係あるんでしょうね」
ホワイトボードには『健斗sがくだりちゃんに使われている』と書かれている。
『s』は『先輩』の略らしい、わけわからん。
「そもそもひとねちゃんが作り出したかった状況はコレなんですかね?」
「どう言う事だ?」
「この状況にも色々な要素があります。もしかしたらわたしに使われる事より先輩が働く事に意味があるのかもしれないです」
なるほど、今回は曲解の話。しかし……
「ひとねは『絶対にこき使ってくれ』って言ってただろ? なら重きはそこにある筈だ」
「確かに」 そう呟いて下里は考えこむ。
噛み砕いた饅頭を飲み込む。賞味期限が過ぎてると聞くとなんだか美味しくないような錯覚に落ち入る。
言われなければ気づかなかったのに……
「……ん?」
言われなければ気づかない……?
「どうしました先輩、キラッキラに閃きました?」
「いや、特に」
こう言う何気ない事から閃いたら探偵っぽかったのだが、どうやら俺はどこまでも助手らしい。
「……あっ」
下里が声を上げる。
「何か分かったか」
「いえ、そうではなくて」
目線の先には時計。校内にチャイムが鳴り響く。
「下校時間ですよ、先輩」




