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ガワさえ合えば解となる

「予言について? 予言は予言だろ?」

「いや、件の予言は確実で曖昧なんだ」

「なんだか凄くホコタテだね」

「……矛盾って言いたいのか?」

「それです、それ、矛盾。矛盾してるよひとねちゃん」

 ひとねちゃん呼びに慣れていないのか何処かむず痒そうな顔をしてひとねは口を開く。

「分かりやすく言うと『件の予言は確実に当たるが、様々な解釈に対応している』と言ったところかな」

 少しの間の後、下里が顔を寄せてくる。

「先輩、分かりました?」

「何か言葉遊びしてるのは分かった」

「……じゃあ実例を交えていこう」

 ホワイトボードの埃が舞う。回すんじゃねぇ。

「ここに件に出逢ってしまったAがいる。件に予言されたのは……」

 ホワイトボードに文字が書かれる。


『二カ月後、Aの家が倒壊する』


「Aの家は高層マンションの最上階、甚大なる被害は避けられない……さて、どうしたと思う?」

「はい、はーい!」

 先に反応したのは下里。少し身を乗り出してまっすぐ手を上げる。

「周りに壁を作って倒壊しても大丈夫なようにする」

「二カ月で? それは難しいし、何より根本的な解決になっていない」

 むむう、と唸って下里は考えこむ。

「君は何か無いのかい?」

「そうだな……」

 Aさんの家が倒壊する事は確実。ひとねはさっき解釈がどうとか言っていたな。

「……倒壊するのはその高層マンションじゃなくてもいいのか?」

 ひとねがニヤリと音がするような笑みを浮かべる。

「ああ、そうだ。その家である必要はない」

「なら新しい家……マンションを売って、小さな小屋でも買って件の予言日までそこに住む、そうすれば倒壊するのはその小屋だ」

「正確だ、でも更に良い方法がある。マンションを手放す必要はない」

「……先に壊しちゃえば?」

 声を上げたのは下里、ひとねは満足そうに頷く。

「その通り。予言日になった瞬間、小屋を壊せばいい。そうすれば……」

 指されたホワイトボードが僅かに傾く。

「予言の一文は果たされる」


「それが解釈がどうたら、か」

「ああ、件の対策法はそれくらいしかない」

「でもでも、それが件の予言に沿ってるかなんて分かんないよ。間違ってたら……」

 確かに、件の一文と少しでもズレていれば一大事だ。

「それは確認できる。予言した件はすぐさま死ぬが、その死体は予言が果たされるまで残る」

「つまり件が消えれば正解、と」

「そう言う事だね。じゃあとりあえず……件の回収に行くとしよう」


 *


「この中に件がいたんだね」

「うん、怖かったからすぐ閉めて逃げちゃったけど」

「発見から今日で一週間だったね、保存状態も良いとは思えない。しかし……」

 ひとねが開いた百葉箱の中には小さな人面牛の死骸が横たわっている。

「あの時のまま……」

 木の棒で突いて、ひっくり返して、ひとねはこちらを向く。

「腐敗も死後硬直もない。コレが怪奇現象である証明になる」

 その棒を無造作に捨て、一歩下がる。

「健斗、回収したまえ」

「え? 俺?」

「私にアレを触れというのか?」

「そうですよ先輩、か弱い後輩女子にあんな物触らせたら犯罪ですよ」

「……か弱い?」

「おっと下里さん、私達は今侮辱されたぞ」

「ひどいです、モラルなハラスメントです」

「悪いと思うならさっさと取りたまえ」

 溜息をついてハンカチを取り出す。

「俺を敵にして意気投合してんじゃねぇよ」

 手のひらサイズの小さな怪奇現象を包み、潰さないように手に乗せる。

「これ、どうすんだ」

「とりあえず部室に置いておけばいいだろう。腐敗しないなら匂いもない」

「俺はいいけど……」

 俺の視線を受けた下里は小首を傾げる。

「ノープロブレムですよ? そんな弱い女に見えますか?」

「さっきか弱いとか言ってなかったか?」

 下里は少し考えた後、ワントーンほど上げた高い声になる。

「牛さんこわーい。くだり泣いちゃいます〜」

「電話に出た母親かよ」

「ひっどーい! 今おばさん扱いしましたねー!」

「死体とはいえ怪奇現象、ふざけていて落とさないでくれよ。二次災害まで対処しないぞ」

 雑談を交わしながら校舎に入ると放送が流れていた。この学校の廊下はよく響く。


『一年A組 藤宮ひとねさん。校内にいたら至急職員室まで来なさい。 繰り返します……』


 この声は数学教師の青葉だろう。冗談の通じない、真面目な女性である。

 誰に対しても敬語で話すが、さっきのは少し崩れていたな……

「青葉教師はご立腹らしいぞ」

「ひとねちゃん何したのー?」

「提出物を忘れていただけなんだけどね……幸い中身は完成している。私は職員室に寄ってから向かうよ」

 そう言って俺たちとは逆、職員室の方に数歩進んで足を止める。

「先輩の君に聞こう。長くなるかい?」

「開口一番で謝罪だ。少しは短くなる」

「経験者の知恵ってやつですね!」

「……それ褒めてる?」

「評価はしてます」

 ポケットから提出物であろう紙を取り出し。今度こそひとねは職員室に向かう。

「件については話し終えた。時間潰しに君たちも推理してみたまえ」

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