月明りの下、夢のような
とりあえず導入を。
―――――天使がいた。
ふと目が覚めた時、目の前にきれいな女の子がいたなんて、信じられるだろうか。艶のある黒髪、女性らしいやわらかいシルエットが月明りに照らされて浮かび上がる。きっと俺は夢を見ているんだろう。目の前の彼女を見て確信する。必要最低限の布地で覆われた肢体、その臀部からのびる黒い尾。先はスペード型にとがっている。背にはコウモリのような羽が小さいながらもその存在を主張している。前言撤回。天使と思ったら悪魔だったようだ。
彼女はこちらを見たまま固まっている。夢の中とはいえ、男女の関係を持ったことがない俺にはここから先の展開を想像できないらしい。とても嘆かわしい。しかし、彼女はどこかで見たような気がする。やはり夢だけに俺の知り合いで都合をつけたらしい。とはいえこのような恰好をする女性の検討がつかない。
ふと彼女の口元をみると、ふっくらとした唇の右下に、小さな黒いほくろが見えた。そういえば、今日引っ越してきたときに挨拶したお隣さん、長い髪で目元が見えなかったけど、特徴的なほくろが同じ場所についてたよな。確か名前は……
「咲間さん?」
そう口にした瞬間、動かないと思っていた目の前の彼女は驚いた顔をして、その表情がぐるぐる変わる。面白いと見ていたら、頬に衝撃を感じると同時に俺の意識は底へ落ちていった。