予言する幼牛
「と、いうわけだ」
「私を呼びつけるなんて偉くなったものだね」
まだ学校にいたひとねを電話で呼び出した。案の定機嫌は悪い。
「で、彼女が今回の……」
ひとねの言葉が止まる。見ると下里さんも固まっている。
しまった。二人とも一年生、気を使うべきだった。
先に動いたのはひとねだった。
「下里さんか」
「すまん、もしかしてクラスメイトだったか」
「いや、違うけどね。しかし彼女はクラスどころか学年内でも人気者だ。クラスが違っても知ってはいるさ」
「わたしもひとねちゃんの事知ってるよ! 入学式で代表だった」
「ああ、そういう意味では私も有名人か」
やれやれ、と言った風にため息をついてひとねは俺の横に座る。
「ここまで来て隠すつもりもない。私が怪奇探偵。……で、どんな怪奇現象に出会ったのかな?」
下里さんは何か考えるように空を見つめ、口を開く。
「わたしが見たのは……人面牛です」
*
「ちょうど一週間前かな、入学したし校内を見回ろうとアテもない探索をしていた時でした。校舎裏に百葉箱を見つけて……その中にソイツはいました」
「百葉箱? あの温度計の入った白いやつだっけか」
「百葉は牛や羊の胃という意味合いを持つ。現れたのが牛の怪奇現象というのには納得がいくね……ソイツから何か言われたかい?」
「うん『二度目の日曜、下里くだりの右腕は失われる』そう予言された」
ひとねの眉がピクリと動く。流石に今の違和感は俺も感じた。
「予言? 言われたじゃなくて予言?」
「そう断言するだけの理由がある……下里さん、君は怪奇現象の正体に心当たりがあるようだね」
「うん、違ったら困惑させるだけだと思ったから言わなかったけど……『件』だと思う」
「くだん?」
問いかけに対して返ってきたのは大きなため息。
「依頼者が知っていて探偵助手が知らないとは……」
ポケットのスマートフォンが揺れる。件とやらの資料が送られてきたようだ。
ファイルを開くと人面牛の絵が現れた。
「姿は見ての通り、大きさは様々だが基本的には産まれたてだ。産まれた『件』は一つ予言を残して死んでいく」
「右腕が失われる、か……どうにかできるのか」
「そう焦るな」
最後の饅頭を躊躇する事なく食べてひとねは立ち上がり、埃のかぶったホワイトボードに手をかける。
「まずは件の予言について、詳しく話すとしよう」