二人の推論
「さて、推理の時間ですよワトソン先輩」
「どっから持ってきたその探偵帽」
「この部屋にありました。誰のでしょうね」
早々に帽子を脱いだ下里はお茶の表面を息で冷まし、一口飲む。
「ところで先輩、何を推理すればいいんでしたっけ?」
「……そこに巻き戻るのか」
一々説明するのもめんどくさい。どうせすぐに忘れるし推理に差し支える事もない。
ひとねのやり方を思い出す。こう言う時彼女なら端的に、今回推理すべき事のみを言うだろう。
ならば、俺の台詞はこうだ。
「今回推理するのは件の予言『下里くだりの右腕は失われる』その文を変えずに、けれど曲解して実行する。その方法を探す事だ」
*
考えは出し切り、二人で冷たい茶をすすっていると疲れた顔のひとねが入ってきた。
「進展はどうだい?」
「一応、一つだけ案は出た」
「ならそれを私が検討しよう……これがそうかい?」
ひとねの視線の先にあるのは文字が乱雑に書かれたホワイトボード。
「もっと綺麗に書けないものかね」
視線が右往左往していたので余計な物を消していく。
「大体想像はつくが……一応内容を聞かせてくれるかな」
ホワイトボードに残った唯一の文に俺たちは目を向ける。
『身代わり人形大作戦』
*
「聞いて読んで見ての通り! わたしの腕じゃなくて人形の腕を失うの!」
「何も下里自身の腕とは言われていないからな。人形でも問題無い筈だ」
「ふむ……」
数分間の静寂。ひとねの手の中で回るマーカーが止まる。
「及第点、しかし安心は出来ないな」
「どう言う事だ?」
「この方法だと『下里くだりは人形の右腕を失った』とも取れる」
「正解かは件が決める。だから確実でないといけない訳か」
「まあ、一つの案としては優秀だ。下里さん、人形を用意しておいて」
「ラジャー! それなら他の案を考えないとですけど……もう下校時間ですね」
「そうだな、今日はとりあえず帰るか」
「その前に、一つ」
立てられた人差し指が俺に向く。
「健斗、君を解雇する」
「……へ?」
「先輩が無職にー!?」
「まて下里、俺はまだ学生だ。……でもどう言う事だ?」
「正確には一時異動だね。明日から君は下里さんの仕事のサポートをしたまえ」
「仕事? 仕事なんかあるのか?」
下里は左右に数回首を傾けて
「図書部の事?」とひとねを見る。
「そう、絶対にこき使ってくれ」
「何その念押し」
不満の視線を向けるがウインクで回避される。
「黙ってやりたまえ、必要な事だよ」