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 学校が終わると、すぐさまデニスはグレンさんを連れて来て、地図を見せた。

「これでわかんないとか言われたら、俺たちは散々な目にあうことになる」

「そうか。それで、経緯を全部説明してもらえますか? 学校で騒がれてた鳥の獣人の人となんの関係があるんですか?」

 ニコニコとしながら聞くグレンさんにデニスは、うっと後ずさりして、私をちらりと見た。

「私の領の方で、獣人の権利や地位向上のための法案や活動をしようっていうのができていて、それに色々なところの人たちが賛同してくださったんです。でも、こちらのルート? っていうのにこの紙を渡さなくちゃいけないんです」

「ははあ、なるほどね。それで、ここがその場所だと。いいですよ。わかると思いますからついて来てください」

 私はこくりと頷いた。デニスは私たちから離れて「上の屋根とか人から目立たないところから行くから先に入り口あたりにでもいててくれ。こういうのは大人数じゃ怪しまれたりするからな」とだけ言って、壁をつたって、すぐに屋根の上まで行ってしまった。

 私とグレンさんは、すぐに歩き出した。デニスは勝手についてくると言っているのだし、その方がいいのだろう。グレンさんの案内の通りに進んでいくと、少し街から離れた閑静な住宅街に入って行った。グレンさんは地図を何度か見回した後「ここだね」と煉瓦造りの家の前に立った。数分、そこでデニスを待つと、彼は少し服が着崩れた状態で来た。

「どうしたの?」

「ただの喧嘩さ。屋根の上をハッてる野郎とちょっとやりあってさ。なんともないぜ、全員のしたし。ここだろ、入ろうぜ」

 デニスは躊躇せずに入って行った。建物の中も静かで緊張でドキドキしている音が聞こえてしまうんじゃないかと思った。デニスは鼻をスンと鳴らした後に、一つの扉の前に佇み、その部屋を開けた。中はがらんどうで誰もいない。デニスは少しの間、耳を動かし、鼻を鳴らした後、暖炉の煙突を登って行った。

「こっちだ。さっさと上がってこいよ」とデニスが煙突から呼ぶので、私たちも後に続いた。グレンさんは、レディーファーストをしようとして、私がスカートのことに気がついて、先に登ってくれた。私は最後に煙突を登って行った。煤は少ししかないようで、くしゃみもでない。カンカンとはしごを登った先には、さらに部屋になっていて、ドアがあった。デニスは煤を払って、ノックをした。

 中から、返事が聞こえて、私とグレンさんは顔を見合わせた。暖炉の屋根の途中に部屋があるだなんて。

 デニスは私たちに「おい」とだけ言って、部屋に入っていき、私たちもそれに続いた。中にはメガネをかけたほっそりとした女性がいた。彼女は、私を見ると「あら」と目をパチクリさせた。

「人間の女の子がくるなんて久しぶりだわ」

「あ、ジゼルと言います」

「ま、かわいらしい。あたくしはジミー。屋根裏のジミーよ。ネズミの獣人。あなたは? 人間かしら」

「え、ええ」

 デニスはドアの近くに腕を組んで壁に寄りかかっている。

「それで、人間の方がなんの用かしら? あの子とはどういう関係なの?」

「友達だよ、おばさん」

「あら、そう」とジミーさんは目を細めた。

 私は彼女に先生の手紙を差し出し、両親や領の話をした。彼女は頷きながら、手紙を読み終えて「こうなるまで、長かったわ」と言った。

「ようやくね。ずっとここでルートをやってたけど、こんなに嬉しい情報は久しぶりよ」

「そんで、ジミーさんは、やってくれるわけ?」

「ルートを? やるわよ、喜んで! これがちゃんと通れば、あたくしはこの部屋にいる必要はなくなるの。ここに窓を作れるのよ。やる以外にないでしょう」

「よっしゃ! 俺は仲介役したいんだけど、このお嬢様を領主様ってのにお頼み申し上げられてるから無理なんだ」

 ジミーさんはメガネを少し鼻にずらして、デニスを見上げて「手紙に書いてあったから大丈夫よ。他にも仲間はいるわ」とウィンクした。デニスはにっこり笑って、グレンさんの肩を掴み、前に出させた。それから「サイショーってやつの息子!」と紹介した。

 それにジミーさんは目を見開いて「な、んで? 宰相の息子なんかがいるの?」と掠れた聞いた。

「こいつ、獣人派の方だぜ。ここまで案内してくれたし、俺とジゼルが友人だって知っても、こいつジゼルに婚約もうしこみやがったくらいだ」

「ちょっと、デニス」

「振られましたけどね」

「グレンさん……!」

「ま」と彼女はまじまじと彼を見て「本当に信用できるの? そうは言われても、今まで、散々そういう人にここを壊されたのよ。辺境の方の人はそういう差別が少ないから安心だけど、王都の人は……」と言った。

「ジミーさんの心配はよくわかります。王都の人間はあなた方に冷たいですし、今までなにもしてこれなかった。僕だってそうです。父や母、諸貴族からの目でそんなことはできなかった。でも、そこに彼女がきた。僕は、今まで穏健派とだけ言って、なにもしてこなかった臆病者です。だからこそ、今、変わりたいと思っているんです。とても難しいことですがね。父も母もここの人間ですし、説得は不可能に近いでしょうし、そんなことを言えば勘当されてしまうかもしれない。しかし、そう言ってなにもしないのはおかしいでしょう? まずは、知ることから始めようと思って」

 ジミーさんは、あらまあ、と口をポカンと開けたままでいた。それにグレンさんは最後の一押しとでもいうように、全校生徒を唸らせる会長スマイルをしてみせた。それにジミーさんは肩をすくめて「そう。まあ、いいわ。裏切られるのに慣れてるもの」とだけ言った。

 彼女は立ち上がり「あとはあたくしたちに任せて。あなたたちは自由にしたらいいわ。ここから先は必ず、なにがあっても最後にはいい人生だったと思える将来があるから」と言って、私たちの背中を押した。デニスはジミーさんをじっと見つめて「さんきゅ。あんたらのおかげで、俺たちがいるんだ。気をつけろよ、王都はやっぱ危険だしな」と言った。彼女は彼の背中をバシン! と強く叩き「何十年ここでルートをやってきてるとおもってるのよ。心配いらないわ。あたくしは屋根裏のジミーよ。ずっと逃げ延び、生き延びてきたね」とデニスよりも少し大人びた笑みを浮かべた。

 私たちは彼女に頭を下げ、屋根裏から外に出た。

 デニスはすぐに屋根の上に向かって跳んでいき、私たちは並んで寮に向かってあるいた。

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