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少年と少女。  作者: 逢坂瀬奈
プロローグ
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2/6

転校生

転校生




「……ジリリリリリリ~!」

目覚ましの音。

窓から差し込む朝日。

外から聞こえてくる鳥の鳴く声。


昨晩好きな歌手の新曲を流し、テンションアゲアゲのまま夜更かしをした。

そんな私は目覚ましの音で一旦は目を覚ますも眠気に抗えずに目覚ましを止めると朝日を遮るように毛布を被り二度目の眠りについた。



「ほら、早くしないと遅刻するわよ!」

二階にある私の部屋の戸を叩き、怒声のような声でそういう母に声を掛けられ慌てて飛び起きる。

ベッドの横に置いてある時計を確認してみると時刻は7:30を指していた。

私の通う高校・私立峰北高校の始業時間は8:20だ。

自転車通学をしている私は少なくとも7:40に家を出なければ間に合わない。


「あ~!遅刻する~!」

掛け布団を押し退けベッドから飛び降りてクローゼットの中にあるクリーニング屋から返ってきたばかりの制服を取る。

着替えを済ませ慌ててリビングに向かう。


「なんでもっと早く起こしてくれなかったの!?」

「起こしたわよ。起きなかったのはあんただからね。

無駄なことばっか言ってないで、パン焼いてるからそれ咥えて早く行きなさい」

「はーい」


私は母に言われた通り机の上に出されたパンを咥えると玄関に向かった。

「いっふぇひふぁーふ!」

「はいはい、いってらっしゃい。気をつけなさいよ」


見送ってくれる母に背を向け自転車に跨った私は母に手を振ると足早にペダルを漕いだ。


「今日から高校三年生だ!」

パンを食べ終えてそう叫ぶと、好きな歌を口遊みながら自転車を漕ぎ学校へ。


通学路の途中、呆れたような顔で幼馴染み・新山朋花が待ってくれていた。

朋花を見つけた私は自転車を降り、急ぎ足で彼女の元へと駆けつけた。


「ごめんなさい……!」

そう。本当なら今日の朝は朋花と学校に向かうはずだった。

そう彼女と約束をしていたから。


「まったく……

始業式の日にあんたのお母さんに頭を下げられるのが毎年の恒例みたいになってるのってどうかと思うんだけど」


そう、昨年も一昨年も同じことをしているのである。


「ま、昨年まではこの時間にここにいなかったからそれに比べたら少しはマシだけど」

「えへへ~」

「言っておくけど、褒めてないからね?」

そんなことを話しながら校門に到着した。


この学校の校門を抜けた先にある校舎への一本道は通称《桜の花道》と呼ばれ近所でも有名だった。

母に聞いた話だとドラマの撮影にも使われたことがあるらしい。

春休みの間には花見の名所として一般開放されることもある。

そんな場所。



「わー!今年も桜綺麗だね!」

満開の桜を眺めながら明るい気持ちでそう声を上げた。


私が初めてこの桜を見た二年前。

入学式の朝、急ぎ足で辿り着いたこの場所にとても感動したことを思い出す。


そうして思う。

「私達、あと一年でこの景色ともお別れなんだね。最後だね」

「そうだね。もうお別れだ……って始業式が始まる前から何言ってんの。まだまだこれからだよ」


笑いながら朋花が励ましてくれた。

最後の一年を精一杯楽しもう。


そう心に誓った。




《桜の花道》を通って校舎に辿り着く。


「私、自転車を駐輪場に置いてこなくちゃ」

「あ、そうだね。じゃあ私は先にクラス表見に行ってるよ」


朋花と別れ、自転車を押して駐輪場に向かった。

所定の場所に自転車を停め、少し背伸びをしたあと校舎へ向かう。


私を待ってくれていたらしい朋花はとても笑顔で《3-A》と書かれたクラス表を指さしていた。

それでなんとなく自分のクラスが分かった。

1年生の時も2年生の時も朋花と同じクラスに慣れたことはなかったからとても嬉しくなる。


初めて同じクラスになれたことが嬉しくて二人でハイタッチをする。


校舎の中に入り靴箱で靴を履き替えて朋花と一緒に階段を上がる。



廊下で昨年のクラスメイトとすれ違った。確か元学級委員長をしていた人。


「委員長さん、おはよ~」

「お、おはよ……」


彼女は恐る恐る私に挨拶をすると逃げるようにして走っていった。


多分、朋花がいるからだ……。

そう、ここまで誰も私達に近づいて来なかったのは朋花がいるから。


私だからこそこうして接してくれている朋花は他人と接するとつい口調が強ってしまう。

朋花は趣味で染めた髪や巻き毛、生まれ持った吊り目のせいでギャルだとかなんとか思われているらしい。


比較的校則が緩いこの学校では頭髪等に規則はない。制服さえきちんと着てくれば特に注意を受けることはない。だから髪を染めたり、パーマを掛けてくる生徒は沢山いる。

朋花もそのうちの一人な訳で別にギャルだとかそういうのとは違うんだけどなあ……。


