プロローグ
俺は高校二年生になり、家も引越しした。
ひとねが新しい家に入るのを機に持て余していた家を出たのだ。
学生支援をしてくれているアパートの隣どうしに住むこととなり、結局家事は俺がやるハメになっている。
「……まあ、とりあえず気持ちを変えて!」
今日は桜舞う入学式。どうしても出れないという友人の代わりに在校生代表の一人として出席する事となった。
特にやる事もなく座っているだけなので気も楽である。
体育館の設営は前日に終わっており、指定された椅子に座る。
しばらくすると綺麗に整列した新一年生が拍手に迎えられて入場する。
特に何もなく入学式は進んでいき、校長や在校生の挨拶に続き、新入生代表の挨拶が始まる。
この頃には俺も飽きており、体育館の壁にあるなぞの穴を数えていた。
新入生の挨拶など聞いておらず、そろそろ起立の合図でも来るかと前を向いて驚愕する。
目を疑う光景の中、新入生代表は挨拶を終え、締めの言葉に入る。
『新入生代表、藤宮ひとね』
「はっ……」
思わず出そうになった声を抑える。
俺は、その後の事を全く覚えていない。
*
教室での話も終わったらしく新入生が帰っていく。やはり同じ中学の人が固まってるだけで一人の人も多い。
校門で待ち構え、見覚えしかない顔を捕まえる。
「よう藤宮後輩、ちょっと面かせよ」
「入学式からいきなりだね、健斗助手」
*
俺たちは近くのカフェに入った。
「で、どういう経緯だ?」
「どういう事も何も数日前に言った通りさ。私はこの数年間記憶を失っていた、気づけば君に保護されていて詳細は分からない、と」
「いや、そうじゃなくて……高校に入学するとか聞いてないぞ」
「ちゃんと受験はしたさ。私があまりにも高得点を出すから編入新入生という扱いで入学さ」
「そんなのしていいのか……」
「よろしく頼むよ、先輩」
「その呼び方やめろ、気持ち悪い」
*
始業式が終わり一ヶ月程が経ったある日、ひとねの家で晩飯を用意していると何かを思い出したようにひとねが手を叩く。
「図書室のアレ、回収しといてくれ」
「ああ……そういや図書室にも置いてたな」
以前ひとねが作った怪奇探偵のチラシ。言われて図書室の怪奇関連の本に挟んでいたのだ。
「あれに書いてある連絡先は古いからね、回収しておかないと」
入学したんだからお前がやれ、と言いたいが言っても聞きはしないだろう。
「わかった、やっておくよ」
*
「あの……先輩!」
言われた通りチラシを抜き取っているといきなり声をかけられた。
「えっと……俺?」
頷いた女子生徒の学年章は一年の物。
「あの、その……放課後! お時間ありますか!」
「え、あ、うん、大丈夫だけど」
「じゃ、じゃあ放課後ここで……お願いします!」
返事をする間もなく女子生徒は走って出て行ってしまった。
少しの間呆然として、まさか、と口にする。
「俺に……春がきたのか!?」