「あ、ごめん……」

委員長さんの態度から察した朋花が申し訳なさそうに謝ってきた。

「朋花が謝る必要はないよ」

暗い顔をする朋花の手を握りながらそう言った。

「……ありがとう」

手を握り返し笑顔でそう言った朋花を見て安心しながら教室に入る。



教室に入って数分も経たないうちにチャイムが鳴った。

教師の一人が始業式への指示を出し、クラスメイト皆で廊下に並んで体育館へ。

式が始まり、長い学校長の話の中「三年生は今年が最後になります」という一言を聞いて、将来について考え始めた。


私は何になりたいのか。何がしたいのか。

そんなこと何も考えてこなかった。


私は歌うことが好き。歌が好き。

でもだからといって歌手になれる訳じゃない。


なら、何にならなれんるんだろう。


そんなことを考えていた時に丁度学校長の話が終わった。



その後は校歌を歌って生徒代表の挨拶や各クラス担任の発表などをして始業式が終わった。



将来…、将来かあ……。

やりたいこと見つけたいな……。


ずっとぼんやりと考え込んでいた私は体育館から教室へ戻る途中に皆とはぐれてしまっていたらしい。

気づけば職員室の前に来ていた。


「教室に戻ろう」


思った時だった。

この学校の男子達と同じ制服に身を包み、黒縁の眼鏡をした灰色の髪をした少年とすれ違った。

三年生の中では今まで見たことない気がする。

ということは二年生だろうか。



そう思いながら教室へと足を進めた。


教室に戻ると朋花が慌てて駆けつけてきた。

「もう、どこ言ってたの。なかなか教室に戻ってこないから心配したじゃん」

「あはは、ごめんね。考えごとしてたらいつの間にか職員室前まで行ってた」

「なにそれ……しっかりしなよ」


朋花と話をしていると新しい担任の先生が入ってきた。

自己紹介の後、今学期の試験の話や行事の話を簡単にしたあとでホームルームが始まる。


「クラスの役員決めをする前に今日は転校生を紹介します」

担任がそう言った途端、教室内が騒がしくなった。私も含めて。

男か女か。顔はかっこいいヤツか可愛い子か。身長は高いか低いか。


話が合えばいいな。

そんなことを思ってわくわくする。



「さ、入ってきて」

そう言った担任の先生に促されるままに入ってきた彼を見て周囲は沈黙した。


私以外は。


「ああ!さっきの!」

驚いて席を立ち大声をあげてしまう。


さっき私が職員室前に居たなんて知らない担任の先生も私を初めて見た転校生の彼も当然不思議そんな顔をするばかり。クラスメイト達もビックリして私のことを見てる。


教室中の視線が私に集まっていることを自覚してなんだか恥ずかしくなった。

「す、すみません……」


そう言って静かに座る。


担任の先生が場を持ち直すようにして続けた。

「さ、じゃあ自己紹介をして」

少年の肩を軽く叩き、少年の背後へと下がった。


少年の声が聞けることになんだかワクワクしてしまう私は少年の言葉を待つ。

そして


「あ、えっと。僕の名前は春川千尋です」


そんな短い自己紹介に感動していたのは私だけらしく、クラス中は冷たい空気になっていた。


周りから「ちっ、期待したのに……」「冴えねえやつ」「イケメンどころかただのメガネ……」「まあ、こんなもんだよな」

そんな声が聞こえてきた。


「み、皆なんでそんなことを……」

「はい!春川くんの自己紹介もこれで以上になるかな。春川くんの席はあそこね。

じゃあクラスの役員を決めましょうか!」

私が抗議しようとしたところを上手く遮り、担任の先生は話を進めた。

クラスメイトは春川くんを気にするでもなく先生の話に耳を傾ける。

私の中には不満が残る。


私は席に着いた彼に目を向けた。暗い顔をして鞄からノートと筆箱を出す。筆箱かや鉛筆を出してノートに何かを書き始めた。


私はこの時から彼のことが気になって仕方がなくなっていたのだと思う。



クラスの役員決めが終わり、チャイムが鳴る。

漫画の転校生のように人が寄る訳でもなく、ただ一人で机のノートに向かう春川くんに声を掛けようと近づこうとした。


「ねえ、喉乾いたからさ。自販機に飲み物買いに行かない?」

そんな時に丁度いいタイミングで朋花が声を掛けてきた。

「……あ、うん。行こっか」


彼に声を掛けたかった私自身の気持ちを無視して私は朋花についていった。


もどかしい気持ちでいっぱいだった。

彼を快く迎えてあげないクラスメイトへの怒りや彼を一人にしてしまう周囲への不満。



午前中しかなかった日課が終わり、結局彼に声を掛けることも出来ないまま悔しさに泣きながら満開の桜を眺め、校門を抜けた。


頬に泣き跡を残し、家に帰った私は母に挨拶もしないままに部屋に閉じこもる。





結局そのまま彼に声を掛けることも出来ず、一ヶ月が経った。




キリがいいところで少し短めにしました。

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